第86話:海上戦線
白雪がお腹にグッと力を入れて、海面で背中を丸め跳ね、思月を空中へと飛ばすと、思月は銛を構え狙いを定める。
大きく海面が盛り上がり、巨大マグロが口を開き飛び掛かってくるその口目掛け、銛を投げ突き立てると、落下地点に回り込んだ白雪の背に降りその場から離れる。
「何でもいいのです! 武器になりそうなものを寄越して欲しいのです!」
漁船の前を通る思月に銛が投げられ、それをキャッチすると、海面で暴れる巨大マグロの腹目掛け、海面スレスレに銛を投げ突き立てる。
「白雪、一定に留まったら漁船が狙われるのです。ランダムに動きながら武器を調達していくのです。
海底に潜らせないように、時々白雪が下から牽制してほしいのです」
【了解なのよ】
漁船から投げられた包丁を2本キャッチすると、逆手に持ち構え白雪と共に巨大マグロに突っ込む。
2人の姿を見た巨大マグロが、背ビレを立て左右のエラを広げる。エラの両方とも正面が鋭い刃物のように変化しており、2人を切り裂かんと向かってくる。
衝突寸前まで引き寄せ、思月は跳んで巨大マグロの背に飛び乗ると、背中を走りながら包丁を振るい、6本の閃光が走り抜ける。
「最悪なのです。包丁の刃が欠けたのです」
刃がガタガタになった包丁を、背中に投げるが刺さることなくバウンドして海に落ちていく。
一方白雪は下に潜り、巨大マグロの懐入り込むと、海上で攻撃している思月の存在を感じながらぐるんと回転し、腹に刺さっている銛を尾ビレで叩き更に深く打ち込む。
白雪攻撃に背を丸め、跳ねる巨大マグロの背を蹴って海面に降りると、それに合わせたようにやって来た白雪の背に乗る。そのまま泳ぎ別の漁船に向かうと、数本の銛を渡してくれる。
海面ギリギリを泳ぎ再び突っ込むが、今度は巨大マグロも警戒してか向かってはこないで、体全体で海面に大きく円の水飛沫を描き、向かってきた思月たちを撥ね飛ばす。
その攻撃に腕に傷を負った思月と、左側の背を切られた白雪が対角に飛ばされそれぞれが、海面に水飛沫をあげるが、白雪はすぐに海中でくるりと回り、体勢を整え巨大マグロの側面に体当たりする。
巨大マグロが白雪に気を取られた瞬間、反対側から海中にいた思月が銛を突き立てると、海中にバッと広がる血。その攻撃を受け、巨大マグロは水中で大きく円を描き、2人を尾ビレで切ろうするが、白雪が素早く泳ぎ思月を咥えて海面へと逃げる。
「おーーい!! こいつを使ってくれえ!!」
2人が顔を出したところにいた漁船の上で、銛を振りながら叫んでアピールするおじさんたちが近くにいたので、手を上げると投げてくれる。受けとると、おじさんたちの応援を背に再び海中へと飛び込む思月の足の裏を、白雪が頭で押して海中を一匹の魚のように泳ぎ進む。
大きく口を開ける巨大マグロの脇に入り込み、銛の先端を突き立てるとそのまま真っ直ぐ泳いで巨大マグロの体にラインを引く。
思月が海中でくるっと前転して海面に頭を向け銛を構えると同時に、白雪は海底に向かって一気に潜ると、弧を描き向きを変え急上昇し、思月の足を押して、巨大マグロへ突っ込む。
そのまま顎下から突き刺し泳ぎ進み、銛を食い込ませていく。
海面まで上げようするが、激しく暴れる巨大マグロによって銛の柄が折れ、思月と白雪が弾かれ沈んでいく。
弾かれた勢いに口から空気が漏れる思月の襟を咥え、急浮上する白雪に向かってくる巨大マグロは大きく口を開く。
ビシッと音が響き、口に十字の亀裂が入ると、4つに割れた口を更に大きく開く。
【うぎゃあああ!! 気持ち悪いいいっ!!】
叫ぶ白雪は全力で浮上するが、巨大マグロの口の中心から触手が伸び向かってくるのを見て、思月を頭で思いっきり押し上げると、自分は巨大マグロの方へ向かっていく。
白雪を捉えようと伸ばす触手を体を捻りながら避け、回り込むと何度も体当たりを繰り返す。
【口が大きく広がったから旋回が遅くなってんのよ! 背ビレとエラの意味もないじゃんよぉん!! バカなの、おまえバカなのよ!!】
悪態をつく白雪は更に激しく体当たりを繰り返しているとドォン! っと音が海面から響き、大きな波紋を広げゴボゴボと沈んでくる無数の鉄の塊が目に入る。
【
上からゆっくり落ちてくる錨を巨大マグロはなんなく避けていく。錨は海底に落ちると鈍い音を響かせ、砂を舞い上げる。
落ちた錨の鋭利な湾曲した爪を見て、これが何かを閃いた白雪が、巨大マグロに体当たりをすると、尾ビレでベシベシとバカにしたように叩く。
バカにする白雪を、反り返った口のせい正面から見れない目で睨む巨大マグロ。その目には怒りが宿っている。
【ぷぅ~くすくす、見えづらくなってんじゃんよぉ。そんなんで白雪を捕まえれるかしらぁん?】
もう一発尾ビレでペチッと叩くと、海底へ逃げる白雪を口を大きく4つに開き追いかけてくる。
伸ばしてくる触手を必死に避けながら、多くの錨が巨大マグロの下に来るように位置を調整する。
【きたのよっ!】
一本の錨の鎖を咥えぐいぐいっと引っ張る。
* * *
海面の板に立ち目を瞑り集中する思月。波打つ海の上に立っている彼女を見て、漁師の人たちは幼いながらも美しい出で立ちと、自ら傷つき驚異に向かうこの子は海の神じゃないかと思う者までいた。
ただ今は静かに海面に立つ、その集中を邪魔すまいと、誰一人声を出す者はいない。
思月は静かに月が満るようにゆっくり目を開く。
「くるのです。錨を上げる準備をお願いするのです!」
その言葉に思月の神々しさに見とれていた漁師たちは慌てて、錨を巻き上げる
一本の鎖がぐいぐいっと引っ張られる。
「今なのです!!」
一斉に巻き上げられ始める鎖、何艘かがガンッ!! と大きな音を立て、巻き上げるドラムが止まると、船体が傾き海中へ引っ張られ始める。
「掛かりがねえやつらはもう一回沈めろ! おいっ!! 引っ掛かったやつら水深は!!」
漁師のおじさんが叫ぶと、船が水中に引っ張られまいと四苦八苦している漁師の1人が鎖を見て叫ぶ。
「30! 今、水深30でまで巻き上がっている!!」
「聞いたか!! 30以下に沈めろ! そこからも一回いくぞ!」
漁師のおじさんが叫んだとき海中からシャチのぬいぐるみが大きく飛び跳ね、舞った水飛沫が降り注ぐ。その水飛沫を浴びながら海の上に立つ少女は静かに口を開く。
「スーが行くのです。合図を出した錨から巻き上げてほしいのです」
宙を舞っていたシャチのぬいぐるみは、思月の背中に飛び乗りヒレを首のまえで交差ししがみつく。
シャチのぬいぐるみをおんぶする少女、冷静に見ればただ可愛いだけだが、今の漁師たちにはシャチを使役する女神にしか見えない。
そして、
【がしゃ~ぁん!! スーと白雪きゅ~ちゃーーん、ばあぁ~ジョン!! 合体!! なのよぉ!!】
そんなことを神々しさを感じているシャチが叫んでいるとは、知る由もないのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます