第21話:平常心
距離にして、私から100メートルも離れてない場所で、足をぬかるんだ地面に取られもがく化け物を、正面にして円を描くと『刃』を書き込む。
そのまま地面を蹴り、大きく後ろに下がって槍投げの構えをする。
「それじゃ、サヨナラだよっ!」
右腕を思いっきり振り抜き、私の手から放たれた槍は、真っ直ぐ化け物目掛け飛んでいく。
途中に描いた『刃』を通り抜け風の刃を纏う……うっう、え~!?
元々槍に付与していた『鋭』の漢字が光り『刃』と合わさる。
『
その二文字を輝かせた槍は風を纏い、その鋭い刃を化け物の体に突き立てると、そのまま勢いを殺すことなく、体内を切り裂きながら貫通し、首から尻尾まで一直線の道を作る。
想定外の出来事に驚き、その威力に歓喜している私は、化け物の体に槍が通った穴が空いているのを見て微笑むむむむっ!?
「ってああっ!?」
とき既に遅し。貫通した槍は公園の塀を破壊し、細い道路を挟んで建っていた家の車をも貫通して、その家の壁に突き刺さる。
「うわ~やっちゃったぁ……」
運転席側のフロントガラスからリアにかけてパックリ縦に割れた車と、その家の壁に刺さってバインバインと揺れる槍を見て呆然とする。
漢字が合体して、威力が増した槍を見て、上がったテンションが一瞬で、下がってしまった。
体に穴が空いた化け物が、ゆっくりと倒れる。だがそれは右半身だけで、もう半身が4本の足をバタバタさせ、中央で互いを繋いでいた蟹足を引きちぎると、走って逃げ始める。
だが、化け物の逃走劇は一瞬で終わる。一陣の風が吹き抜け、化け物の前足を切り飛ばし、支えを失った体が地面に滑りながら倒れ転がる。
「獣風情が何処へ行く」
倒れた化け物の前に立ちふさがるシュナイダーが火を纏う。それはシュナイダーの毛皮と一体化し、激しく燃え上がる。
姿勢を屈め、後ろ足に力をぐっと込めると、凄まじい爆音と共に炎が一直線に走り、化け物を真っ二つに切り裂き、激しい炎を上げ燃やす。炎が通った後には真っ黒な焦げ目が残る。
「ぐはははっ! オレの奥義『
真っ二つになって燃える化け物を背に、フッと笑うシュナイダーに向かって私は急いで駆け寄る。
「おぉ! 詩よ見てくれたか。そんな必死に駆け寄ってきてからにもー。よーし心配しなくても大丈夫だ。さーオレに飛び込め!」
アホなことを口走る犬の首を握ると引きずって走る。
「ぬおっ!? 痛い、いたたた、やめろ毛皮を引っ張るな!」
「うるさい、サツがきたから早く逃げるよ」
「ぬ、なんでオレらが逃げる。宇宙人とやらを倒したのだぞ」
「見つかったら厄介なの。とにかく逃げる!」
私に言われ渋々ついてくるシュナイダー。サイレンの音と光から逃げるように、全力で走る私たち。
横を走るシュナイダーがボソッと呟く。
「詩、さっきの女性だが──」
「ん? 遠くに置いてきたなら大丈夫でしょ」
「いや、まだクンクンしてないのだ」
私は無言でシュナイダーの頭を殴る。
「な、何をする! じゃあ詩、お前をクンクンさせてくれ!」
「だぁ!! 近寄るな! この変態犬がぁ!!」
賑やかな逃走劇を繰り広げる私たち。シュナイダーは強くて役に立つが……根っからの変態である。
本当にやっていけるかな? 心配すぎる。
* * *
「いただきまーす」
食卓に並ぶ食パンを頬張る。窓の外ではシュナイダーが、ドッグフードを食べているのが見える。
「今日の明け方、消防車とか沢山通ってサイレンの音凄かったな。パパ、あれで目が覚めたよ」
「あ~なんかサイレンなってたね」
パパが新聞を広げ、テレビを見て私に話かけてくる。
「
「実り公園って、隣町だよね? 結構近いんだね、怖いね」
しらばっくれる私にスキはない。パンを食べながら平然と答える。
もしそれ私がやったのなんて言ったら、パパは何て言うんだろう?
意外に誉めてくれるかも……いや、いくら激甘でも流石にそれはないか。な~んて、くだらない妄想をしながらテレビに視線を移す。
『そうなんです、夜中に凄い音がして! え? 見たかって、いえいえ、とんでもない! 怖くて家族みんなで集まって、家の隅で震えてましたよ!』
なにやらテレビ局のレポーターが、現場でインタビューをしているようだ。コーヒーを優雅に飲む私は、昨晩見た公園の悲惨な様子を眺める。
『みてください! こちらのお宅はこのガス管の爆発時に、飛んだと思われる遊具の一部が、車を破壊し家の壁に突き刺さっています。この事故の衝撃がいかに凄かったか、よく伝わってくるのではないでしょうか』
ヘルメットを被った女性レポーターが、深刻そうな表情で現場からお伝えしてくれるのは、縦に引き裂かれた車と家の壁に刺さるジャングルジムの棒。
私はコーヒーを吹き出しそうになるのを手で押さえ必死に耐える。
平常心、平常心……
* * *
「破片はこれで全部か?」
「形状が分からないので、多分としか言えないですけど。公安の方が現場に入りたいって、急かしてくるから時間がなくって」
「そうぼやくな。あちらさんが、これを事故で片付けてくれるんだ。警察が介入しなきゃ世間体的に、おかしいだろ」
作業着を着た男2人が、話しながら地面を睨み、なにやら探している。
公園の中には大勢の同じ作業着を着た人達が、周囲をくまなく捜索している。
「この間のショッピングモールといい、この公園といい、なんなんですかねこれ?」
短髪の若い男が帽子をとって、パタパタと顔を仰ぎながらもう一人の40代位の男性に声をかける。
「しらん。だが上の話だと、欠片の中に地球に存在しないゲノムパターンがあるとか。ま、あくまでも噂だがな」
「へぇ~、地球外生命体とかですかね?」
40代の男性は屈んでいた体を起こし、腰を叩く。
「それも分からんが、その地球外生命体は何かと争っているみたいだな」
2人の男性は、見るも無惨な公園の様子を無言で見渡す。遊具は壊滅、地面は抉れ、所々焦げている。
「ショピングモールの生存者の話だと、なんかマントを羽織った奴がいたとか。それになんだ、あぁ、えーと、なんだっけ? あのお面」
「フラプリですか?」
若い男が即答して、凄く話を振って欲しそうな目で40代の男を見るが無視され、話は再開される。
「そのフラプリだかのお面をかぶった女性らしき人物も、目撃情報だけだからなんとも言えんしな」
「そうですね。監視カメラには、砂嵐しか写ってませんでしたから証拠がないんですよね」
「ああ、しかも故障じゃないらしく、しばらくしたら普通に作動している。それに生存者がスマホで撮影した画像も全て砂嵐だ。だがこちらも、しばらくしたら普通に使えるようになったそうだ」
40代の男性は大きく伸びをすると、腕を組んで考える若い男の背中を叩く。
「よし、撤収するみたいだ。帰るぞ」
「やっと帰れるー」
公園から撤収する作業者たちが、破片を集めた荷物を厳重にケースへ入れ、車両に積み込んで出発する。
小さな欠片が一つ動いているのも気付かずに……
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