第44話:仲間になりなさい!

 下水道を投光器が煌々と照らす。その中を防護服を着た人たちが周囲をくまなく捜査する。欠片を拾っては鉄制の瓶に詰めていく。

 瓶は上から蓋がされると蓋が開かない為だろう隙間のないピッタリのサイズにくり貫かれた鉄制のジュラルミンケースにはめ込まれる。

 さらにその上からケースの蓋が閉められ完全密封される。


 1人の防護服の作業員が立ち上がり腰が痛いのか背中をポンポン叩く。そのまま右耳があると思われる場所に触れると話し始める。


「坂口さん暑いです。ダルいです。帰りたいです。で、なんか見つかりました?」


「おまえ文句多すぎだろ。いいから探せよ」


 小椋がしゃがみ地面を探し始める。


「大体襲ってくるかもしれない破片を探すとかヤバイでしょ。襲われたらみんなゾンビですよ」


「ま、そうだけどな。そんときは上で待機している自衛隊の方々が殲滅してくれるはずだ」


「殲滅って俺らを撃つわけでしょ。とんでもない仕事じゃないですかこれ。手当少ないし、俺ら死んでも二階級特進とかないんですよ」


 小椋の文句は無視されしばらく黙々と作業を続ける2人。口を先に開いたのはやはり小椋の方。


「坂口さん。この下水道の破壊跡つけたのってやっぱり未知の生命体とあれですかね?

 坂口さんが発見した電波障害の可能性を考慮して強い電波を放つ機器を作るとか言ってましたよね……って聞いてます?」


 坂口は黙ったままだが小椋の言葉を聞いて思い出していた。ゾンビに襲われたときに現れた赤い毛並みの犬と天狗のお面を被った女性。

 雷が走りゾンビを一掃しながら走り去っていった。その後ゾンビ発生源のビルに突入したのまでは確認できた。

 それからしてすぐだった周囲のゾンビたちが口から泡を吹き痙攣を始め倒れだしたのは。おそらくあの女性と無関係ではないはず。


「おーい坂口さん。大丈夫ですか? 熱中症とかになってません?」


「あ、ああ大丈夫だ。すまん」


 坂口は立ち上がり投光器に照らされる下水道を見渡す。強い力がかかったのだろう大きくへこんだ壁に鋭い何かで切り裂いた様な跡。

 所々焼け焦げ地面は真っ直ぐラインを引いたように破壊されている。


「なんなんだろうな」


「さあ、なんなんでしょうね」


 坂口は破壊された下水道を見上げながら自分の口が開いていることに気付くがそうしている方が正しい気がしてそのままにしておく。


(これは我々が対抗出来るものなのだろうか)


 そんな不安を後輩に悟られないようにして傷跡を見つめる。



 * * *



 私たちの前にお菓子とジュースが並べられる。


「ごめんなさいね。今オレンジジュースしかなくて。お茶とかが良ければ言ってね」


「いえいえ、オレンジジュース好きですから。いつもありがとうございます」


 美心とのやり取りの後ママは部屋のドアを閉める。階段を下りる音がして最初に喋るのは美心。


「はい! 質問です」


「美心さんどうぞ」


「シュナイダーくんはどこへいったのですか?」


「シュナイダーくんはどぶ臭いのでパパに洗われております!」


 ここまでハイテンションでやり取りする私たち。因みにシュナイダーは私との散歩中に私を引きずりどぶに落ちたことにしてある。


 シュナイダーには私たちがどぶ臭くなったことの罪を被ってもらった訳だが、これは帰ったらお風呂で洗ってあげるからと言ったら喜んで引き受けてくれて了承済みなので問題はない。

 本人ハイテンションで了承してくれたし。


 あれから3日たってもシュナイダーは臭いので今日も洗ってもらっている。


「じゃあ本題に入りましょう」


 コホンと咳払いをして私と美心からちょっと離れた位置に小さくなって座っている男の子を指差す。


「美心さん、こちらご存知でしょうが宮西雅明みやにしまさあきくんです」


 パチパチと拍手をする美心にますます小さくなる宮西くん。


「この方、私の秘密を知ってしまった訳なのですよ。そこで処分を決めたいと思うのです」


「ほうほう、どうしてくれましょうか」


 悪い顔の私と美心に怯える宮西くん。ヤバイちょっと楽しい。この勢いのまま本題に入る。


「宮西くん。私の秘密を知ったからには協力してもらうからね」


 ふっふっふと指差して笑う私。

 実際協力といってもこの秘密を黙っててくれれば良いだけだ。あんな怪物を見た後で怯えているだろうし。正体さえバレなければ良い。


「え、いいの?」


「え?」


 目を輝かせ私を見る宮西くんに私の方が困惑する。


「ボクあれから色々調べてまとめてみたんだ。それでね、これ! これを見てほしいんだ」


 ハイテンション宮西くんが地図を広げ説明を始める。さっきまで怯えていたのにえらい変わりようだ。

 逆に驚く私を置き去りにしてなにやら地図にボールペンで書き始める。


「このエリアが鞘野さんが戦ったところなんだけどそれより2日前からこの辺り一帯に小規模だけど電波障害が起きているんだ。で、ここからが大切でこの障害って微妙に移動してるんだよ」


 日付の書かれた丸を見ると少しずつ移動している。時々消えてしばらく電波障害が起きていない時期があってまた突如出てくる。


「これってもしかして」


「もしもあの化け物が電波障害を起こす何らかの原因を放っているとすればこのエリアの移動は化け物の移動したという仮説が立てれる。

 電波障害が起こっていない日は原因を放っているなにかが範囲外に移動してしまったか、原因そのものを止めたかだと思うんだ」


 宮西くんの説明は止まらない。かなり長くなりそうだ。

 というかこれは……つかえるんじゃないかぁ~フフフフフ。


 ニヤリと笑う私と目が合う美心も察したのかニヤリと笑う。


「宮西くん」


「え、はいっ!?」


 私がビシッと指差して宣言する。


「仲間になりなさい!」


 その言葉に目をまん丸にする宮西くん。

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