第30話:洋服を縫ってあげましょう
右手を上げ呼ぶ私の腕をシュナイダーが切り傷口から血が舞散る。その血を空中に留めつつ筆を突っ込み腕を振り筆から血を何度も飛ばし床に赤い線を描く。
「『
床に水を呼び出す。足の裏が濡れる程度の深さしかない大きな水溜まり。水の力は使える場所が限られるのが難点であるが敵が水に触れているときには無類の強さを発揮する。
今回は水の量が少ないのであんまり攻撃面で期待は出来ない。私はお面を投げ捨て叫ぶ。
「シュナイダー! 私がサポートにまわるから攻撃は任せたっ」
「ああ任せろ」
言うと同時に2人が水飛沫を上げながら走る。シュナイダが空中を駆け始め風の道を作る。その間を『
クリーチャーが伸ばすたこ足を風の渦が妨害し戸惑うその足を上空から一直線に飛んできたシュナイダーが切り落とす。
痛いのか身を引くクリーチャーに『雷弾』を放つと皮膚を切り裂き焦がすとそこにすかさずシュナイダーが炎を纏った爪による斬撃を放ち内部を焦がす。
広がる傷口に先端を尖らせた水の鎖を何本も突き立て傷を広げていく。それと同時に何本もの鎖がクリーチャーの手足に絡ませ身動きを封じていく。
「奥義『
シュナイダーが空中に張り付いたままその体に業火を纏い口に炎で出来た剣を咥え宙を蹴ると部屋中を炎の線が走り肌を焼くような熱風が縦横無尽に走る。
その炎の剣はクリーチャーの開げた傷口に食い込むと腹から肩にかけて切り裂く。
傷口が塞がる暇もないほどの斬撃はクリーチャーの身を細切れにしていきそのまま私の作った水溜まりにピチャピチャと落ちていく。
クリーチャーのバラバラの体の下で光る『
水がブルッと震えラップをするかの様に細切れの体を包む。
その上ではシュナイダーが部屋の天井付近に張り付き力を溜め纏う炎の勢いを強めていく。部屋にいるのが熱いので私はその場所から飛び退き離れ最後のときを待つ。
クリーチャーの細切れのパーツをラップの様に包んだ水から沸々と泡が上がり沸騰が始まる。
「奥義『
相変わらずどこで覚えてきたか分からないネーミングセンスで放つその技は真っ直ぐ落ちる業火が地面にぶつかると熱風が渦巻き部屋を炎で満たすと破れた壁から炎が吹き出してくる。
私はそれを風の渦で受け流して防ぐ。一瞬で炎は散り部屋の中で火の粉が舞い落ち、赤い毛並みの犬からは毛先から炎が舞い上がる。
その幻想的な姿に感動するがそれも一瞬。
「詩! オレの力見たか! 惚れたか、よし抱きついていいぞ! だがオレを束縛することは出来んからなそこだけは注意しておけ」
「あーはいはい、倒せたみたいだし帰るよー」
変態の一言で台無しになった幻想的な雰囲気に苛立ち、手をパンパンと叩いて帰るように促す。私は真っ黒に焦げた床から周囲の壁を見て天井を見る。
天井も満遍なく焦げていてシュナイダーの技の威力を物語っている。
そういやなんでスプリンクラーとか動いてないんだろ? シュナイダーの熱が強すぎたとか?
天井にあるスプリンクラーを見てちょっと疑問に思いながらも自分を誉めろ、跨がれとうるさい変態犬の頭を叩いて脱出を図る。
地下を出て囲まれている可能性も考えたがそんな余裕はないのか誰もおらずあっさり脱出を成功させた私たち。
シュナイダーは家に帰して私はこっそり老人ホームへ帰り美心と合流して警察や自衛隊の方々の誘導で夜遅くに家へ帰る。
* * *
ゾンビ事件(私が名付けた)から3日。あのゾンビたちは私とシュナイダーが親玉らしきやつを倒すと同時に行動を停止したらしい。
ただこの事件は流石に全ては隠せなかったのか謎の大量死とし連日報道されメディアを騒がせている。それでも真実は大分制限されているが。
「さてさてぇ詩さん。これまで話したことに嘘偽りはないのでしょうか」
私の目の前で美心は紅茶を飲みながらちょっと楽しそうに私に尋ねてくる。私は必死に頷いてそうだと答える。
あのゾンビ事件のときの約束通り美心に真実を話す為にカフェにてお茶をしている私たち。もちろん私の奢りである。
そして私は嘘をつかずに全てを話した……って言ったらカッコいいけど嘘つこうとしたらことごとくバレてその度に怒られるので結局洗いざらい白状しただけなんだけど。
「転生なんて本当にあるものなんだね。へぇ~」
感心したように転生と何度か呟くと手を組んで顎をのせるとニコニコしながら私を見てくる。
なんか怖い……
「私にも手伝わせてよ」
「え、戦うの? も、もしかして美心も転生者とか!?」
驚く私に対して冷めた目で見る美心。
「そんなわけないでしょ。私が手伝うのは詩の衣装担当」
「へっ?」
「詩をあんな格好で戦わせる訳にはいかないじゃない。可愛い衣装とか考えなきゃ! 可愛い仮面も……カッコいいのもありかなっ!
あー久々に創作意欲湧いてきたーー!!」
困惑する私を置いて美心は熱く語り始める。あぁこうなったらもうこの人止まらないや。
楽しそうに衣装を考え始める美心を見ながら私はお願いする。
「美心、私のお洋服縫ってくださいな」
「任せてっ! 洋服を縫ってあげましょう! 飛びっきり可愛いのをね」
こうして私の専属の衣装担当が誕生したわけなのだ。
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