第42話:見分け方は意外に難しいのです
下水道でアイスホッケーのマスクを被った女子高生に「君はだれ?」と聞くクラスメイトの宮西くん。
答えたくないので取り敢えず質問を無視して関係ない質問を重ねてみる。
「なんであれがアメリカザリガニでオスだと分かったの?」
「えーとそれはだね。第一胸脚つまりハサミが大きいんだ。メスの方はハサミが小さいんだよ。それになにより腹部に足みたいな突起物があるからね。あれはオスの特徴なんだ。
それとアメリカザリガニの特徴としてハサミにあるトゲ! 日本のザリガニは──」
説明の止まらない宮西くんをおいて私はシュナイダーの方をチラッと見る。
「良かったねシュナイダー、あいつオスだってよ。心置き無く倒せるじゃん」
「どういう意味だ?」
「あれ? ザリガニの女の子は好みじゃないんだ?」
「お前オレをなんだと思っている」
「変態」
その言葉を合図? に私とシュナイダーは左右に別れ同時に走り出す。巨大ザリガニがハサミを構えるとそのハサミがドンッと音を立て飛んでくる。
「なんじゃそれ!?」
ハサミがロケットパンチみたいに飛んできたことに驚き文句を言いながら撃ち込む『雷弾』は外骨格を少しへこませ体に電流を流すが思ったより効果がなさそうだ。
飛んできたハサミには筋肉の筋みたいなのがついていてそれが本体の方へ引っ張り巻き上げていく。
だがその巻き上げはシュナイダーの爪によって切断され中断される。
「本体さえ出ればこっちのものだ」
シュナイダーが宙を駆け放つ無数の斬撃が外骨格に当たるが弾かれる。それでも巨大ザリガニの周りを螺旋階段を登るように駆けて真上に到達すると炎を纏い激しく燃え上がる。
「奥義『
必殺技名を叫ぶシュナイダーに合わせ周囲に描いていた魔方陣を叩き『流』の漢字を光らせるとシュナイダーが巨大ザリガニに突っ込み周囲に吹き出す業火を風を流し内側に押し留め上に舞上げる。
「熱い、熱いっ!」
一応周囲の被害を抑えるのと火力を逃さず威力を高める意味で風を送っているのだが魔力を持たない宮西くんにはこれでも熱いみたいでバタバタしている。
こういう場合普通心配するんだけどさっきから私達の戦いを目を輝かせ見ているし熱さに悶える今もその輝きは失われていないから大丈夫だろう多分……。
炎が風に煽られ大きく舞い上がると下水道の天井を焦がして消える。そこには真っ黒に焦げた巨大ザリガニが佇む。
「やったっ! おわっ!?」
宮西くんが歓喜の声をあげると同時に私は走って宮西くんの襟を持つと放り投げ自分は反対方向に飛び退く。
次の瞬間、高圧に圧縮された水が私と宮西くんの間を走る。
「奥義『
シュナイダーは空中をジグザグに蹴りながら真っ黒に焦げたザリガニを切り裂き水中に炎の
「チッ、オレよりは詩! お前の方がコイツには向いている!」
「んじゃあ今回は私メインってことでっ! サポートは任せた!」
舌打ちをしながら私の元へ来るシュナイダーに股がると空中を駆け出すシュナイダー。
「なあ詩よ」
「なによ?」
「今日はいい日だ。やっとお前がスカートで股がってくれた記念すべき日だ」
幸せそうな顔で犬なのに頬を赤く染めるシュナイダーの頭を軽く殴る。
なんか意識してきたら太ももに毛が当たって痒い。とっとと終わらせよう! そう強く思いながら空中に漢字を描いていく。そして走りながら観察する。
「こいつ、なに? 脱皮したってこと」
「おそらくそういうことだろう」
シュナイダーが切り裂き下でバラバラになった黒く焦げたザリガニの中身はスカスカで外骨格だけしか転がっていなかった。
仕組みはよく分からないけどシュナイダーが炎を纏ったときに危険を察知し瞬時に脱皮して水中へ逃げたということだと思う。
「それなら出てきて貰うよっ!」
シュナイダーが水面スレスレを走りそこに漢字を描くとその一つ上の漢字を叩く。
「これでサヨナラだよ!」
『雷』が下の漢字の『鳴』に当たり『雷鳴』を生み出し水を吹き飛ばす勢いで水面に稲妻と衝撃波が走り爆音が鳴り響く。
その攻撃に飛び上がるように跳ね体を晒す巨大ザリガニ。
それを螺旋状に囲う『雷』の漢字が下から順に雷を浴びせ巨大ザリガニを逃がさぬように固定していくと真上に描いた『撃』の漢字にぶつかる。
『雷撃』
真上から真下へ一直線に雷が落ちる。目映い光が爆発したように広がり遅れて音と衝撃が下水道を揺らす。
一瞬だけ暗い下水道で生涯見ることが出来ない光が走り元の闇が戻ってくると頭上から尾ヒレ向け大きな穴を開け煙をあげて倒れる巨大ザリガニの姿があった。
雷撃で散った水が両サイドから戻ってきて巨大ザリガニの死体を大きく揺らす。
「逃げる暇もないはず、やったかな」
「ああ生きてる感じはないな」
「!?」
2人同時に反応する。水面から瞬時に離れると水が盛り上がり現れる2つの大きなワニの口のようなもの。それは巨大ザリガニの頭を挟み鋭い牙を使って食い千切る。そのままその姿を現す。
バリボリ音を立てるそいつは背中にゴツい甲羅を背負い私達を気にしながらも巨大ザリガニを食い続ける。
「ワニガメだ! あの特徴的な顔! それに強靭な顎! あれで噛みつかれたら敵は死を覚悟するしかないんだ。でも顎が発達した為に甲羅に入れなくなったんだよ。でもそれは敵がいないってことで──」
再び後ろから聞こえる声がそいつの名前を教えてくれる。私は宮西くんの言うワニガメに目を向けたまま背中越しに質問する。
「因みにオス? メス?」
「ワニガメのオスメスの見分け方は排泄口の位置を見るのが一番早いんだ。尻尾の辺りにあるから見てきてくれたら分かるんだけどいいかな鞘野さん?」
「やだ! どっちでもいいし。とにかくあいつを倒せば……あれ? 今なんて?」
「ん? どうかした鞘野さん」
私はそーっと顔を触る。硬い感触。アイスホッケーマスクは外れていない。
「なんで鞘野?」
「え? さっきからシュナイダーが詩って呼んでたし、その声は鞘野さんかなあって」
背中に嫌な汗をかく私はクラスメイトの宮西くんを背中にしてなんて言おうか悩むのである。
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