力を合わせて
第45話:衣装が出来たよ♪
私は今非常に驚いている。今どこにいるかというと宮西くんの部屋にいるのだ。
彼がパソコン上でなにやら打ち込み立体図を展開しそれをクリックし回しては数値を微調整していく。
やがて調整が終わったのか印刷をクリックするとちょっと離れたところにある四角いプリンターが動き始める。
このプリンターは中が空洞になっていて紙に印刷を始めるのではなく、なんかクリームみたいなのを出して積み上げている。
「ねえこれなに?」
「えっとはい、熱溶解積層法と言って今出ているのは溶融樹脂なんだ。設定したデータを元にこれを積み上げて形を成形していくんだよ。他にも光造形といって──」
なんか話が長くなるので途中からは聞いていない。
「粘土みたいなの積み上げて形作るってことね」
「え、あ、いやそうじゃなくて。ABS樹脂で──」
私はピッと人差し指を立て宮西くんの口をふさぎ話を遮る。
「素材とかは宮西くんに任せるから今日は試作品を見せて。それを美心のところに持っていくから」
宮西くんが話を遮られ顔を真っ赤にしている。詳しく説明したいんだろうけどめんどくさいので強引に止めさせてもらう。
正直あんまり興味ないしね。
そうこうしていると宮西くんの部屋のドアが開きお母さんが入ってくる。ものすごい笑顔でコーヒーが入っているであろうカップと大量のお菓子が積まれたお皿が乗ったお盆を持っている。
「鞘野さんはコーヒーでよかったのよね」
「はい、ありがとうございます! お邪魔したうえに気を使って頂いて申し訳ないです」
「いえいえ、良いのよ良いのよ!
テンションの高いお母さんを顔の赤い宮西くんが手で押して廊下に押し出そうとしている。
「お母さん、いいからもう出ていってよ。鞘野さんも忙しいんだからさあ」
あれ? 忙しいとかそんなこと言ったっけ私? そんなことを思いながら見る目の前の光景。
美心の家に遊びに行ったときも思ってたけどこうやって他人の家族の幸せな姿を見るのって良いわぁ。
親のいない子供たちも沢山見てきたけど、宮西くんぐらいの子が戦場に出て命落とすとかよくあったから子供のいない親ってのも沢山見てきた。
なんて声を掛けていいか分からない状況に対し途方に暮れたものだ。
そんな犠牲者がでないとも限らない。そのためにもあのワニガメを倒そう。心に誓う。
「ご、ごめんね鞘野さん」
「ん? なにが?」
「お母さん騒がしくて、迷惑じゃなかった?」
「そう? 優しいお母さんだと思うよ。大切にしてあげて」
私が宮西くんの胸をポンっと叩くと叩かれた場所を押さえ下を向き考え込み始める。私が言うのもなんだけど親の大切さって失って分かっても遅いから後悔しないように接して欲しい。
「それで敵の説明は前にしたけど宮西くんはどう思った?」
「え、ええええっと……うん」
顔を赤くした宮西くんが慌てて答えてくれる。ああ、お母さんのこと考えてた途中だったか。私が考えろと言っておきながら急かしたみたいで配慮が足らなかった。
「えっとね。作戦は考えたんだ。それを実行するのと実験も兼ねてやってみたいこともあるんだけど良いかな?」
学校とかで見せることのないやる気に満ち溢れた顔。やりがい感じてますって顔だ! チームにこういう作戦立案者がいると助かるんだよね。
なんかテンションあがるなあ♪
「聞かせて」
私の答えに嬉しそうに頷く宮西くんの作戦を聞くのだった。
* * *
鞄に荷物を入れて帰る準備をしていると目の前に立つのは美心。
「ごめん待たせちゃったぁぁ……あ? どうした美心?」
目の前に立つ美心は顔が赤く目がギラギラしている。なんというか活力に満ち溢れているというか。
「詩! 帰り
「うん良いけどさ、どした?」
朝からテンション高いなあーって思ってたけど腕を組不敵に笑う美心は止められる気がしない。
「出来たのよ! 詩の
「そ、そうなんだ。時々美心が分からなくなるよ……」
暴走する美心に腕を捕まれ引きずられるように美心の家に到着する。前にも少し話したけど美心の実家は仕立て屋さんを営んでいる。家に隣接する作業場にいる美心ママに挨拶して部屋に向かう。
「さてさて~詩さんこれを着て欲しいのですのでございますよ」
「着るよ、着るけどさ。なんか怖いよ美心」
暴走状態の親友に怯えながら渡された衣装に袖を通す。ってこれはどうやって着るのだ? 困惑する私を美心が手伝ってくれて着替えは終了する。
「へえこの袴スカートかと思ったけど短パンみたいな感じなんだ。良かったスカートだと戦いにくいから」
「そこは考慮するよ。そもそも一緒に戦う仲間が変態で一番気をつけないといけない訳だし」
美心にまで変態呼ばわりされるシュナイダーってなんなんだろう。まああいつはそう呼ばれても自信もって俺は変態だから問題ないとか答えそうだけど。
それよりもこの衣装だ。前のスケッチ通り巫女をベースとしたものとなっている。上の白衣のベースは普通のと変わらないが赤い紐が縫うように袖、襟にあしらわれている。
一番の特徴は袴だろう。朱色で膝上までしかなくパッと見スカートに見える。ふんわりしたミニのガウチョパンツだ。
ちなみに足袋と草履は市販のものを買っている。
「これ可愛いね」
「ホント!? 流石詩さん!! 御目が高いわぁ~」
私が袴を摘まんで感想を言うと感激する美心は物凄く嬉しそうだ。
「よしよし、ちょっと千早は用意出来てないけど。後はお面だね」
「宮西くんが作っているんだっけ?」
「そ、この間の試作品見ていけるのは分かったからお願いしてるよ。宮西くん塗装も出来るらしいから細かい色も完璧!」
「楽しみだねぇ」
なんかテンション上がるなぁ。なんて言えば良いだろうか、一人じゃないって感じが嬉しいのだ。
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