第85話:協力者たち
思月が漁師に銛を渡されていると、船のそばに白雪が浮かび上がってくる。それに一瞬漁師のみんなが驚くが、巨大マグロではなく、シャチのぬいぐるみと知り安心する。
【ぶふぁぁ、息してないけど苦しいわぁ! ス~、白雪充電切れなのですよぉ~、受電してぇ~】
思月が白雪の背中に飛び乗ると、手を当て白雪に充電と思月の魔力調整を互いに行う。
「白雪、その体でどれくらい戦えそうなのですか?」
【ん~、正確には分かんないけど、30分程度じゃないかな】
「了解なのです。スーの攻撃を確実に当てるためにも、海の上にやつを出す必要があるのです。水中からの攻撃は白雪に任せたのです」
【おうけいっ! 白雪に任せてくださいなっ☆】
思月を背中に乗せ、白雪が海面を切り裂きながら泳ぐ。
【右下からこっちに突っ込んでくるっ、白雪は左に旋回して回り込んじゃうよ】
白雪は海面で跳ねて海中に潜り、思月は背を蹴り漁船の破片に飛び移ると銛を構える。
海中で白雪が体当たりをした音がドンッ! と鈍い音を立て響き海面に大きな影が浮かび上がった瞬間に銛で突く。
海面の一部が赤く染まるが、黒い影は銛ごと水中へと潜っていってしまう。
すぐに白雪が浮上してきて、思月が飛び乗り、巨大マグロを追い進むと、さっきの漁船のおじさんが何やら叫んでいるのに気づいたので、近付いていくと新たに銛を2本渡される。
「俺らの船にはこんだけしかねえ。他に漁船にも呼び掛けてみるから、あの人食いマグロを仕留めてくれよな」
よく焼けた黒い顔で、白い歯を見せるおじさんがニカッと笑う。銛を受けとると思月も笑顔を返す。
「任されたのです」
白雪が背ビレで水を切ると、下から上がってくる巨大マグロが思月たちをとらえる。
【スー! あいつなんか形が違う!?】
「え? 何を言っているのです?」
海中がハッキリ見える白雪の目に映る巨大マグロは、背ビレが大きく広がり刃物のように鋭く、エラを羽のように大きく広げ、海中を飛ぶよう突っ込んでくる。
「白雪! 下へ回り込むのです」
【スーは!?】
思月が白雪を押し退けるように背中を蹴ると、銛を振りかぶり全身を使って、海面から飛び出してくる巨大マグロの頭に銛を突く。
海中を動いたときの水を切る音で、体の形を把握し白雪を蹴って巨大マグロが攻撃しようとした位置をずらし、逆に思月はピンポイントで相手の頭に銛を突き立てる。思惑通りなのだが、思月は悔しそうな表情を見せる。
「ぐぅぅ!? 刺さらないっ!!」
頭から背にかけ、銀色に輝く小さな鱗が銛の先端を止める。巨大マグロが笑ったかは分からない。
だがそんな雰囲気を醸し、頭から潜り海面でぐるん回ると鋭くなった尾ビレで思月を切り裂く。
銛でガードするが宙に浮いた状態では完全に避けきれず、左肩から血を吹きながら海に落ち、小さな水飛沫をあげる。
思月を追撃をしようとする巨大マグロの尾びれのつけ根に、白雪が噛みつき必死でそれを阻止する。
【ぐうううっ行かせない!!】
巨大マグロが尾を激しく振り、白雪を海底へと撥ね飛ばすと標的を白雪に切り替えたのか白雪めがけ泳いでいく。
【へ~んだ! キューちゃんモードの白雪に向かってくるとか命知らずめぇ!】
背ビレ、エラを広げ切り裂こうとするのをギリギリで避ける。
【ひぃぃぃっ!? 危ないじゃないのよぉ】
キレ気味な白雪が方向転換し、海底に向かって急速に沈むと追いかけくるのを岩場を縫うように泳ぎ避けていく。
岩場ごと切り裂いて海底に砂ぼこりが舞い上がる。海底に落ちていた思月が持っていた、もう1本の銛を口に咥えると、砂ぼこりを切り裂き突っ込んでくる巨大マグロの下に潜り込み、顎を上げて下から腹を突く。
砂ぼこりに混じる赤色に突っ込み、巨大マグロの腹に頭突きを食らわせる。
【かたああああいっ!! 頭が痛いのよ! バカになったらどうしてくれんの】
怒り狂い襲いかかる巨大マグロに対して、再び海底に向かって泳ぎ岩場を逃げ回る白雪は、海面で思月が、漁師に引き上げられるのを見てもう少し逃げ回って時間を稼ぐことを決める。
* * *
海に落ちた思月の元へ漁船が駆けつけ、引き上げる。
「おい、お嬢ちゃん大丈夫か?」
「海水がしみるくらいで大丈夫なのです」
「ああん? 全然大丈夫じゃねえだろ。結構深いだろその傷。下がってろと言いたいが、今の状況見たらお嬢ちゃんとイルカに頼るしかないのか……ちょっと待ってろ」
白雪のあれはシャチなのです。という暇もなく、漁師のおじさんは船内に戻ると包帯を持ってきてぐるぐる巻きにされる。
強引に巻かれた包帯と、歯を見せ笑う漁師のおじさんに、思月は安堵感を感じる。
そのとき思月の乗る漁船に、他の船が近づいてくると漁師の人が叫ぶ。
「おい! 他の船にも呼び掛けてきたぞ!」
「わりいな、どれくらい集まりそうか?」
「無線とか使えねえから分かんねえけど、10隻くらいは集まるんじゃねえか」
おじさんたちのやり取りを見て、キョトンとした表情の思月に、おじさんは再び笑顔を見せる。
「お嬢ちゃんみたいに戦えないけどよ、足場ぐらいにはなれるし、ちょっとぐれえなら俺らも攻撃できるってもんよ」
「いえ、でも危ないのです」
「どのみちレーダーも無線も使えねえ。エンジンしか動かない船で逃げ回っても仕方ねえだろ。それにな魚を目の前にして逃げる漁師がいるかってんだ!」
そういって思月の背中をバシッと押したとき、白雪が海面から飛び出てくる。
【あいつしつこいのよ! ああいう男は嫌われるってなんで分かんないのかしらっ。もう白雪あいつキライっ!!】
文句を言う白雪の背に思月が飛び乗ると、魔力を充電する。
「時間的にもそろそろ限界なのです。漁師さんも協力してくれるそうですから早いとこ決めるのです!」
【おうけぃ! いっちゃおうか!】
漁船をバックに2人は、海底から上がってくる巨大マグロの影を睨む。
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