第70話:演奏会 オープニング
少し森の奥へと向かうと少しだけ開けた場所に出る。
「ここでいかがかしら?」
「良いんじゃない?」
場所の確認をしながら気さくに話すが、既に向かい合う私とエーヴァ。
お互い手を伸ばし準備運動をしながらも、視線を外さない中、エーヴァが話しかけてくる。
「何年ぶりになるんだろうな、こうして向かい合うのは?」
「転生するまでの時間なんて分かんないから、知らないよ」
「相変わらず転生しても、その軽い口調はかわんねえな」
「あんたは随分猫被るのが上手になってんじゃん。どうしたらそんな姿になるわけ?」
筆とフルートを手に持ち構える私たち。冷静に考えて、今から戦う2人が持つものではない。
地面を踏みしめる足に力を入れる。お互い無言、合図はいらない。
土埃を上げ同時に踏み込むと、ぶつかる拳と拳。初動の動きは一緒。地に足をつけてからの互いの右足の蹴りがぶつかる。
嫌になるくらい気が合うが、ここからは私らしくってことで拳を複数叩き込む。それらを腕で全て受け止めるエーヴァに蹴りを放ちそのまま足に『火』を通す。
一瞬なら足に火を纏わすことは出来る、ちょっと熱いけど。
纏う火が空気が振動し弾け散る。舞い上がる火の粉の中に光る眼光と、笑うエーヴァに『風』を通した拳叩き込むが風は弾け受け止められる。
「あまいなぁぁうたああ!!」
その場から最小限の動きで腰の入ったエーヴァの拳が私に叩き込まれる。残る風を集めガードするが、それごと吹っ飛ばされるのを足で地面を削り、ブレーキをかけながら『雷弾』を放つ。
それを華麗に避けていくエーヴァが、地を蹴ると重い一撃が放たれ、吹っ飛ぶ私は宙で身を捻り木を何本かジグザグに蹴りながら衝撃を分散させ、追撃するエーヴァを迎える。
見た目と違い、重機でも突っ込んで来たのではないかと思えるほどのエーヴァ。それに絡み付く風の『糸』
止めることは出来ないが、動きの鈍るエーヴァに近付き攻撃しようするが、慌てて体を反らし糸を千切り振り上げられる拳をギリギリで避ける。
放たれた拳から、遅れてやって来る空気の振動による衝撃。それをなんとかガードするが、衝撃に僅かに宙に浮いてしまう私に、蹴りが入る。
「がふっ!!」
口から空気が漏れるが、腹に入った足に体全体でしがみつき『雷』の漢字を描き手を通すとエーヴァの足に叩き込む。
「ぐっ!!」
電流が走り身を強ばらせるエーヴァは足にしがみつく私に対し、足を大きく上げ踵から地面に振り下ろし、叩きつけてくるので私はたまらず手を離して後ろに下がる。
体勢を立て直す私の耳に響くフルートの音色。周囲に広がる五線譜入りの泡。
さっき見た感じ、これが弾け演奏されている間エーヴァの能力が上がるといったところだと推測。
さっきと曲が違い明るくリズミカルなのが気になる。
弾け始める泡に合わせ、演奏が鳴り響く。音楽が流れるなか戦うのは初めての経験なので、気を散らさないように集中しながら、エーヴァの間合いを詰めてきてから放たれる拳による連打をいなす。
さっきより拳が重い!? ギリギリのところで避け、一旦離れようとする私を逃がすまいと回し蹴りが放たれる。
これを避ける。
「つっ!?」
エーヴァの足がカスった肩が切れて血が散る。さっきと違い蹴りの威力、鋭さが増している!?
泡が弾けると身体強化が付与されるのは間違いないと思うが、それは攻撃の重さだけじゃないってこと?
考える間も無く、既に迫っている2撃目の回し蹴りを後ろに飛んで避ける。再び散る血を宙に留めながら下がる。
すぐに宙に浮く血を筆で掬い、漢字を
「くぅぅっ、曲が進むにつれ更に威力が増してくってどんなチートよ!」
「発動させるのめんどくさいんだから、これぐらいの見返りがあっても文句ねえだろう」
エーヴァの鋭い拳を受ける。衝撃が半端なく後ろへ飛ばされるが、『剛』の漢字が光る私の腕はなんとか切られず耐える。
私はエーヴァと違って『剛』と『速』を同時に発動させれない。後に書いた方が上書きされて発動してしまう。
牽制の意味で一番出の早い『風弾』を飛ばすが、エーヴァに届く前に弾け散る。エーヴァの力は前世と同じく、音撃であることは間違いない。
空気の振動を媒介に魔力を乗せるそれに対し、『風』『火』『水』は相性が悪く、大抵たどり着くまでに弾き消されるのが落ちだ。
そして『雷』これも空気と相性が悪い。だが空気を押し退けれる分、多少はマシであり使える。
最後に残る『土』これが一番影響を受けにくい。これを中心に戦略を組み立てるしかない。ここが山で良かった。
演奏の終わった瞬間を狙って踏み込み、蹴る私の足は受け止められるが、息をつく間も与えず足を引き、拳をガードする腕に叩き込む。
そこから始まる2人の殴り合い。思った通り演奏が終わると元にもどるようだ。それでも攻撃力、防御力はエーヴァの方が上。私はスピードが勝っているだけだ。
「攻撃力も高い、防御力も高い。どこの戦闘民族よあんた? その強さで前世でも最後まで活躍したらしいじゃん? そんなあんたが私に固執する理由はなによ?」
「まともに一対一であたしを倒したのはお前だけだ。他の5星勇者にも負けたことはない」
「だからなによ? 私があんたに勝ったからプライドが許さないってわけ?」
「負けたことなんてどうでもいい。お前ぐらいだ、あたしにまともにぶつかってきたのは。そんなお前と、もう一度勝負したいって思うのは自然な流れだろ?」
「全然自然じゃないし。転生してまでやることじゃないでしょ」
お互いの拳がぶつかったのを合図に、2人とも後ろに下がって間合いを取る。
「それにどうしてもお前に言いたいことがある。お前と再び戦うことと同じく、こっちもあたしにとって大事なんでな」
会話中でも気の抜けないこの緊迫感、目の前には楽しそうに笑うエーヴァ。
早く喋れよと思いながらも、勝つための算段を巡らせる。
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