お洋服を縫って下さいな

第22話:恐怖はじっくりとそのときを待つ

 美心と私は段ボール箱を抱え、階段を上る。ここは私の住む曙町あけぼのちょうの郊外にある老人ホーム。新館の建設に伴い、荷物を運んでいるわけである。


 これには理由があり、この荷物運びの作業に対し学校がボランティアを募ったところ、全然集まらなかった為に、各部活から規定人数強制参加となったのだ。


 日頃、手芸部に顔を出してない自分が出ると名乗り出た美心に付き合って、私も参加したってわけだ。


「ごめんね詩。頼まれたのは私なのに、付き合わせちゃって」


 美心が段ボールを重そうに持って、謝ってくる。


「気にしなくていいって。人数は多い方がいいでしょ。役にたたないけど、頑張るから」


「うん、ありがとう。……でも詩が一番役に立ってると思うよ」


 段ボール4箱に、紙袋を両肘に3袋づつ抱え、階段を駆け上がる私の後ろから、美心の少し呆れた声が聞こえてくる。


 まずい、これでもセーブしたんだけど、女の子らしくないか……。


 前世だと強くて綺麗な人がモテたから、こっちの基準は難しい……。


 中学生までは、わりとパワフルに生きてきて「パワフルうたちゃん」とか言われ、調子に乗ってたけど、高校生になったらおしとやかになると誓った。

 が、そんな人生計画も、この4箱積んだ段ボールの前では、上手くいっているとは言えないようだ。


 因みに前世で結構モテたんだよ私。自分で言うのもなんだけど美人さんだったし。

 でもね、一緒に戦うとちょっと引かれるんだ……新人の男の子とか、冒険者のくせに私が手を切って血を流し始めたら、貧血おこして倒れてさぁ……ほんと傷付くわぁ。


 なんか思い出して、頭にきた私は階段を2段飛ばしで駆け上がる。目的地の3階に着いて所定の位置に荷物を降ろすと、再び下の階に向かう。

 途中ですれ違う美心が、呆れたように笑いながら、無理しないように声を掛けてくれる。


 因みにエレベーターは、大きな荷物を運ぶために施設の人が使用しているため、細々こまごました荷物を私たちが人海戦術で運んでいるのである。

 荷物を仕分けしているスタッフの人に聞いて、段ボール箱を2箱持って運搬を開始する。本当はもっと持てるけど、ここは恥じらいというやつで、2箱にしておいた。


 少し歩くと、前を段ボール2箱抱えてヨロヨロしながら歩く、眼鏡をかけた男子がいる。そういやさっきスレ違ったっけ。


「宮西くん、大丈夫?」


 私はヨロヨロしている男子こと、宮西くんに声をかける。

 彼は同じクラスで部活は確か……情報処理、いわゆるパソコンとかを使って、プログラムを組んだりとかするんじゃなかったかな? あんまり詳しいことは分からない。


「あ、鞘野さん。だ、大丈夫だよ」


 おどおどした感じで答える宮西くんは、どう見ても大丈夫そうではない。私より身長は高いが、ひょろっとして細身なので、余計にそう見えるのかもしれないが。


「あんまり無理しない方がいいよ。1個頂戴、私が持っていくから」


「い、いや、いいよ。その悪いよ」


「悪いとか意味分からないし」


 私は、宮西くんの持つ荷物の1個を無理矢理奪うと、私の段ボールの上に載せて持ち上げる。


「さ、鞘野さんって凄いね。僕なんか男なのになにも出来なくて」


 3段になった段ボール箱を抱える私に、申し訳なさそうに謝ってくる。


「男とか関係ないよ。出来る人が出来ることすれば良いんだって。宮西くんパソコンとか得意なんでしょ。それでいいじゃん」


「う、うん」


 宮西くんの返事を聞いた私は、段ボールをかかえ目的地の3階に向かって歩いていく。我ながら良いこと言ったなぁ、とか思いながら。



 * * *



 郊外のビルにトラックが数台停まると、ジュラルミンケースの様な頑丈なケースがいくつも中へ運ばれる。

 トラックから運ぶ方は作業着姿なのに、受けとる方は防護服を着て完全防護をしている。


「坂口さん、なんで俺らは作業着なのに、あっちは防護服着てるんですか? なんかおかしくないです?」


 若い男は不満そうに隣にいる男に文句を言う。


「まあ、一般市民に不安を与えない為とからしいぞ。言いたい気持ちは分かるが、もう触っちまったし遅いかもな」


「えー、これで何かあったら手当てとか付くんですか?」


 トラックから搬送されるケースを眺めるこの2人は、詩とシュナイダーが戦闘をした公園で、イタチの化け物の破片を回収していた作業員である。


 40代の男は坂口さかぐち 貴行たかゆき、若い男は小椋おぐら 知也ともやという。男たちは、日本が新しく設立した宇宙防衛省の職員である。


 この宇宙防衛省とは、宇宙からの驚異から日本守るのが仕事である。

 と言っても他の国の大気圏外からの驚異に備えたり、隕石等の飛来物の回収を行ったりするのが、主な仕事で、一応申し訳程度に制定されている、地球外生命からの驚異からの防衛も含んではいる。

 だが、そもそも防衛と言っても情報収集が主で、軍事行動などは出来ない。

 そして今回は、宇宙そらからの未知の飛来物の回収ということで、出動となったわけである。


「ま、おれらの仕事はここまでだ。報告したら飯でも食って帰るか」


「いいですね。すいませんゴチになって」


「あん? 誰が奢るって言った」


「んなぁ殺生な! 給料日前なんで奢ってくださいよ~」


 坂口たち2人はトラックに乗り込んで、走り去る。



 * * *



 ケースの中にあった5センチ程の小さな丸い欠片は、その身を震わせる。



 ──通信……不可……自己判断で行動。この星の生命観察続行……現在のデーター照合。驚異となる生命体名称「人」補食可。環境適応Aランク、増殖Aランク。寄生Gランク……知性が阻害の可能性。

 知性の切除にて乗っ取り実験開始──


 丸い破片からピッと針のような足が生えるが、直ぐに引っ込める。


 ──自立可能確認──


 元の丸い破片に戻り、静かにケースの蓋が開くそのときを待つ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る