貪欲に奴らはやってくる
第73話:改めて自己紹介
「えーと、あなたがミヤニシ……言いづれえから、ミヤで良いかしら?」
土曜日のお昼に私の家に集まった私たちは、自己紹介を改めてしている...
シュナイダーも絡むので、我が家の庭にてお話中なのである。
時々地が出るお嬢様に見つめられ、ガチガチに緊張する宮西くんを指差しながら私に聞く。
「なあ詩、ミヤはお前の男なのか?」
その言葉にズガビーンって感じで、宮西くんが硬直している。人間、あんなに真っ直ぐになれるんだ。ちょっとビックリ。
「なに言ってんの。違うよ」
宮西くんがへなへなと崩れていくのを、美心は楽しそうに見ている。
「宮西くんはね、2次元の女の子が好きなんだから。この前教室で部活の子達と集まって、スマホで画像見て楽しそうに話してたよ」
「2次元? ああなんだっけ? 萌えとかいうやつか。日本に来る前に文化だって習ったな。あれが好みねえ、はぁ~ん、まあ良いけどよ」
「愛の形は色々だって! 邪魔するのは不粋ってもの」
倒れて痙攣する宮西くんを見て、美心はお腹を抱え大爆笑している。凄く楽しそうだ。
「んでぇ、お前がシュナイダーだっけ?」
シュナイダーは、エーヴァの圧に
この変態、実に積極的であり勇敢である。
「お前は、イリーナの生まれ変わりなんだな。驚いたぞ、なんと美しくなったものだ。どれ一つペロリと──」
シュナイダーの頭蓋骨がメキメキと音を立てる。
「こいつ、本当にガストンの転生なのか? あたしが覚えているのは、真面目で面倒見のいいおっさんだったけどな。そもそもなんで犬なんだ? 人間に絶望したとかか?」
最初の私と同じようなことを言うエーヴァに、ガストンがシュナイダーに転生するまでの経緯を説明する。
最初は面白そうに聞いていたエーヴァが、段々引き気味になっていく。ちょっと面白い。
「おい、こいつ、ヤバイんじゃねえか?」
「あ、うん。多分今はシュナイダーの命がヤバイと思う」
エーヴァに頭を握られ、ぷらーんと、宙に手足を投げ出すシュナイダーの命は風前の灯。だが、私に言われ解放しようとエーヴァが手を緩めた瞬間、宙の風を操り落下速度を調整して、スローモーションのように落ちながらペロリンとエーヴァの手を舐める。
「くうううっ!! 高貴な味がする!! なんだこのキメ細やかな舐め触り!!」
わおおぉ~ん!! と遠吠えを始めるシュナイダーの周囲の空気が震え始める。お家のガラスが割れそう……
「覚悟はできてんだろうなぁ? このイヌッコロがぁぁ!!」
「オ、オレに悔いはない! いや、どのみちやられる運命ならもう一舐めして死んでやる!! くるがいい、エーヴァ!!」
決闘を始めそうな2人に対し、私がエーヴァを押さえ、美心がシュナイダーの首の皮を摘まんで押さえる。シュナイダーは美心の殺気のこもった笑顔の前で、大人しくなり完全に固まっている。
「詩離せ! こいつ砕く! 地獄へ落としてやる!」
「はいはい、気持ちは分かる。取り敢えず宇宙人倒すまで頑張ってもらおうよ。一応役立つし」
がるるるると吠えるエーヴァだが、やがて落ち着きを取り戻すと、外に設置してある水道で、手を洗い始める。そんな何気ない動きですら、美しく見えるって何食べてんだろ?
そんな疑問を持つ私に前で、これまた優雅に手を拭くエーヴァ。その美しいエーヴァさんは、
「おい詩、宇宙人てどうやって探すんだ? お前ら何体か討伐してるんだろ?」
その可愛らしい口から出る言葉とは思えない、喋り方で聞いてくる。最早そこに突っ込む気にはなれない私が、電子機器の不具合が起こることを利用して見つけていること、その情報収集を、宮西くんに一任していることを伝える。
「へぇ~、こいつがねえ。まあ、あたしらにはそんなの無理だから、こいつに頼るしかないな」
「そうそう、宮西くんすごいんだって!! 頼りになるんだから」
ここでシャキッと宮西くんが立ち上がる。なんかさっきよりキリッとしている。よく分からないけど元気になってよかった。
自己紹介も終わったときタイミングよくエーヴァの付き人、アラさんが門のところからひょっこり顔を出す。
「お嬢様、そろそろお時間です」
「あら、もうそんな時間かしら? 楽しい時間はすぐに過ぎるものね」
「ええ、そうですね。それにしてもお嬢様はもう、日本でお友だちを作られ、こんなに親しくされている。流石です」
先程同じ口から発した言葉と思えない言葉遣いで、アラさんと会話をするエーヴァ。
「そんなことないわ。そうだわ、アラも詩たちと、お友だちになればいいじゃない」
「い、いえ私が詩様たちと、お友だちなどっ!」
エーヴァの突然の提案に慌てふためくアラさん。私たちと3つぐらいしか変わらないのに、しっかりした雰囲気を持っていて、スーツとメガネがよく似合っている。
できる大人の女性って感じの人が、慌てる姿って可愛いなとか、思いながら話しかける。
「アラさんが良ければですけど、私たちとお友だちになってくれませんか? 私はアラさんと、お友だちになりたいです」
「わ、私は……」
アラさんがチラッとエーヴァを見ると、優しく微笑みながら頷くエーヴァ。それを受けて、少し恥ずかしそうに「はい」と言って私と握手する。
「ところでエーヴァは今からどこへいくの?」
「日本に来てまだ行きつけの店がありませんから、その開拓と後はエステですわ」
ぐぅぅ、エーヴァめ、お嬢様してやがる。なんか言ってやりたいところだが、私はなにもいえない。
ちょっと勝ち誇った笑みを、アラさんには見えないようにして、私に見せるエーヴァ。
「ではまた、ごきげんよう」
「皆様それでは」
エーヴァとアラさんが優雅に挨拶をすると、門を出ていく。
「詩、今ちょっと嬉しいでしょ」
「んー? そんなことないけど」
エーヴァが去るなり、美心が声をかけてくる。否定する私を見て嬉しそうにニヤニヤして見てくる。そんなに嬉しそうな顔していないと思うけどなぁ。
自分の顔を触って確認する。
* * *
「坂口さん! さっきの女の子見ました?」
「あぁん?」
小椋の問いに紙を見ながら、適当に答える坂口。
「銀髪のお人形みたいな女の子が、これまた美人の女性を引き連れ歩いていたんですよ!」
「そうか、良かったな」
「もっと感動してくださいよ! 銀髪美人って萌えじゃないですか! ねっ? 坂口さん萌えましょうよぉ!」
騒ぐ小椋を無視して、坂口の視線の先にある紙は、愛犬登録台帳のコピー。もちろん無断でコピーしたものである。
(謎の女性より犬の方が調べやすい、あれだけ大きい犬なら、あたりもつけやすいし、犬なら人にも聞きやすいしな)
坂口は杖をつき足を引きずりながら歩いて行く、その方向には詩の家がある。
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