第71話:演奏会

 エーヴァが纏う魔力の量がはね上がる。あいつどんだけ魔力保有してんのよと文句を言いたくなる。


 魔力はゲームのようにMP消費とかではない。どちらかと言えばスタミナだ。消費しても時間が経てば戻るし、限界がきても無理して技を出すことも出来る。

 スタミナと同じく人によって上限の差があるが、訓練で上げることも出来る。ただ生まれ持った才能ってやつはあって、目の前にいるエーヴァの魔力保有量が半端ないってことだ。


 そんなことを私を睨むエーヴァを見ながら考えていると、エーヴァが口を開きポツリと問い掛けてくる。


「なんで戦いが終わった後、お前は姿を消した?」


「はい? なんでって残党狩りをするため山へ行っただけだし。他にもそんなやついっぱいいたでしょ? 別に珍しいことでもないじゃん」


「お前たちみたいなのが本来人々から感謝され、身近にいるべき人間だろ? 国に残って甘い蜜を吸いに集まる連中と、他の土地に出て魔王軍の残党から人々を守る連中。どっちが必要かお前なら分かるだろ」


「私らが国の政治に関わるなんて向いてないの。結局戦うことしか出来ないわけよ。そうやって死んでいった。そこに後悔はあれども、あんたにケチつけられる筋合いはないね」


「はん、お前らはみんなそう言いやがる。戻ってこないかと言ってもそうやって断りやがる。5星勇者と頭がいい奴でやってくれってな」


「あんたはどうしたのよ。イリーナとしてのあんたは?」


「あたしは国を去った。いや逃げた。戦いが終わって早々にいなくなったマティアスを除いた3人が徐々にただの政治家になり、己の私欲を肥やす姿に耐えれなかった」


「ま、あんたも政治とか向いてなさそうだしね。てっきり5星勇者は幸せに暮らしましたとさ、で終わってると思ったらそうでもないってことか」


 ゾワッとするぐらいの魔力の解放。凄まじい殺気と共にエーヴァが構える。このタイミング、意味分からないとか思いながらも私も構える。


「お前と戦っていたときが一番楽しかった。国を去り旅に出て戦いに明け暮れても、お前との戦いをどこかで求めた。お前と戦えば何か戻れる、変われる、そんな気がする。

 だからお前と戦いたいんだ。やってくれるよな? まあ勝手にやるけどよ!」


「ちっ、なんちゅう無茶苦茶なこと言ってくれてんの。あんたもまた前世に縛られた亡霊ってことか。ならここで成仏させてやるから覚悟しなよ!」


 私の今持てる全力の魔力の解放。エーヴァに比べれば少ないが、殺気のこもったそれを感じ取ったシュナイダーは、美心を慌てて背中に乗せ離れる。

 それを私たちは横目で見て同じタイミングで踏み込むと、拳と蹴りの乱打戦が始まる。


 スピードは私の方が上だが、威力はエーヴァの方が上。私の拳がエーヴァの顔面に入るがニタリと笑うエーヴァ。


 誘われた!? 


 そう思ったときには真横に吹き飛ばされていた。ギリギリ腕でガードしたけど、エーヴァ単体の威力に加え、衝撃波が重なるその破壊力は凄まじく強化した私の腕が痺れる。


 ただ前世ほどの衝撃がないことを考えると、さっき見せた演奏の方に能力が移行しているってことだろうか。


 考えを巡らせる暇もなく迫ってくるエーヴァの蹴りを、ギリギリで避ける。遅れてくる衝撃波を手の甲に書いた『風』を発動させ空気を震わせ打ち消す。

 そのまま横に回転しながら、エーヴァの真横の間合いを詰め、裏拳を放つと腕でガードされるが、再び風で空気を押しエーヴァをよろけさせると、更に回し蹴りを頭にヒットさせ地面に転がし、間髪いれず『風弾』を打ち込む。

 右手の甲に描いた『風』の漢字が赤い霧になって霧散していく。身体に描いた漢字は3回まで使用可。便利だが範囲が狭いのが難点か。


 ドォォォォオオン!!


 空気が激しく震える。爆風と共にエーヴァが、土煙を突き破って突っ込んでくる。もちろん正面からなんて受け止めれない。

 精一杯避ける私に対して、土煙をあげながら急ブレーキをかけ拳を止め、その場でくるっと一回転したエーヴァに胸ぐらを掴まれる。


「やばっ!?」


 そういったときにはもう、宙にフワッと一瞬浮く感覚の後、急降下して激しい衝撃が襲い意識が吹き飛びそうになる。


 地面に叩きつけられバウンドする私の脇腹にくる凄まじい衝撃。おそらく蹴られた私は吹き飛ばされ木に激突する。


「かはっ、ごほっ」


 胸を押さえ込み上げる吐き気を押さえながら、死ぬ気で姿勢を屈め追撃にくるエーヴァに足払いを試みる。

 あっさり跳んで避けられ、拳を振り上げるエーヴァの攻撃を避けるため転がる。


 私がさっきいた場所に光る『棘』の漢字。地面が鋭く盛り上がりエーヴァを襲う。空中にいるエーヴァは避けずに拳を棘にぶつけ粉砕する。


 粉砕されバラバラと落ちる石は、宙に描いていた『針』を通り鋭く落ちエーヴァを襲うが、彼女に衝撃波を展開され砕ける。

 砕けた小さな石は地面に当たると『水』の漢字を輝かせ、噴水のように数ヵ所から水が地面から上がる。


 それ事態全く威力はない、水まきレベルの噴水は宙にある『鎖』に当たると水の鎖を生成する。縦横、斜めに描いた『鎖』の漢字は縦横無尽に鎖を張り巡らせエーヴァの手足を縛る。

 水の鎖で出来たクモの巣にとらわれたお嬢様に打ち込むは周囲に張り巡らした『雷』の漢字。ひとつを弾けさせ電流を繋げると最後に通す『撃』の漢字で『雷撃』をもがくエーヴァに全力で放つ。


「こんなとこで終われるかあああ!!!!」


 叫ぶエーヴァが全力で魔力を解放し、空気の衝撃波で雷撃の軌道を反らしていく。

 そのまま水の鎖を引きちぎると地面に足をつけると光る『穴』の漢字。


「うたぁぁあっ!? あああああっ」


 エーヴァはそのまま地面に吸い込まれ消えていく。

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