第56話:ぬいぐるみに夢をつめて
納屋の屋根に空いた穴から覗くコウモリの遥か上空を飛ぶ青い体にオレンジの線の入った鳥が夜空に羽ばたく。
その鳥が足に掴んでいる白い物体を落とす。
「あれは……白雪?」
落ちてくる白い塊を認識する思月がぽかんと上を見上げてると空を飛ぶぐるぐる目玉の鳥が翼でグッと親指(?)を立てているのが見える。
「あの鳥! スーの白雪を投げ捨てるとは許さないのです! あいたた」
怒る思月が怪我した脇腹を押さえながら空飛ぶ鳥に抗議する。空飛ぶ鳥、オルドはなぜ怒られいるかわからず上空をオロオロしながら飛んでいる。
オルドが落とした白雪はコウモリの頭に当たり外へ転がっていく。
「ああぁぁぁ!! パ、白雪! いたたたたっ」
「ユエユエ、落ち着いて! 今はあいつから逃げないと」
ユーユーに手を引っ張られ思月が我に返り納屋の屋根に空いた穴に両翼を差し込み広げ始める。バキバキ音を立て破片を落としながら穴が広がっていく。
「ど、どうすれば……」
背中でユーユーを庇いながら広がる穴を悔しそうに睨む思月。
【呼んで】
「はい?」
誰かに呼ばれキョロキョロする思月。
「ついに幻聴なのですか。弱くなったとはいえ情けないのです」
【幻聴ちゃうの。呼んでよ、スーといつも一緒にいる可愛いウサギの名前】
「な、なんなのです。スーと一緒? 可愛い?」
オロオロし始める思月に背中のユーユーも不安を煽られ思月の背中の服をギュッと握る。それで冷静になれた思月は半信半疑ではあったが藁にすがる気持ちでいつも一緒にいるものの名前を呼ぶ。
「白雪!」
バーーーーンッ!!
納屋のドアが吹き飛ぶと白雪がドアを蹴ったままの格好で立っている。ウサギのぬいぐるみがドアを蹴り破る光景に唖然とする思月とユーユーの2人。
【呼ばれて 飛び出して ジャーン! の可愛いウサギこと白雪登場ですっ!】
「な、なんなのですこれは……」
【説明はあとあと。今はこいつ倒さなきゃ!】
人間が入ってるかのように滑らかに動く白雪はズカズカと歩いて来ると思月の手を握る。
【スーと白雪は二人で一つ☆ 魔力の源を持つスーと魔力は微々たる量しか無いけど調整、増幅が出来る白雪! 力を合わせればむ☆て☆き♪】
ウインクでもしているつもりか左肩をすくめて可愛いポーズで可愛いをアピールしてくる。
ただあくまでもぬいぐるみ。表情は変わらないので些かホラーチックにも見える。
そうこうしているうちに天井を突き破りコウモリが飛び降りてくる。
「白雪、スーはどうすれば良いのです」
【白雪に魔力をチャージしてくれれば白雪は動け、白雪はスーの魔力を調整するから2人とも全力が出せるだったかなぁ? ただ時間は数分だから定期的にチャージを繰り返す必要がぁ、って避けるよ!】
白雪が床を蹴り真横に飛び思月はユーユーを抱き抱え反対に飛ぶ。
ユーユーを抱える際、軽々と持ち上げることが出来たことに驚き白雪を見るとぬいぐるみの手で親指をグッと立てている。
「ユーユー、スーはあいつを倒すのです。ここにいてください」
「でもその怪我じゃ」
「心配ありがとうなのです。でも応援してくれた方がもっと嬉しいのです」
思月の見せる笑顔に戸惑うユーユーも笑顔で返す。
「がんばって、ユエユエ!」
「任せるです!」
思月が笑顔でコウモリの攻撃を避けている白雪の元へ駆ける。
コウモリの攻撃を避ける白雪がハラリと糸を舞わせ手を伸ばしてくるそれを思月はがっちり掴む。
【チャージの時間で変化するかもしれないけど今のところ持って3分かなぁ? 小まめな補給が必要だから覚えてて】
「え、ええ。ところで白雪の声どこかで……」
【あとでゆっくり話せばいいの! まずはあいつ!】
「ごめんなのです」
2人が背を合わせ構えると同時に地を蹴り左右に別れる。
コウモリは焦る目の前の敵が左右別れ向かって来ることに。一瞬の躊躇が生む隙を逃さず思月と白雪が左右の翼の付け根に蹴りを入れる。
先ほどまでの軽い蹴りとは違い白雪によって引き出され調整された力を持つ蹴りはコウモリにダメージを与えることが出来きたのが苦悶の表情を見せるコウモリから分かる。
激しい痛みから逃げる間も無く頭を左右から同時に蹴られ足に挟まれる格好になったコウモリは翼を広げその場で一回転して2人をはね飛ばす。
左右に飛ばされた2人が同時に壁を蹴り頭上で隣り合うと手を握って一回転しそのまま落下し頭を踏みつけるとコウモリの頭はベキッと鈍い音を立て口から血を吹き出す。
頭蓋骨が陥没した頭に潰れた顎。口の端に亀裂が入ると首の辺りまで線が入りベキベキと音を立て上下に大きく裂ける。
「なんなんのです!?」
【気持ちわる~いっ】
コウモリの変化に驚く思月とくねくねして嫌がる白雪。その間にも翼に手を3つ計6つの手を生やし足は更に太く筋肉質に変化する。
6つの手で地面を掴み太い足でバネが弾ける様に跳ぶと大きく裂けた口を全開で噛みついてくる。
その大きな口は納屋にあった棚や机を砕き粉々にする。
「まったくなんなのです」
【噛まれたら綿が飛び出ちゃう】
コウモリの攻撃を避けた納屋の外に逃げた2人がぼやく。思月が手に抱えていたユーユーを降ろすと隠れるように促す。
「白雪、さっき考えたのですがずっと手をつないでれば強いままでいれるのではないのですか?」
【なるほどねぇ~。手を繋ぐと動きにくいからもっといい方法があるの思い付いちゃった♪】
納屋を破壊して飛び出してくるコウモリの攻撃を2人が左右に裂ける。
「嫌な予感しかしないのです」
【スー鋭いっ☆】
コウモリを挟んで向かい合う2人。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます