第72話:演奏会 クロウジング

 落とし穴に落ちたエーヴァに私は『火弾』を打ち込む。酷い?

 いえいえ、そんなことはありません。だってほら、


 穴から轟音を響かせ、炎を粉砕し飛び上がってくるエーヴァ。転校初日から服はボロボロになっている。まあ私もボロボロの血まみれだけど。


「やっぱ、お前と戦うのは楽しいなあ」


「そう? 私は全然楽しくないんだけど」


 短く言葉を交わすなり早速殴り合う2人。同時に顔面にヒットし互いが反対に吹き飛ぶ。と同時に先程まで2人がいた場所に衝撃波と風が発生しぶつかり弾ける。


 風が吹き荒れるなか体勢を立て直し再び殴り合う。


「ああもう! どんだけ固いのよあんた!」


「知るか! 生まれつきだ。お前も大概しつこいぞ!!」


 文句を言い合いながら放った蹴りはエーヴァに止められる。


 ニヤリと笑うエーヴァと私。


 私の足とエーヴァ腕の間に電撃が弾ける。


「なにっ!?」


 電流に身を反らすエーヴァに受け止められた足を、その場から強引に振り下ろすと、首筋に叩き込みそのまま電流を流す。崩れるエーヴァの腹を蹴り上げようとするが、それは受け止められる。

 痺れる体で動くってどこまで化け物だよって思いながら三度みたび電流を流す。

 それと同時に私の左手の甲に描いた『雷』が霧散し『風』が光りはじめる。


 戦いのさなか自身に『雷』『風』『土』の順で描いた漢字は最初の雷の漢字が反応した。これは描いた順番が反映され、3回使用したら次の漢字に移行するということだろう。

 攻撃範囲は狭いが、使い方では有効打になるし、他の漢字との連携が取り易くなりそうだ。

 家を出る前に描いていけば開幕いきなり発動も夢じゃない。


 電流で後ろによろけるエーヴァにおもいっきり風を纏った拳を打ち込むと、地面を擦りながら転がったエーヴァは地面に四肢でしがみつき、無理矢理体勢を戻し拳を振るう。それに対しカウンターで風を纏う拳を振るいぶつける。

 顔面に入った拳で互いにのけ反る2人。


 のけ反ったまま足で地面を削るように這わせ、左足の甲に土で生成した『鎧』でエーヴァを蹴ると大きく吹き飛び、地面にドサッと落下する。


「ぬわぁぁ、ぐぐぐっ!」


 震えながら立ち上がろうとするエーヴァだが、すぐにバタンと倒れ伏せてしまう。


「ぐぅぅ……ああぁムリっ! あたしの負けだ!」


 それを聞いて私も倒れる。いやもうムリだし。立っているのも限界だったし。

 お互い倒れたまま仰向けになり、どちらからともなく話し始める。


「お前と戦ってよく分かった。戦っても何も変わらない」


「ふざけんなよこの戦闘狂! 何か変われっての!」


 ゲホゲホ咳き込みながら文句を言う私に対し、上を向いたまま笑うエーヴァが可愛いのが更に腹立つ。


「最初は国に必要なやつを呼び戻そうとして旅してた。でも途中から魔物を狩って旅するようになっていた。国に留まって、王族や貴族のご機嫌取りしながら生きるより向いていると思ったからな。

 そのうち国には帰らなくなった」


「5星勇者のイリーナを見たって噂、聞いたことあったけど本当だったとはね」


「ああ」とだけ言ってしばらく沈黙が続くが、再びエーヴァがポツリと語り始める。


「旅してる途中魔物に襲われた村で生き残った男の子と出会った。最初は誰かに渡そうとしたが、しつこくついてくるので仕方なく連れって行って剣を教えた。

 次に女の子と出会って、こいつにも剣を教えた。2人が成長し、一人立ちしてしばらくして捨てられていた赤子を拾って育てた。

 訳も分からず忙しくて、時々お前のことを思い出すが忙しい日々に追われ生きてきた。

 最後は魔物に殺されて死んじまった。で、そのときお前ともう一回戦いたいと思ったら、生意気な女神の前にいたってことだ。

 くだらん人生だろ。5星勇者がどうとか言われても最後はこんなんだぜ」


「くだらん人生だぁ? めちゃくちゃ充実してんじゃん! 私なんか誰もいないとこで孤独死だよ! なに子供育てるって? むかぁぁぁ!!」


「なんで怒る!? ここ笑うとこだろ? え? 意味わかんねえ」


 怒る私と困惑するエーヴァの元にやって来るシュナイダー。


「前世で辛いこともあっただろうが再び得たこの命、今世を謳歌しようじゃないか。オレらにもそれくらいの権利はあるだろう」


「あんたは自重しなよ」


 変態がこの場を上手くまとめようとするので阻止する。


「ところでなんでこのイヌッコロは喋ってんだ?」


「今さら? この犬、元ガストン。ほらエウロパ王国騎士団にいたガストン」


「なぬっ!? あのおっさんがなんで犬?」


「今だるいから後で説明するぅ~。あ~、エーヴァこいつすぐスカートとか覗こうとするから気を付けなよ~。

 あんたスカート長いから中に入るかも、居座るかもねぇ~」


「はっ!? どういうことだ? ちょっと待て寝るな! え? あたしも動けねえんだけどおい! これ大丈夫なのか? おい!」


 体力の限界を超えた私は眠りにつく。美心がいるからシュナイダーは大丈夫だろう──


 目を閉じる私には、シュナイダーの頭を鷲掴みにする美心が見えるから安心だ。騒ぐエーヴァを無視して眠る。


 そのとき美心が


(あいつ上手くやってるかな? 出来てなかったら説教してやる)


 なんて思っていること私は知らない。



 * * *



 詩たちの担任、相沢あいさわ先生は若干キレ気味である。


「どういうこと? いるの? いないの?」


「あれ? えーとさっきまでいたんですけど。あれぇ~、あそうだ!? 忘れ物! エーヴァさん忘れ物したあって走っていったんです。それを鞘野さんたちが追いかけて、ほんと、みんな足速いですよね」


「宮西くん! ちゃんと説明しなさい!」


 相沢先生に責められ、支離滅裂な言い訳をする宮西がこの後、美心に説教されるのは避けられない未来である。


 因みにこの後、エーヴァが先生たちに以前自身が誘拐された話を交え、破裂音に不安を感じ、お手伝いさんのアラさんが心配で飛び出し、それを私たちが追いかけてしまい迷惑をかけたと、涙を浮かべ説明したことで事なきを得る。

 先生たちも感動してもらい泣きしてた。


 エヴァンジェリーナ・クルバトフ油断ならぬやつである。

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