第31話:詩日記
──私は
どこにでもいる可愛い女子高生である。
……嘘です。前世でエレノア・ルンヴィクとしてエウロパ国を魔王の軍勢から守るため戦い勝利を納めた後、生涯を終える。そしてロリっ子女神シルマに導かれ前世の記憶を持ったままこの地球の日本に転生した可愛い女子高生なのです。
パパ
ママ
前世のお父様アルダス・ルンヴィクは厳しい人だったけどこうして今戦えるのはお父様のお陰であるのは間違いない。もう二度とあんな修行はごめんだけど。
お母様リリー・ルンヴィクは物静かな女性でお父様の意見に逆らうことはなく私に対しても言葉少なかった。
◆◆
……私の手が止まる。今自分の部屋で日記を書いているのだけど、前世を含め生まれてこのかた日記なんて書いたことがない。
じゃあなんで書いているかって? 親友の美心にこの戦いを記してみてはどうか? と提案されたからだ。で、その場でやる気になって日記帳を買って書いているわけだが、既に心折れそうでだ。
お、そうだ! ペンを持つ手を日記帳へ向ける。
◆◆
──
いつもは気が利く優しい子なのだが怒ると怖い。怒らせるのは絶対だめだ!
先の戦いで私の力のことを知り怖がるどころか手伝うと申し出てきた肝の座った子だ。
もちろん戦えないので衣装担当ということで裏方に徹する。
後は……前世で一緒に戦ったことのあるガストン・リュング。私と同じく女神シルマ導きで転生した男。前世では心の内に秘める欲望を抑えていたみたいでその欲望、ハーレム作りたいって言ったら日本に犬、シュナイダーとして転生。
私との戦いの後一応仲間になって強いんだけど変態なんだよねぇ……
◆◆
ここまで書いて椅子の背もたれに背中を預け天井を見て考える。
日記って何を書けば良いんだ? あ、そういえば肝心なこと書いてないや。
◆◆
──私がなにと戦っているか。それは女神シルマが言うには宇宙人らしい。なんかカナブンとか猪とかイタチ、人間にとりついているのかその辺は詳しく分からないけど変なうねうねした寄生生物が体の中にいるっぽい。
意思の疎通も出来ないし謎の方が多い。
そしてこれと戦うために私は前世で使っていた
万能そうに見えて意外に面倒でまず土を使うなら土に書く必要がある。いってしまえば土がないところでは土が使えないということ。
水の上に火は書けないし、火に魔法陣を描くことも出来ない。それに一回描いてそこから魔力を流し込むことで発動するので先読みして描いて行く必要がある。
さらに一番の欠点は手の届く範囲しか術を起こせないってことと、字を見たら何が起こるか分かってしまうってことかな。
こんな術だけど転生して完全に使えてなかったと思っていた。だが前世のエウロパ文字でなく現世の漢字を使うことで発動することが分かったのだ。
そうそう、名前が可愛くないから『
単体で漢字を書くとその事象が魔法陣を中心に起こせる。私の意思で変化を起こして攻撃することが可能で例えば『火』を燃やすだけでなく火花の様に散らしたりすることが出来るってわけだ。
最近、漢字を重ねて術の威力を上げることが出来るのが分かった。『鋭』と『刃』の魔法陣を順番に通すことで『鋭刃』となり鋭い刃物となり敵を貫くことが出来た。ただこれにも制約がある。
順番が大事なのだ。先に『刃』を持ってきたら『鋭刃』が成立しないので発動しない。
あとあれも大事! 覚える漢字が大事で私が印象に残ったものが反映されているっぽい。
つまりカッコつけて字画の多い複雑な漢字を覚えてしまうと戦闘中大変なことになるわけである。
私が『炎』を描かずに『火』を書くのも字画を減らす為である。そう考えると『濘』はミスってしまった。せめて『沈』にしておけば良かった。
◆◆
「ふぃ~なんか頭痛くなってきた。この間のビルの地下で壁に描いた漢字が反応しなかった理由とか知りたいけどなあ。分かったら書こうかな」
私は日記帳を読み返してみる。……これは日記なのか? ま、まあいっか。そして時計を見るとお昼が近い。
今日は美心と今後の打ち合わせをかねてごはんを食べにいく予定なのだ。大きく伸びをすると椅子から立ち上がる。
「う~ん慣れないことすると疲れるー。あ、そういやシルマとオルドのこと書いてないや……ま、いっか」
私は日記帳に鍵をかける。そう一丁前に鍵付き日記帳なのだ。なんか秘密って感じがしてニヤけてしまう。その顔のまま美心に会うために部屋から出て行く。
* * *
広い海の上を鮮やかな色を放ちながら優雅に飛ぶ鳥はくちばしから溢れるヨダレを撒きながら心の読めないぐるぐる目玉を次なる大地に向ける。
「オルドー今どの辺っすか?」
オルドの頭に自分の仕える女神シルマから連絡が入る。目玉をぐるぐるさせながら目印になりそうなものを探し、身ぶり手振りで日本から離れた海の上であることを伝えようとする。
「海の上っすか? ま、オルドの位置捕捉してるっすから詳しい場所知ってるっすけど。はっはっはっは」
シルマの扱いにオルドの目から涙が溢れる。シルマは終始こんな感じなのである。それに仕えるオルドは大変な思いをしてはいるがこんな自分を可愛がってくれるので大好きである。
「んー今から棒つき飴買いに留守にするっすから上の神から連絡きたらてきとーに誤魔化しとっくっすよ」
オルドはコクコク頷く。
「じゃあ気をつけて行くっす。そして出会ってすぐに殺されないようにするっす」
オルド更に激しく頷く。シルマの心遣いが嬉しいのだ。大好きな女神シルマの為に羽を広げ凍てつく大地へと進路をとり羽ばたいていく。
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