第62話:貪欲に
宙に描く『雷』の漢字を右に『火』の漢字を左に宿し雷と炎を舞わせながらラットンの群れを斬り裂いていく。
「なんか手応えがないんだよね」
左足を軸にくるっと回転し、ラットンの攻撃を避け、背中側から首を斬る。
バックリ首が切れて地面に転がると動かなくなる。
その合間にも下からくるものを蹴り上からくるのは斬り落とす。
積み上がる死体を見てふと気付く。
「なんでこのラットンは進化しないんだろ?」
戦ってきた相手を思い出す。イタチ、ザリガニン、ワニガメン。これらは戦っている途中で進化してきた。
最初のカナブンは口が尖っていて、猪は尻尾が触手になっていた。これらが進化した跡だとすれば納得出来る。
ゾンビは最後の個体だけ進化した……
剣を片手に持ち筆で宙に『鋭』の漢字を描くと剣を通す。剣の刃に鋭さが宿りそのままもうひとつの漢字『刃』を通し『
より鋭さを増した剣はラットンを一刀両断する。
次々と襲いかかってくるラットンを真っ二つにしていく。それは一見一斉に襲いかかってきてるように見えて何かの意思を感じる動きをしているように感じてしまう。
剣に血を伝わせ宙に『弾』を描くと足で蹴り『
「こいつでもないか……ま、気長にねっと」
回転しながら斬って宙に舞う無数のラットンの体を媒介して雷を通すと周囲に電流が流れ弾ける。
バチバチっと鼓膜を激しく刺激する音に目映い光が走る中、自分の左手に描く『速』の漢字。
「さてと、久々だからいけるかなっと!」
『速』による身体の強化。地を蹴ると残像を残すくらいの速度で移動しラットンの群れを斬り裂いていき、その後を追うように雷が走りさらに群れを焼いていく。
雷に追い付かれる前に既に移動を開始し壁を走りながら通り道にいるものを全て斬り捨てる。
動きの速くなった私に対してラットンの動揺が群れに広がるのを感じながら『刃』の漢字を剣で斬って風の刃を飛ばし一気に周囲を血の海に変えると更に加速して剣を振るう。
「この辺かな?」
2本の剣に火を宿し赤い線を描きながら移動し炎を舞わせる。移動しながらラットンの群れの動きを観察する。
ある一点に狙いをつけると剣に『鋭』を付与し剣を振るう。剣で肉を断つ感触を感じながら刃を進めると
カンッ
金属に当たったような音と感触。
「見つけた!」
もう一方の剣を振るい目標を挟み込む。再びカンッと音がして感触が遠退く。
「っと逃がさないよ」
剣を地面に突き立て走りながら書いていた『水』の漢字を発動させ周囲を水で囲うと1本の剣を投げ目標の近くに突き刺しそいつの足と剣の間に水で編んだ鎖が発生する。
「やっと捕まえた」
鎖に足を繋がれもがくそいつは他のラットンと違い一回り小さく毛が鎧のような形をしている。色は茶色だが毛で編んだ甲冑を着ているネズミと表現したら分かりやすいかもしれない。
他のラットンと違い進化した跡のあるラットン。つまりこいつが本体の可能性が高い。
推測の域を出ないがおそらく増殖した他の個体に攻撃を食らわせることで自身はその情報を元に進化を果たすといったところだろうか。
群れの動きが洗礼され過ぎていたことと、ある一定の方向に攻撃をしたとき動きがあからさまに鈍いときと速いときがあった。
そして一番不自然だったのは自ら飛び込んで斬られる個体がいたこと。
「あんたが本体でラットンの群れに隠れながら逃げ回っていたわけだ」
甲冑ラットンに問いかけるが私を睨み付けるだけで答えてはくれない。このラットンはおそらく生き残ることに特化した結果の生き物。
攻撃でなく生存に能力を振った。そのお陰で攻撃は大したことはなかったのが救いだった。
逆を言えば集団で攻撃に特化したパターンもあるということか。
この辺は美心と宮西くんの意見も聞いてから考えることにしよう。取り敢えず目の前のヤツを倒すことに集中する。
本体を助けようと集まってくるラットンを1本の剣で振り払いその流れで本体の首元に先端を突き立てるがカツンっと音を立て刺さらない。
そんなことは構わずそのまま押しきり地面に倒すと喉元に僅かに刃先が刺さっている。
左手で『圧』の漢字を素早く描くと
「堅さもそこまでじゃないと。じゃあこのまま押しきらせてもらうからサヨナラしちゃおっか!
『
空気で地面に押し付けているラットン本体を押し潰す。ベキッ! っと鈍い音がして潰されるラットン本体。
それと同時に周囲のラットンが糸が切れたように倒れ口やら目やら至るところから泡を吹き動かなくなる。
「本体が死ぬと他も死ぬってこと? 群れでくるもの、個でくるもの。この違いがみえてくればまた違うかも」
剣を直尺に戻し飛び上がると細い配管に手をかける。
「大丈夫? 巳之助くん」
細い配管に落ちまいと必死にしがみつく黒猫、巳之助くんを脇に抱えると飛び降りる。
「ごめんね。気付いてたけど待たせちゃたね」
地面に下ろすと足元にすり寄ってきてゴロゴロ喉をならし、にゃぁんと短く鳴いて去っていく。私は手を振って見送る。
「シュナイダーもあれくらい可愛げがあれば良いのに。
さてと、燃やせる範囲で燃やしておこうかな」
これだけ大量の死体を置きっぱなしという訳にもいかないので燃やせる範囲で始末する。腐敗してへんな病気とか蔓延したら困るからね。前世で魔物を狩ったときのマナーである。
ある程度燃やし目処がついたところで早くこんな臭いところから出てお風呂に入りたい私は地上へ帰っていく。
* * *
ビチャビチャ──
ボリボリ──
クチャクチャ──
下水道に音が響く。
下水道に燃やされずに残ったラットンの死体は彼らが綺麗に骨も残さず食してくれる。
そんな彼らは先程までの戦いを見てラットンの失敗を学習する。
彼らはラットンに肉を咀嚼しながらその複眼に思考を宿す。
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