第55話:お友達
思月が仕事を終え帰る道すがら道の端でソワソワした女の子が目に入る。その女の子が思月を見ると嬉しそうに駆け寄ってきて小さな肩を揺らし息をするがその顔は嬉しそうだ。
「あ、あの、この間はありがとう」
「橋の下にいた子であっているのですか?」
女の子が笑顔で大きく頷く。
「私、
「名前……
「思月、私と友達になってくれないかな? だめ?」
突然の申し出に戸惑う思月だが小さく頷くと、とても嬉しそう手をとる李词语。
「
思月はぐいぐいくることに戸惑いながらも少し嬉しく恥ずかしそうな笑顔を見せ頷く。
「一人称はスーですけどそう呼んで欲しいのです。じゃあ
「うん、よろしくユエユエ」
「ええ、ユーユーよろしくなのです」
その後2人はしばらく談笑した後別れる。
* * *
思月はベットに転がり部屋にいる白雪に話しかける。
「白雪、スーに友達が出来たのです。思えば前世で仲間はいたけど友達っていなかったかもしれないのです」
ふぅ~っと息を吐き月のような瞳に今宵の月を映す。
「いなかったのではなく。スーが避けていたのですかね」
遠くを見るその目に赤く揺らめく光を映す。遠くで何かが揺らめいている。
「火?」
胸の奥で感じる嫌な予感に胸を押さえ白雪を見て手を伸ばすが途中で手を止める。
「白雪を連れて行くことはないのです。ちょっと様子を見てくるのでお留守番よろしくです」
着替えると部屋を飛び出て暗闇に溶け込むように消える。
* * *
とても13歳の女の子がするとは思えない動きで音もなく木々を駆け途中すれ違う人に気付かれることなく移動していく。
(あっちは、ユーユーの住む村……火事? なにかおかしいのです)
胸騒ぎを抱え村のある方へ向かう為に森を突っ切る。近付くにつれ焦げ臭い臭いが濃くなる。そして血の臭いが混ざってくる。
思月は手前の家の屋根に飛び乗ると上から様子を伺う。
(声……騒ぎは……あっち)
一番騒がしい方を目を凝らして見る。
(なんなのですあれは? 魔物!?……まさか)
地を這うように移動しながらその鋭い爪を携えた翼に生えた手で人を掴み地面に押しつけ潰しその残骸を貪り食うコウモリのような生き物。
魔物かどうか考えても仕方ないと屋根を蹴りそいつの頭上に移動すると上空から踏みつける。
食事中に突然現れ頭を踏みつけられたコウモリが甲高い鳴き声をあげ怒りを顕にし跳躍すると手を広げ飛び掛かってくる。
跳躍するコウモリの下を滑るようにくぐり避け前宙するとコウモリが地面に手を付いたと同時に落下し背中に蹴りを入れる。
「スーの攻撃が軽すぎるのです」
思月の言葉通りダメージを受けていなさそうなコウモリは体勢を整え臨戦の構えを見せる。
再び飛び掛かってくるコウモリを思月が避けるとコウモリの手は鳥小屋を破壊し鳥がパニックになり鳴きながら大量の羽を舞わせ飛び出してくる。
舞い上がる羽を吹き飛ばしながらコウモリが手を広げて思月に覆い被さろうとしてくるのを大きく後ろに跳ねて避ける。
「おじさんこれ借りるです」
避ける際に家の影に隠れていたのであろう、おじさんと目が合い声をかけるが答えが反ってこなかったので了承をもらわずに薪に刺さっていた鉈を手に取る。
その瞬間コウモリが地面スレスレを跳んで振ってくる翼を紙一重で避けその手に鉈を振り下ろす。
3本の閃光が三角形に走りコウモリの翼から血が散る。
「3回振るのが限界とは弱くなったものです。しかも力も弱くなって表面しか傷付けれないのです」
思月は自分の細い腕を見ながら前世を思いだし比較してしまう自分にぼやきながらも地面を蹴って体全身でスピンし勢いをつけ威力を増した鉈による斬撃を繰り出す。
だがそれはすぐに翼の骨に当たりカンッと音を立て刃が止まってしまう。
そしてそのままコウモリが翼を振り上げたことによって思月は吹き飛ばされてしまう。体が軽い思月は遠くまで飛ばされ民家の扉をぶち抜いてようやく止まる。
「いたたた。久し振りにこんなダメージ受けたのです」
民家の棚やテーブルを破壊し瓦礫となったそれらを押し退け立ち上がると服の埃を払う。
「いたっ……」
払う右手に小さな痛みを感じ手の甲を見ると僅かに切れ血が滲んでいる。その血を見て思月の脳裏に血を流しながら笑う女性の顔が過る。
「昔血まみれの女の人になんか言われた気がするけどもう忘れたのです」
思月が気配を探る。
「移動した?」
コウモリが移動したことに焦りを感じる。床の板を破壊し飛ぶように外に出るとコウモリは村人を襲っているのが見える。
「急がないといけないのです」
落ちていた鉈を拾うと走りながら投げる。その気配を感じたのかサッと身を翻し鉈を避けるがその動きを読んだ思月が顔面に蹴りを入れる。
顔こそ歪めるがダメージの薄いコウモリは自分の周りをしつこくまとわりつき攻撃してくる思月を敵と認めたらしく猛攻が始まる。
低い態勢から飛びかかる攻撃は翼の大きさによる攻撃範囲の広さと先端の爪の鋭さで非常に避けづらく、横に払う、上から押し潰す、下から振り上げるの動きを流れるようにしてくる。
ギリギリで避けてはカウンターで攻撃を加えるが決定打にはほど遠い。
(まずいのです。スーの今の力ではどうしようもないのです。どうすれば……)
焦りを見せ始める思月が何度目か分からない攻撃を避けたときだった逃げる村人の一人に声をかけられる。
「ユエユエ? なにをしてるの……」
「ユーユー!?」
突然声をかけられ思月の動きが鈍る。その隙を見逃してくれるコウモリではない地面スレスレからの横に大きく振られる翼。
思月は咄嗟にユーユーに覆い被さり翼を受ける。
小さな女の子2人は弾けるような勢いで飛ばされ納屋の壁を破壊し止まる。
「かっ、かふっ……だ、大丈夫ですかユーユー……」
脇から血を流し苦しそうにする思月はユーユーを心配して手を伸ばす。
「私よりユエユエの方が、ねえお腹から血が出てる!? ど、どうしよう」
「スーは大丈夫なのです」
(魔力の展開が下手になっているのです。地の体術にのせる程度ではこんなものなのですか。私の力の使い方……このままでは白雪に会う前に死んでしまうのです)
納屋の天井をぶち抜いてコウモリの手が現れると空いた穴からコウモリが覗く。
「腹立つ顔をしてるのです。獲物を仕留めた気になって、油断大敵なのです」
よろよろと立ち上がる思月。口ではそう言うが策などないただの強がりである。背中にユーユーを庇い上から覗くコウモリを睨む。
(どうしたらいいですかね……? あれは?)
思月の月のような瞳が青と赤の派手な鳥を映す。
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