第29話:悩んでる暇があるなら突っ込め!

 部屋で無言のまま思考する1体のゾンビは黒目もないその視線を壁にぶつけフラフラとゆっくり揺れている。


 ──前回交戦した人間と動物……同個体と推測。サンプル体とは異なる能力。

 体内に侵入……失敗。運動能力、従来種より高く防がれる。

 交戦の可能性……


 そんな思考をぶっ飛ばすかのような轟音と共に壁がぶち破られ熱を含む風圧と破片と一緒に思考していたゾンビも吹き飛ばされ部屋の壁に叩きつけられる。


「ここが当たりっぽいね。匂いはどう?」


「ああ匂うぞ。コイツが株主である可能性は高い」


 ゾンビの耳に入ってくるこの世界の言語。完全に理解出来ないものの人間に取りついていた分なんとなくは分かる。

 こいつらは再び自分を殺そうとしていることが。今の自分は以前の生命体いたちの形状であったときより格段に劣る。

 死期が迫っているのが分かる。


 この寄生生物とて命あるもの。死を目の前にして抗う権利は持っている。


 キシュァァァァァァァァ!!


 甲高い金切り音を発し始める。



 * * *



 実験室と壁に書かれたエリアに入り気配を探る。音や匂いは感じられないから手当たり次第ってことで壁をぶち壊す。

 この辺りは前世のダンジョンとかと違って建物なので入り組んでなくて親切である。なんなら部屋の名前まで表示されているから親切にも程があるってところだ。


 シュナイダーが姿勢を低くして毛を逆立てる。最初は小さな火。それが空気を取り込んで生き物のように毛並みを這い覆っていくと全身を炎に包まれた犬が気高く立つ。もちろん中身は変態だけど。


 低い姿勢を更にグッと下げると周囲の空気を吸い込み炎が大きく成長していく。


「いくぞ『炎嵐ほむらあらし』!!」


 なんで犬なのに必殺技を律儀に叫ぶんだろうと思いながらも炎の弾丸となったシュナイダーが壁に体当たりをすると同時に起こる前方への激しい風と炎の衝撃波。

 壁は破壊され中にいたであろうゾンビらしきものが吹き飛んでいくのが見える。そのまま壊れた壁から中に入る私とシュナイダー。

 シュナイダーが鼻をヒクヒクさせコイツが株主だと言って直ぐだった。シュナイダーの攻撃で壁に叩きつけられ体の骨は砕けおよそ人と呼ぶには抵抗のある形状のそいつは金切り声を上げると血と体液を撒き散らしながらその体を変化させていく。


 かつて手であったものは左右それぞれが2本に割れ吸盤のないタコの足のようなものに変化。口から何本もの触手が飛び出し目玉が数個ギョロギョロしている。元の頭は捲れて背中にフードの様にぶら下がっている。

 下半身は腰からいくつも割れ枝分かれすると手の形状を取る。10本ぐらいはあるだろうか足ではなく手を動かし私たちと対面する。

 便宜上「クリーチャー」とでも呼ぼう。ネーミングセンスに苦情は受け付けないよ。


「き、きもちわるぅ~」


「悪趣味な形状だな」


 私は距離を取りながら紅い筆で宙に漢字を描く『火』の漢字のすぐ後ろに重なる様に『弾』の漢字。


『火』を拳で叩くと火が散る。散る火を吸うように『弾』の漢字が光ると炎の塊として発射される。


「『艶麗繊巧えんれいせんこう血判けっぱん 火弾びだん』!!」


 火球はクリーチャーに当たると体にめり込み炎撒きながら身を焦がしていく。上手くいった喜びに感激する私だがクリーチャーは焦げる肉体ごと切り離し本体は逃げる。


 そして4本のタコ足をしならせ鞭の様にしての攻撃を繰り出してくるのをよけそのタコ足を蹴る。

 がなんと蹴り応えのないもので弾力性に長けるそれは起動を反らしただけでおそらくダメージはほとんど入ってなさそうである。


「見た目に反してぬるぬるしてなくて良かったぁ。あんま触りたくないんだよねあれ」


 文句を言いながらも筆を進め描くは『雷』『弾』に二文字。これを先程と同じ要領で叩き放つ『雷弾らいだん』の雷の弾。

 一極集中させたエネルギーはクリーチャーの胸元辺りにめり込むと激しく弾け体全体を駆け巡り四方に放電される。

 それと同時にシュナイダーが炎を舞わせながら爪による斬撃を放つ。


 プスプスと煙を上げ血のようなものを噴きながらながら正面からドサッと倒れるクリーチャー。


 倒れて地面に血を広げるクリーチャーの背中がボコボコと動き始めると4本タコ足を生やして立ち上がる。


「なんかどんどん意味の分からないものになってきてない?」


「あぁ、一気に止めをさした方が良さそうだな」


「だねっ」


 シュナイダーの言葉を聞いて私は筆に血を吸わせるとクリーチャーの攻撃を避けながら壁に『棘』を書いていく。

 私のこの術の強みとして地形を変えれることがある。つまりだこういう建屋内の狭い空間において私は無類の強さを誇るわけなのだ!

 だって描くところいっぱいあるもんね♪


「シュナイダー下がって!」


 私の言葉を聞いてクリーチャーに攻撃していたシュナイダーが空中を蹴って私の後ろに下がる。

 私はニヤリと笑いながら壁に書いた『棘』を叩く。壁に連なって描いた丸は私の魔力に反応し……反応……しない。


 あれ? なんで? 予定ではそこらじゅうの壁から棘が出てクリーチャーを串刺しにして絶命させるか生きてたらシュナイダーをぶつけるつもりだったんだけど。


「どうした詩。調子悪いのか?」


「そんなことはないんだけどなんでだろ?」


 クリーチャーに攻撃するために宙に描いた『刃』の漢字に触れると風の刃が飛びクリーチャーの肩から胸にかけて切る。


 すぐに傷口がボコボコと動き傷を修復させてしまうが今はそれより術である。

 自分の血の付いた筆を見て考えるがすぐに止める。


「ま、考えても分かんないや。今出来る範囲で頑張ろっと」


 戦場で悩んでる暇があるなら突っ込めだ! 気持ちを切り替えて右手を高く上げると叫ぶ。


「シュナイダー!」










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