第43話:誰だ!亀が遅いとか言ったのは!!

「違います!」


 アイスホッケーマスクの私を鞘野さんと呼ぶ宮西くんにそれだけ言ってワニガメの方を睨む。なんか困惑してる感じをひしひしと背中越しに感じるけど無視して目の前の敵を観察する。


 一言で表すなら巨大な亀だ。ただ私が知っている亀と違い顔が狂暴で顎がゴツく何でも噛み砕きそうな強靭さを感じる。

 その口でバリバリ音を立てザリガニを食べている。2体とも宇宙人なのだとすれば共食いになるのだろうか?


 この食事中のスキを逃さず炎を纏ったシュナイダーが周囲を飛び回り切り裂くが僅かに皮膚が欠けるだけだ。


「こいつ硬いぞ、詩! 電撃を流せるか?」


「う、詩じゃない! わ、私はフラプリ! そうフラウータなのです!」


 片足をあげ、腕をあげ、天を指差す私はフラウータ名乗る。


「どうしたんだ? なにがあった……」


 珍しく私に困惑するシュナイダー。


「いいから私を乗せろ!」


「おお! 任せろ! その言葉が大好きだ!」


 いつもより軽やかに走ってきて私の前に立つと乗せてくれる。本当は嫌だけどここは我慢してシュナイダーに宙を駆けてもらい私は雷弾を放つが皮膚の上で弾ける雷。


「これ効いてる?」


「火力不足か?」


 ちょっと痒いなあ位しかダメージの無さそうな巨大ワニガメを見て自信なく呟く2人。

 シュナイダーと共に火や風を打ち込んでみるがいまいち効いている気がしない。

 そんな私たちの様子を観察するように見る巨大ワニガメ。


「斬撃に強いなら打撃でいくまで!」


 汚水に筆を触れさせたくないので慎重に描いた漢字に拳を叩き込み魔力を流す。『水』から出た水流が『鎖』を通り水の鎖を編むと真っ直ぐ水面に伸びると再び『鎖』を光らせそこを経由して水の鎖を延長していく。


 計5つの魔方陣を通し延長した水の鎖は巨大ワニガメを囲うとそれを走り回りながら引っ張り絡みつけ縛り、尖った先端を壁に突き刺した後、持ち手をシュナイダーと引っ張って水中に潜り込まれない様に固定する。


 持ち手を壁に突き刺すとシュナイダーと別れ巨大ワニガメを挟みそいつに向かって同時に跳ぶ。


艶麗繊巧えんれいせんこう血判けっぱん 風圧ふうあつ

散華夜半嵐さんかよはんのあらし


 2人同時に風を纏い自身の前方に風の壁を作り挟み込むことで風の打撃を与えた後そのまま押し潰し圧殺する。

 風の壁に潰され苦しそうに唸る巨大ワニガメ。甲羅部分にダメージは入っていないが手足や頭は押し潰され裂けた皮膚から血が滲んでいる。

 さっき宮西くんが頭が大きくて甲羅に入れないと言っていたからこいつの頭は潰せるはず。それを狙って魔力を込め推し続ける2人。


 バキバキ音を立て始める巨大ワニガメ。


「おいこいつ!」

「嘘でしょ!」


 手足や尻尾、頭の皮膚がバキバキ音を立て甲羅のような皮膚に変わっていく。

 攻撃中の進化に驚きながらも攻撃を継続する。巨大ワニガメは甲羅のような皮膚を纏い手足に力を入れると身を屈め高速でスピンする。

 押していた風が振り払われ私とシュナイダーが弾き飛ばされる。

 対角線状に飛んだ私たちは派手に煙をあげ壁にぶつかる。


「あいたたた、なんなのよこいつ」


「くそっ、堅いなこいつは」


 立ち上がる私たちを待ってはくれず巨大ワニガメがドスドスと水飛沫を豪快にあげながら私に突っ込んできて蹴りを放つ。

 跳んで避ける私に巨大な腕が迫り再び壁に衝突する。

 そのまま巨体を揺らし突進してくる。


「嘗めんなよこいつ!」


 壁にぶつかって散った壁の一部を拾い投げると巨体ワニガメの足元で光る『棘』によって水の棘が下から飛び出てくる。それをものともせず突っ込んでくるが少し突進の速度が落ちた。


「それで十分!」


 風の刃を放つ。ただ巨体ワニガメにでなく水面に向かって。

 風の刃が水面を跳ね光る『突』の漢字で水が大きく巨体ワニガメの足元で盛る上がる。

 突如出来た段差に足をとられる巨体ワニガメの頭上にいるシュナイダーが体勢を崩す方向に向かって炎を纏った突進を後頭部に放つ。


 足と頭の両方からバランスを崩され頭から地面に突っ込む。水飛沫と地響きをあげ倒れるその頭をシュナイダーが蹴って跳ぶと入れ替わりに私が『雷撃』頭に放つ。立ち上る雷光が辺りを照らす。


「詩!」


 シュナイダーの声が聞こえたときは既に吹き飛ばされ地面を削り壁にぶつかる。


「いったああ!! ってうわっとぉ!?」


 ぶつかってすぐに立ち上がる私を襲う高圧の水流横に跳び転がって逃げる。地面を抉りながら飛んでくる水流が私がいた場所を破壊し壁が吹き飛ぶ。

 今だ倒れたままの巨大ワニガメの頭上から炎の弾丸が襲いかかるがそれを首を伸ばし頭突きで振り払う。

 その首は蛇のように長く甲羅の中にどんな風に収納されてんだってくらい長い、ろくろ首みたいだ。その首でさっき私を吹き飛ばしたのだと推測する。


 2人で回り込みながら炎を風を撃ち込むが効いている様子がない。


「シュナイダー! 撤退! 無理!」


「チッ、仕方ないか撤退を開始するぞ!」


 私が巨大ワニガメの足元に『雷鳴』を放ち足止めするとシュナイダーが走り宮西くんを咥え投げて背中に乗せると走り出す。

 その後を私も追って走る。

 追ってくる気配に向かって何発か雷弾を放ち牽制をしつつ全力で地上に逃げるのだった。



 * * *



 シュナイダーの背中にしがみつき家の屋根を跳びながら私を見る宮西くん。


「あ、あのフラウータさん。ちょっといいですか?」


「……」


 私はマスクを脱ぐ。


「隠してもどうしようもないか。宮西くんのいう通り鞘野詩で合ってるよ。で、なに?」


「あの、鞘野さんは何者であの化け物はなんなの?」


「何者って鞘野詩としかいえない。そしてあれは宇宙人だと思う」


「う、宇宙人!?」


 驚く宮西くんに私は告げる。


「このことは黙ってて、いい? そしてあなたの処分は後で決めるから覚悟してて」


 威圧しながら言う私に宮西くんは無言で頷く。








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