第61話:私の武器は合計約千円

 私が夜部屋でスマホで動画を見ていると外で小さく短くワフッとシュナイダーが吠える。


「うげっこの合図は敵かぁ。もうお風呂に入ったのになあ」


 下水道じゃないことを祈りながら巫女の服に袖を通すと草履をはいて2階から飛び降りる。もちろん周りに人がいないことは確認してね。


 猫の仮面をつけ準備完了。シュナイダーも鎖を取りいつでも行ける体を見せる。


 シュナイダーの背中には黒い毛並みに白のぶちが入った猫が鎮座している。


「あれ? いつもの巳之助みのすけくんじゃないの?」


「ああこいつは巳之助の弟、佐吉さきちだ」


 にゃぁ~ん、なぁーんと鳴く佐吉くん。


「なんて言ってんの?」


「[兄貴を助けて欲しいから宜しくお願いします]だと」


「こんな可愛い子から助け求められたら行かなきゃね」


 佐吉くんの案内で下水道の方へ向い走るう。結局下水道なのか……そんな気持ちもあったが向かいながら大体の話を聞く。


「つまり巳之助くんは佐吉くんに私たちを呼ぶように言って大人の人を助けるために飛び込んだってこと?」


 シュナイダーの背中に必死にしがみつく佐吉くんは、にゃにゃと肯定してるっぽい。そんな姿が可愛いなとほんわか見ている私のお面の下はニヤケ顔だ。


 やがてだんだん周囲に人気がなくなり郊外へ向かって移動しているのを感じたとき目の前にゼエゼエいいながら走る人を見つける。

 30歳前後だろうか 普通なら人との接触は避けたいがこの人の様子は他と違うことを感じ取った私はシュナイダーを止め男の人の元に立ち声をかける。


「なにがあった? 知ってることだけ話して」


 戦士としての業務用の話し方で淡々と訪ねる。男の人は突然出てきた私に目を大きくしてビックリしていたが泣きそうな顔で話し掛けてきた。


「あ、あなたはあのときの……あの、助けて。俺の先輩があ、俺小椋って──」


「手短にお願いできる? お互い急いでるから尚更ね? どこで、何人? 性別は?」


 少し冷たく言い放つと小椋と名乗った人は地面を指差し必死に息を整えながら話す。


「地下の下水道で俺の先輩が1人。男です」


 私はマンホールの前に立つと端を踏み蓋をくるくると舞いあげると飛び込む。佐吉くんを置いてきたシュナイダーも滑り込むように穴に飛び込む。


「ま、やるだけやるから期待は程々で頼むわ」


 それだけ言って地下へと飛び降りていく。行方不明になってどれくらいたったか知らないけどあまり期待はさせたくないので冷たいがこんな言い方になってしまう。

 つくづく正義のヒーローとかに向いてない。ハッタリでも安心させるべきなのか、なんて思うが未だに答えはでない。


 飛び降りてすぐに地面を蹴り拳を振るう。


 ゴキッっと鈍い音を立て飛びかかてきたラットンの頬辺りの骨が砕ける。そのまま地面に叩きつけ頭を砕くと事前に拳に描いていた漢字に魔力を流す。


「『艶麗繊巧えんれいせんこう血判けっぱん らい』!!」


 拳と地面挟まれたラットンを中心周囲に稲妻が走りラットンを焼いていく。

 雷にのまれまいと外に向かって逃げるラットンを炎が囲う。炎は外から内に向かって吹く風によって内側へと勢いよく燃え走り中心へと追いやれる逃げ場を失ったラットンたちが消し炭になる。

 因みに私は上に跳び逃げているので大丈夫だ。それにしても外側から内に向かって燃やすとか結構エグいことやる犬である。


「くっくっくっく、オレの新技『火風環かふうかん


 私も大概だけどこの犬も戦闘狂だと思う。いつも家でごろごろしているのにこんなこと考えているのかと思うとヤバイな。


「シュナイダーいくよ」


「おう」


 走ってすぐだった耳に響く耳障りなガリガリという音。その音に向かっていくと梯子にしがみつき上と下からラットンに挟まれている男の人が目に入る。


「生きていたってことか。シュナイダー、下を一気にお願い。技名は叫ばないでよ」


 ちょっと不服そうに「おう」と言って加速して先に行ったシュナイダーが大きく飛び上がり炎を纏うと地面へと落ちていき周囲のラットンを燃やし尽くす。圧倒的な火力に焼かれないように風の渦を作り男の人を守り梯子から引き剥がすと地上に降りる。


 男の人を投げてシュナイダーの背中に乗せると逃がすようにお願いして、腰の右にあるナイフを取りだし左腕を切り血を流すと腰の左にある筆を取り血を掬う。


 そして私は袖から隠していた武器を取り出す。その名も直尺ちょくしゃくステン性の30センチ2本、1本500円くらいだった。これなら銃刀法違反にもならない中々の優れものだと思う。一応手持ちの部分には布を巻いて手が痛くならないようにしてある。


 ここにも美心の拘りがあって1本は白の布もう1本は赤の布が巻いてある。なんでも映えるらしい。忍んでいるのに映える必要はない気がするのだが。


 宙に描いた『剣』の漢字に直尺をそれぞれ通す。長さ、太さこそ変わらないが両刃になったそれは直尺ではなく剣である。もちろん手元は変化させてないから切れない。


「んじゃあいかせてもらおっかなっ」


 地面を蹴り素早く前進すると体を回転させながらすれ違い様にラットンの首をはねる。跳びはねて襲いかかるラットンを避け背後から切り裂き空中にまだ残るそれを蹴って壁に叩きつける。

 壁にぶつかり飛び散る血を見てラットンに動揺が走るのが分かる。こいつらには何かしら意思みたいなのがあるようにみえる。


 左腕の傷を開き血を流すと直尺剣に伝わせる。伝う血を感じながら攻撃を避け次々と切り捨てていく。


 左手の剣で漢字を描く。


『火』


 右の剣を通し横一閃に炎が舞いラットン数匹が切れ燃える。


「前より時間は短めだけど武器の付与もいけちゃうねぇ」


 私は両手の剣を構える。直尺がこんなに使えて戦略の幅が広がったことにニンマリしながら剣を振るいこの下水道にラットンの死体の山を築きあげていく。






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