第74話:シュナイダーの厄日
夕食のときの我が家は、テレビがついている。なんとなく流れ、耳に入ってきて気になる話題を話す、そんな家庭である。
ここ最近、変な事件が多いから特に注意して聞くようにしている。
『先日、地下ケーブルの断線によって停電していた地域に、3日ぶりに電力が供給されます。町の人の声です──』
このニュースに反応したのはママである。
「お義父さんの
「ん、ああ今日は機械の点検とか準備がメインで、明日から本格的にやるって聞いてるけど。突然停電してダメになった製品もあるらしいから大損だって言ってたよ」
ママとパパの他愛ない会話。3日前に起きた突然の停電。原因は地下ケーブルの断線なのだが、ケーブルを
だが宮西くん曰く、このケーブル結構太いらしくネズミが噛って断線させるのは難しいとのこと。
頭に過る前に戦ったネズミ型宇宙人ラットン。複数体いるなら可能性はある。
「詩、最近変な事件多いから気を付けるんだよ。パパ心配っ」
「ありがとうパパ。でもね私はパパも心配だよっ」
「な、なんて良い子なんだ詩!? 可愛いだけじゃなく優しい詩! よーし、今度欲しいものがあったら──」
ドンッ!! っと音がしてテーブルの食器が驚いたように跳ねる。私とパパの視線の先には鬼の形相で威圧して睨むママがいる。
ピンポーン
チャイムの音が響いたときのパパの動きは早かった。サッとインターフォンの前に立ち、玄関先の訪問者と会話を始める。
「──あ、はい。宇宙防衛? ああちょとお待ち下さい」
ちょっと不思議そうな顔をしたパパが玄関に向かって行く。なんか「宇宙」って単語が聞こえた気がする。気になる私は耳に集中して玄関の音を拾う。
──はい、最近物騒な事件がこの付近でも多発してまして。公安の方だけではちょっと手が回らないんで、暇な私たちも手伝っているんですよ。
──ああ、そうです、そうです。結構テレビで話題になってたでしょう。宇宙防衛がどうとかって。
──そういえば、鞘野さんのお宅は、外にりっぱな犬を飼っていますよね? いつもと違う行動、そうですね吠えたり、繋いでいた鎖を外して出ていったりとかはないでしょうか?
──ああいえ、最近そういう通報が多いんですよ。ペットが普段しないような行動をとる、大人しい犬が暴れたり、突然逃げ出したりなんてことをよく聞くものですから、念の為。はい、何かあればこちらに連絡してください
必要そうな情報をまとめた結果こんな感じだ。訪ねてきた人物に大体の当たりをつけながら、どうしたものか考える。
そうこうしているうちに名刺を持ったパパが戻って来て、玄関先での話をしてくれる。
「シュナイダーは賢い犬だからな、突然暴れたりして人を噛むことはないと思うけど」
「そうね、人だけでなく動物にも優しいって評判なのよ。この間5匹の猫がお庭に来て、横一列に並んでシュナイダーとお話してるの見たの」
パパとママの会話を聞きつつ、名刺の『
* * *
「よしいくぞ。ってお前普通に犬と遊んでんのかよ」
坂口が玄関先での会話を終え、外で待っていた小椋に声をかけると、大柄な犬シュナイダーとじゃれる姿がそこにはあった。
「坂口さん、この子賢いんですよ!」
「あ? この間の犬と一緒かどうかを、見ろって言ったろ?」
シュナイダーと肩を組んだ小椋は、2人一緒に坂口をキラキラした目で見る。
「ほら、こんなに大人しい子ですよ。目もまん丸で少女漫画の女の子みたいですし、体が大きいだけで前の犬とは別人ですって」
「そうかぁ?」
訝しげな表情でシュナイダーに顔近付け睨む坂口。
「この犬こんなに顔近付けても嗅いだり舐めたりしないんだな。実家で飼ってるけど、大抵誰でも嗅いだり舐めたりするけどな。お前なんかやられたか」
「そういえばオモチャで遊んだりはしましたけど、そんなことやられてないような……」
その時ベロリンと坂口の顔が舐められる。
突然の不意打ちに驚き、目の前の犬の顔がひきつっているなどとは知るよしもない坂口。
「恥ずかしがり屋さんなんですよ。坂口さん家の犬がすべてじゃないんですから、色んな子がいますって。なぁー?」
小椋に問い掛けに小椋もベロリンと舐めるシュナイダー。
「もうくすぐったいぞ! ほらほら、こんなに可愛い顔してますし前の犬とは違いますって。助けてくれた犬はもっと迫力ありましたし」
「う~ん、そうかぁ~?」
今一納得のしていない、そんな感じではあるが、人様の家にいつまでもいるわけにもいけない。坂口たちは鞘野家を後にする。
この後、飲み水で口を
* * *
星の瞬きが町のネオンに掻き消される夜。エーヴァとアラは喧騒の中を歩く。
澄ました顔で歩くエーヴァに対し、アラは小さくキョロキョロしながら目を輝かせ、町の風景を見てどこか落ち着かない。
「お嬢様いっぱい買いましたね。日本は物に溢れているので目移りしてしまいますね!」
紙袋を大量に手に下げたアラがエーヴァに楽しそうに話しかける。
「ええ、見ているだけでも楽しいものね。ところでアラ、荷物くらいわたくしも持つわよ」
「い、いえそんな! これくらい大丈夫です。実はお嬢様に隠れてコッソリ筋トレしてるんです。ほらっ!」
両手に持つ荷物を掲げ、力があるアピールをするアラを見て微笑むエーヴァ。
「それならお任せするわ。でも靴はもっとヒールの低いものになさい。よろけてますわよ」
足元を見て笑いながら、ちょっと罰の悪そうな表情のアラ。
「ところでアラ? 今日の夕食はなにかしら?」
「お嬢様が前から食べたがっていました、カップラーメンです! 旦那様からは禁止されたいましたからね。もちろん、これは内緒でお願いします」
「ええ、もちろんですわ。早く食べたいわね……そうね、そこのタクシーを使いましょう」
アラがエーヴァのいうタクシーに近付き、行き先を告げて荷物をタクシーのトランクに載せると、先に乗って待っているエーヴァの隣に乗り込むアラ。
「お嬢様これですぐに──」
アラの視線の先にエーヴァは存在せず、なぜか外から運転手に話しかけるエーヴァ。
「わたくしは詩の家に忘れ物をしましたわ。アラ、先に帰って美味しいカップラーメンの作り方練習してなさい。運転手のおじ様、出発してくださるかしら?」
「えっええええ!? ちょちょとお嬢様? お嬢さまあああぁぁ」
驚くアラを乗せタクシーは走り始める。それを見送ったエーヴァが飲み屋街の方を睨み、闇に消える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます