第48話:勝利へ向かって

 予定のポイントまでもう少しのところに隠しておいた鉄の棒に触れ事前に書いてあった漢字を発動させる。


『剣』


 棒状なので若干丸い剣が出来上がるが一応刃はあるので木刀よりは強い。

 水中から伸びて噛みつこうとする頭をいなし頭を斬る。ただ斬るといっても固いので刃は通らずあっさり弾かれるわけだが。

 戻っていく首に刃を数回当てるとさっきまで柔らかかった皮膚に鱗みたいな甲羅が生えていて刃が通らない。


「こいつもう進化したってことか。進化を促さないためにもあんま切らない方がいいかな」


 ほどよく押されながら攻撃を繰り出しワニガメンを誘っていく。こいつは防御に特化して進化しているのだろう攻撃速度が遅く非常に避けやすい。前回のように懐に入り込まなければカウンターを食らうこともない。


 唯一攻撃速度の速い首を伸ばす攻撃も首に鱗を纏ったせいで遅くなっている。

 これは予定外だけどラッキーだった。


 水の中から半身だけ出して攻撃を続けるワニガメン。その浸かる水が増え始めている。

 水位が徐々に上がり始めているのを甲羅がどれだけ水面から出ているかでおよそを測っているわけだ。

 シュナイダーが首尾よくやっているのだろう。


 素早く手に『剛』を描き発動させずに『風弾』を撃ち込み斬りかかる。

 風弾をものともせず私の斬撃も硬い腕で受け止められる。そのまま連続で斬る私を思いっきり殴るワニガメンの拳を『剛』で強化した剣で受け止めるが吹き飛びそのまま後ろにあった水門にぶつかると門を突き破って緩い傾斜を転がる。


 転がる私に追撃するべくワニガメンが地響きをあげ巨体を揺らし突っ込んでくる。

 すぐに体制を整え狭い空間でしつこく繰り出される攻撃を受け流しながら後退する。


 やがて大きな広場に出て私は下へ飛び降りる。ワニガメンは壁に腕をめり込ませながら降りてくる。


「なかなかパワフルに降りてくるじゃん。やりがい感じちゃうね」


 私が水門を破りシュナイダーが水嵩を上げるため外のため池を破り下水に水を誘導しているお陰でどんどんこっちに水が流れてくる。


「あんま時間ないから速攻でいかせてもらうよ!」


 予め地面に描いてあった『弓』の漢字を踏むと水の弓を作りだし『矢』つがえ放つ。

 ヒットするもよろけるだけのワニガメンだが私が移動しながら次々と矢を放ち後退させ目的地に誘導する。


 後退していた突如ワニガメンが沈む。床にあった25メートルプール程の大きさの窪みに落ちたのだ。

 ワニガメンはこれ幸いと水の中に身を隠す。『剣』になっていた鉄の棒を『槍』に書き直し先端を尖らせ水中にいるワニガメンに向かって投げる。


 その槍はあっさり避けられ槍はプールの底に当たる、だがそれでいい。底で赤く光り始める


『氷』


 の漢字。バキバキと音を立て水を凍らせ始めると側面にも描いてあった『氷』の漢字に当たり魔力に反応した漢字が氷結を加速させていく。

 氷結から逃げようと泳ぐワニガメンの足を氷が掴むと身体に巻き付く。必死で逃げるが急激に冷える水に動きが鈍ったのか敢えなく氷漬けにされてしまう。

 逃げ出そうとしたせいで肩から上が水面から出た状態で凍っている。肩から下は完全に氷の中だが上は表面に氷が張っているだけだ。もちろん息はある。


 そんなワニガメンの周りを歩きながら漢字を空中に描いていく。


「流石にこれじゃあ死なないだろうし、この程度の温度じゃあ叩いて砕くなんて出来ないものね。

 うちの生き物博士がいってたんだけど爬虫類の体にその氷はきついんでしょ?」


 これまた事前に用意してあった短めの鉄の棒が複数入っていた鞄を手に取ると肩にかけ一本取り出す。赤く光る『矢』の漢字に鉄の棒が矢に変化する。


 水の弓を再び作り拾い上げる鉄の矢をつがえ引く。


「まずは一本!」


 矢を引き飛んでいく矢は空中の『突』の漢字を潜りその勢いを増し氷を貫きワニガメンの表面に浅く刺さる。そのまま水面を滑るようにワニガメンの周囲を移動しながら次々と矢を放ち全方向に突き刺す。

 上半身に突き刺さった鉄の矢と氷の間に滲んでくる血。


 そこに風をまとい上空から落ちてくる我が家のワンちゃんが必殺技名を叫ぶ。


「『風脚かざあし風打ふうだ』!!」


 風で斬るのでなく固めて鈍器と化し空間を縦横無尽に駆け打撃を与えていく。その打撃は鉄の矢を何度も叩きワニガメンの体に深く刺していく。

 その間に私は漢字を宙に描くと拳に魔力を込める。


「シュナイダーナイスタイミング! 避けて!」


「おうよ!」


 シュナイダーが宙を蹴り上空高く飛び下がるのを見て私が拳を魔方陣に叩きつけ漢字を光らせる。


「ちょっぴり長い付き合いだったけどこれでサヨナラだねっ!」


『雷』が光雷が真横に走ると『撃』とぶつかり『雷撃』となりワニガメンを襲う。その電撃はワニガメンに刺さる鉄の矢を伝い体内へと流れる。

 バチバチっと激しい音と焦げ臭い臭いをあげ体を激しく痙攣させていたがやがて真っ黒になって煙をあげるワニガメンはピクリとも動かない。


「終わったかな?」


 私が通信機にタッチしてミュートを解除するとザーっとノイズが走るが遠くで声が聞こえる。


〈さ──さや──〉


 この声は宮西くんか?


〈あいたたた、いたい〉


 なんだろ?


 ──叩かなくても 

 ──先に私が話すの! 


 遠くで声が聞こえる……やがて聞こえてくるのは


〈詩! 大丈夫? 自分で切ったとこ以外怪我してない?〉


 美心の声だ。なんか後ろで宮西くんがぶつぶつ言ってるけど何があったんだろ。今は分からないので美心に報告する。


「うん大丈夫! 無事にワニガメン倒したよ」


〈よし、それじゃあ帰ったらお祝いだ!〉


 美心の言葉で勝利を実感を改めて感じた私はテンション高く答えるのだ。


「いいねお祝い!! 4人で掴んだ勝利を祝おうよ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る