第59話:忍び寄る影
「今日のお昼パン買いにいきたいんだけど」
と美心に朝言われていたので今私は売店でパンを買う為に並んでいる。
私はお弁当があるから並ばなくてもいいのだけどたまにはパンも食べたい。もちろんお弁当も食べる。成長期だから沢山食べてもいいのだ。そう言い聞かせながら美心と並ぶ。
ただ並ぶといっても美心は隣にはいない。
この売店はお金を払う窓口が2つ、そこにおばちゃんが1人づついる。その窓口に縦3列で並ぶので一緒に並ぶより各窓口に二手に別れ目当てのパンを買った方が欲しいパンを手に入れてる確率が上がるのだ。
私の目当てであるプリンパン、美心の狙う揚げあんパンとベーコンエピこれらを効率的に手に入れるのが今回のミッションなわけだ!
私の今の位置は3列の真ん中の列で前から5番目といったところでもうすぐだ。前の人の背中越しに売り場を見るとまず揚げあんパンの存在を確認する。数もあるし手に入れるのは問題なさそうだ。
プリンパンはっと……後2個か私の番になるまで生き残ってくれることを祈るがすぐに1つ取られ残り1つとなってしまい祈りに力を込める。
取り敢えずよく知っている女神シルマに祈っておく。
そしてようやく私の番が来て無事生き残っていたプリンパンに手を伸ばす。
だがここで不穏な空気を察知した私は右足に力を入れ右に並んでいた男子の動きを阻止する。
こいつプリンパンを狙っていたな! 見た感じ180センチはありそうな巨漢で体格もいい。柔道等の武道関係かアメフトとかしてそうである。
男子も負けじと手を伸ばそうと私の方に左足の力を入れてくる。
ふふっバカめ! 血で強化している私に力で勝とうなどと。私は涼しい顔で男子の足を押す攻撃に耐えながらプリンパンと揚げあんパンを取ってお金を払う。ミッションコンプリートだ。
去り際にニヤリと笑うと悔しかったのか男子は顔を真っ赤にして怒っている。
「詩、買えた? 私はエピとプリンパンとカツサンドにホイップメロンパン!」
「結構買ったね」
「予定になくても見たら食べたくなって衝動買いしちゃうんだよね」
そのまま美心と話しながら校舎の上にある屋上庭園に向かう。最近はもっぱらここで食べるのが日課になっている。
教室にいるより話しが聞かれにくいってのがその理由なんだけどもう一人のメンバーは既に待ち合わせ場所にいるわけだが辺りをキョロキョロして挙動不審だ。
話し出したらビシッとするのに日頃のふにゃふにゃした感じとのギャップが面白い。
相変わらずキョロキョロして気付いてないから手を振って声をかける。
「宮西く~ん、ごめん待った? 売店混んでてね」
「いえ、いや大丈夫です」
「なんで敬語?」
「いやその周りの視線というかその……」
「? まあいいや。取り敢えずご飯食べようよ」
毎回こんな感じで始まる昼食を終え本題に入る。学校専属のタブレットを持ってくるのは良いが個人のは持ち込み禁止なので宮西くんはわざわざ紙に印刷してくれる。
その資料を手にとりまずは一通り目を通す。
「ここ最近の通信障害の報告を地図上にエリアとして表しその動きを示したものなんだけど」
いきなりスイッチが入ってビシッと話し始める宮西くんが面白くてニコニコしながら見ていたらそんな私に気付いた宮西くんが顔を赤くしてうつ向く。
「どした?」
「う、ううん何でもないよ。えっとネズミの大きさからなんだけど──」
再び話し始める宮西くんを美心はニヤニヤしながら見ている。これもいつもの光景である。
「──つまり個体の大きさによって電波障害の範囲は変わると推測される。前のワニガメンは大きさが約6メートル。その前にいたザリガニンは約5メートル」
この話のクライマックスなのだろう拳に地からを入れ力説する宮西くん。
「そしてもう1つ。ゾンビと同じく集団で発生した場合も干渉しあってエリアが広がるとボクは予想しているんだ。
だから今回のネズミいやネズミガーの個体の大きさに比例しないエリアの広さから推測するに集団で生息しているはずだよ」
「はい質問」
美心が手を挙げる。
「なに? ネズミガーって?」
「そ、そこ? 前にも言ったけど個体名を付けた方が今後複数体出たときに連絡で勘違い等起きにくいかなってことで付けているんだけど」
「ネーミングセンスもあれだけど複数体って既にこのネズミガーとやらは複数体いるわけでしかも姿が一緒。10匹同時に出てきたらどうやって区別すんの?」
「うぅ、確かに……」
美心が勝ち誇った顔で宮西くんを見ている。最近この2人はよく言い争っている。いやどちらかというと美心が一方的に言っているような……。
「ねえどう思う詩?」
「え? はい? あーラットだから『ラットン』とか?」
話をあまり聞いていなかった私の適当な発言に2人が固まる。
「凄い! 凄いよ鞘野さん! センス抜群だよ!! こいつの名前はラットンにしよう!」
宮西くんは誉めてくれるが美心は固まったままだ。
(ネーミングの話し振られたら『マウチュー』とか言おうとしたけど詩の方がましに聞こえる。これ以上話を振るのはやめておこう)
などと美心が考えているとは知らずに他愛のない会話を続け昼休みは過ぎていく。
* * *
下水道を2人の男が歩く。頭にヘッドライトを装着し前を照らし影を揺らしながら進んでいく。
「なんか楽しいですよねこういうの」
「お前なあ……」
「いやぁテンション上がりません? 上司に反抗して勝手に捜査する優秀な部下2人! よーし頑張りましょう坂口さん」
薄暗い道をテンション高めで歩く小椋の姿を見て坂口はため息をつきながら小椋に見られないように笑う。
(まあコイツのこういうところに助けられているのは間違いないけどな)
歩き進める2人の足音に小さな足音が増えていることに坂口たちはまだ気付かない。
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