第47話:みんなで頑張る!

 私は最近通信障害が起きている地域に向かって下水道を走る。ここにくるまで壁に漢字を描いてみたが前の地下と同じく反応しないのは確認したので罠を仕掛けれないのは残念だ。

 この原因が未だに分からない。折角、美心と宮西くんが仲間になったのだから相談してみるかな。私の能力について説明する機会にもなるし良いかも。


 耳の通信機にジジッっとノイズが走る。足を止め通信機にタッチして通信する。


「聞こえる? なんかノイズが走り始めたんだけどあいつが近いのかも」


〈あ、うん聞こえるけど確かにノイズが入り始めてるね。そうだあのワニガメだけど名前付けたんだ。今後個体名があった方が共通認識しやすいと思うんだ。今後複数体出現したとき指示も出しやすくなるし〉


「名前? はあ、成る程ね。そんなの考えもしなかったわ。そこまで気が回るなんて凄い! 頼りにさせてもらうね!」


 なんか通信から宮西くんの〈あわわわっ〉って声がしてすぐにバシッて叩く音が聞こえる。


〈う、うん。で名前なんだけど変にもじったりせずシンプルに『ワニガメン』でいこう──〉


 通信がブツリと切れる。「うわっ! センスないかも」と言ってる途中だったけど聞こえたかな?


 通信機のボリュームをミュートにして耳を澄ませる。

 ジャブジャブと水を移動する音。相手が分かっているとやり易い。他にも敵がいないか念のため周囲の音や気配も探る。


 近付く水を進む音は確実に息を殺し獲物を狙っている気配を感じる。

 宮西くんが言ってたけどワニガメの狩りのスタイルは待ち構えて近くに来たところをガブッとやるらしい。

 水の音を殺しきれないのは生態にあった動きをしていないってことかな?


 水を吸い込む音……ってことはくる!?


 水中から一直線に高圧の水流が噴射され下水道の壁を破壊する。

 飛び散る破片を避けながら『雷弾』を撃ち込む。水面で弾ける輝く雷弾だがダメージは多分ない。

 ま、それで良いんだけどね。ってことで次々に雷弾撃ち込んでいきながら走る。


 高圧水流を放つとき水を吸い込むので溜めがある。吸い込む音で大体の位置と顔の向きが分かるので放たれる前に跳び水面の真上で漢字を描く。


「『艶麗繊巧えんれいせんこう血判けっぱん風弾かざだま』からの~『そく』!」


 ちなみに『風』は宙に描くので『弾』を描けば打ち出せるのが利点である! 『風弾』は『速』を通り加速して水を巻き上げると水面に穴を開ける。

 空いた穴にその姿を晒すワニガメンに飛び乗り『剛』の漢字を手に描いた状態での打撃。

 手に響く衝撃が堅さを教えてくれる。


「かったいなこいつ!」


 殴るだけ殴って頭を蹴って逃げると再び走る。

 怒ったのか水中から首を伸ばし口を大きく開け強靭な顎を使い噛みついてくる。


「もらいっと」


 伸ばした首に『雷刃らいじん』を放つ。雷の刃は首に傷をつけ血が滲む。

 思わぬ反撃を食らったのか首はあわてて水の中へと戻っていく。


「首は弱いのか。でも決定打にはならないと」


 首は伸びるから柔らかいのだろうけどそれでも皮膚を傷つけるだけだった。

 あわよくば首を切れるかもと思ったけどそう上手くはいかないものである。


 作戦に支障はないので攻撃を繰り出しながらワニガメンを誘導していく。



 * * *



「詩との通話が切れたが交戦中と考えて良いんだな?」


〈おそらく間違いないと思う。シュナイダー上流の方から実行していって。あくまでも遠距離から正体がバレない様にね〉


「ああ、この通信が切れた時点で最後の1枚を破壊し俺も交戦する」


 シュナイダーは川沿いを走りたどり着くのは小さな貯水湖。

 風を纏い風の刃を飛ばし水門の一部に穴を空ける。水門から溢れだした水は用水路を流れ始め事前にシュナイダーが掘っていた溝の方へ流れ始める。

 それは雨水用の下水へと流れ込む。


「予定通りだな。後数ヵ所破壊すれば水位も上がるか」


 水の流れを満足そうに見たシュナイダーは次のポイントへと走る。



 * * *



「どう? 首尾よくいってそう?」


「多分としか言えないけど。鞘野さんはおそらくワニガメンと交戦中だと思う。シュナイダーは水門を壊して水を誘導して下水に流してるって言ってるから問題ないよ」


 パソコンの画面を見て詩とシュナイダーの通信状態を記録しながら答える。


「へえ~電波が途絶えたところを計算して宇宙人の電波障害の範囲を計算するんだっけ?」


「そう、計算はパソコンの方でやってくれるから僕は数字を打つだけでいいけど」


 視線はパソコンのままでカタカタ撃ち込む宮西。


(むぅこれはなんか私の存在感が薄いなぁ。衣装担当以外になにか考えないと)


 宮西に改めてライバル心を抱く美心なのであった。

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