第41話:間違ってポチっちゃった!

 下水の悪臭を吹き飛ばすかのように風が舞うがそれは気のせい。この悪臭漂う空間において風を起こしても臭いのである。

 臭う風を纏うシュナイダーの顔は渋い。なまじ嗅覚に優れているだけにこの臭いは苦痛であった。


 軽やかに地面を蹴って跳ぶと前宙し尻尾を振り下ろすと風の刃が飛んでいき水面を切り裂く。


「ちっ、水の中に入るから攻撃が通りにくいか」


 文句を言いながら水面ギリギリを走りながら何度か風の刃を飛ばすが攻撃が通らず苛立つ。


 目の前で犬が喋り風の刃を飛ばしながら化け物と戦う様子を見て興奮気味の宮西は「すごい!」を連発する壊れたテープレコーダ化する。

 そんな声にも苛立つシュナイダーは攻撃を続ける。



 * * *



 鳥が飛び鳴いている。その声に耳を澄ますが以前の様に「すまんっす」みたいな声は聞こえない。そういえば最近見ないなぁとか思いながらいちご大福を頬張る私。


 大福の甘さをイチゴの酸味がアシストするお陰で甘さが引き立ち美味しさ倍増だ!


「ん?」


「どした?」


 空にあった黒い点がこっちに向かってくるような気がしたので注意深く凝視する私に隣に座っている美心が声をかけてくる。

 因みに私たちは学校帰りに和菓子屋でいちご大福を買った後、外のベンチで食べている最中なのである。


「美心私の後ろにいて」


 私はそう言って美心の前に立ち、いちご大福を咥えそれを左手で押さえ構える。

 黒い点は凄い速さで近付きその姿を現す。目の前に現れたのは黒い羽を舞わせながら羽ばたくカラス。そして私の目の前で羽をバタバタさせながらカーカー、ギャーギャー鳴く。


「シルマの使いか何か?」


 そう話しかけるものの答えは返ってこない。オルドも見た目おかしいがそれなりの神々しい雰囲気は放ってたので、なにも感じないこれはただのカラスっぽい。

 ただただ鳴きながらバタバタするだけだし、騒ぐので周りからの注目を浴びてしまう。

 なんとなくイラッとした私はカラスの頭を軽くデコピンすると空中でふらつくカラス。


「言葉が分かんないから、何かあるならそこまで地上で追える範囲で飛んで案内してよ」


 と言っても相手も私の言葉が分からないので私はいちご大福を咥え手をパタパタして適当な方向を指差しジェスチャーでの意思疏通を試みる。


 カラスがギャアギャア、私がパタパタする。


「ふふっ詩かわいい」


「笑わないでよー。どうすればいいのよこれ?」


 笑う美心におそらく恥ずかしくて顔の赤い私が文句を言うと美心は一言。


「詩が適当に走ったらカラスも必死になって案内始めるんじゃない?」


「なるほど、じゃあちょっと走ってくるから美心は先に帰ってて」


「あーちょっと待って」


 走ろうとする私を呼び止め鞄の中を探る美心が私に手渡すのは白いお面。


「美心これ……」


「こんなこともあろうかとお面だけ用意してみたの」


「あ、いやそこはありがとう。でもこれって……」


 私の手にあるのはアイスホッケーのゴールキーパーがつけるマスクだ。

 昔パパがホラー映画で見せてくれたスプラッタに人が殺されていくヤツが被っているマスクではなかろうかこれ。


「う~ん間違って注文しちゃったんだよね。もっとかわいいのって思ったんだけど」


「ホントに? ちょっと楽しんでない美心」


「ふふっ衣装が出来るまでにお面のデザイン考えるのに参考になるかなって思ったら間違ってクリックしたんだよね」


「絶対うそだぁ~」


 文句を言いながらも受け取って走りだす私に美心の声が聞こえる。


「詩の分のいちご大福とっておくから安心して!」


 おお! 流石我が親友。これで心置き無くカラスについていける。美心の予想通り走り出した私を見て慌ててカラスは飛び立つとこっちへ来て欲しいとでも言うように私を見ながら飛んでいく。



 * * *



 カラスについていくと僅かにシュナイダーの魔力を感じる。


「なに、あいつ戦ってんの?」


 カラスの誘導でたどり着く排水の溝。そこにちょこんと座るクロネコ。

 そのクロネコが私を見るとついてこいと言わんばかりに尻尾をピンっと立て排水溝の隙間に体をねじ込む。


「ついてこいって言ってるんだろうけど、そんな小さい穴入れるわけないでしょ。もっと入れるとこないわけ?」


 文句を言う私に穴から顔を出したクロネコと空から降りてきたカラスがおんなじ方向に首を傾げる。

 なんか可愛いけど下からシュナイダーの魔力を感じる今はそんなこと言っている場合じゃない。


 辺りを見回してマンホールを見つけた私はアイスホッケーのマスクを装着しマンホールの端を踏みつける。

 コイントスのコインの様にクルクルと宙を舞うマンホールの下にある穴に飛び込むと下水道の通路に着地しシュナイダーの魔力を頼りに走る。


 すぐにシュナイダーが水に目掛け風の刃を放ち赤いハサミを避けているのが目に入る。

『雷』『弾』の漢字を描き拳をぶつけ雷の弾を水の中に撃ち込む。

 水面に走る電撃が中にいる何かにダメージを与えたらしくその本体を晒し出す。


「何あれ? ザリガニ?」


「たぶんな」


 シュナイダーと並んで対峙するのは巨大なザリガニ。右のハサミがないのはシュナイダーがやったんだろう。


「アメリカザリガニだと思う。体が真っ赤でハサミも大きいからオスだよ!」


 後ろから割りとどうでもいい情報が提供される。

 声の主の方に振り替えるとなんと宮西くんがいるではありませんか!?


「え、ええっと君は誰? ボクの高校の制服着てるけど」


 私も驚いたけど、それ以上に驚いている宮西くん。


 そんなに驚かなくてもねえ。頬を掻こうとすると当たる堅い仮面。 

 あ、私の格好はアイスホッケーのマスクにわが校の制服だ……なんだこれ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る