初共闘!役に立つけど変態である
第17話:ペットは綿密な計画と余裕をもって飼おう
犬を飼うのに必要なことは何気に多い。ちゃんと調べてから計画的に飼わないと、バタバタする羽目になる。
今回の件が駄目な例だろう。初めて飼う、へんたぃ……犬に右往左往する鞘野家。
そして今、私はパパの運転するミニバンの2列目の後部座席に座って、荷室となった3列目にいるシュナイダーに話しかける。
「シュナイダー。今から動物病院に行って、健康診断に狂犬病の注射と、混合ワクチンの注射でしょ。フィラリアの予防薬飲んで、畜犬登録かぁ。やることいっぱいあるね」
シュナイダーはふて腐れて、伏せている。おそらく原因は、昨日の夜パパと一緒にお風呂に入って、隅々まで洗ってもらったからだと思う。
キャンキャン鳴きながら洗ってもらって、お風呂からあがったらゲッソリしていたのを思い出して、思わず笑ってしまう。
そんな私をチラッと見て、フンっと鼻息をたて目を瞑る。その姿にちょっとイラッとした私は、動物病院の案内パンフレットを広げる。
「ねえパパ、シュナイダー去勢しようよ。外で飼うならよそ様に迷惑かけちゃいけないし」
「うーん、そうだなぁ、やった方がいいのかな?」
私たちの会話を聞いてシュナイダーが頭の上で肉球を擦り合わせて、去勢回避を懇願してくる。
まあ、このときは冗談で言ってたんだけど、実際に動物病院の動物看護師さんから注射を我慢したことを誉められ、胸に頭や顔を擦り付ける姿を見たときは、私が切断してやろうかと本気で思ってしまった。
その後も何だかんだ手続きして、ようやくシュナイダーは我が家の一員となる。
イヤだけど。
* * *
ジャラジャラと、餌入れのお椀にドッグフードを入れる。
「なあ詩よ、肉が食べたいのだが」
「うっさいな。しかも何気に呼び捨てしないでよ」
文句を言いながらもボリボリと、ドッグフードを食べるシュナイダー。
「何だかんだ言いながら食べるじゃん。犬になったら美味しく感じるのそれ?」
「うむ、意外にいけるぞ。詩も食べてみるか? よし、口移ししてやるぞ、ほらあーん」
「あ~あ、折角飼い始めた犬だったのに、今から天に召されるなんて可哀想だなぁ。シルマによろしくね」
私がシュナイダーの喉を掴み睨んで圧をかけると、首をフルフル振って助けを乞うような目で見てくる。
「たくぅ、本当に役に立つのかな……」
私はシュナイダーから手を離し、ため息と一緒にぼやきを吐き出す。その隣で喉の調子を調え、真面目な顔のシュナイダーが尋ねてくる。
「詩よ。聞こうと思ってたんだが、宇宙人とやらはどうやって見つけて倒せばいいのだ?」
「ん? 知らない」
「なんだと!? お前、それでどうやって戦うというのだ!」
怒鳴るシュナイダーの頭に軽くチョップした後、口の前に人差し指を立てて、静かにするように促す。
「私が出会ったのは2回。推測にすぎないけどあいつらは今、地球を調査してる段階だと思うの」
「なぜそう思う」
「魔王軍だって、いきなり攻めてきたわけじゃなかったでしょ。人に紛れ、人間社会を調べて、弱いところを見つけて攻めてきたでしょ」
前世の魔王は実に狡猾で、まず地位も性別もバラバラな複数の人間の家族を人質にとり、彼らを各地に散らし、エウロパ国の政治情勢や軍事、人々の生活などの情報を集めた上でこっちの弱点を的確に突いて攻めてきた。
それに当てはめるなら宇宙人も未知の惑星地球を調べることから始めるはずだ。
どんな環境で自分たちが住めるか、そしてどんな生物がいて自分たちの障害、敵はなんなのかを知りたいはずだ。
ただ気になるのは、猪は山の中にいたが、カナブンはなんであんな目立つところで活動したんだろ? 人間のサンプリングとか、攻撃した場合の人間の対応方法をみるとか、考えられるけど推測の域をでない。
「1つ言えるのが、宇宙人たちはここだけでなく世界中に散らばって調査していると推測して、この町周辺で2人の調査員が消えたってこと。つまり、この町は注目されてるはずだから、他の調査員が集まってくるはずってこと」
私の考えに、驚いた顔をするシュナイダー。
「詩はそんな風に考えることが出来たのだな。昔の感じから、1人1人殴って、抵抗してきた奴を倒せばいいとでも言うと思ったぞ」
「私をどんな風に見てたのよ!」
怒る私に犬が前足を口の前に立て「シー」と言いやがる。腹立つわー。
「まあそう怒るな。誉めてるのだぞ。なにせエレノアだった頃のお前はいつも血まみれで5星勇者の1人ともよく喧嘩してたではないか。皆がお前を恐れていたのだぞ」
「え、マジで? みんな気さくに挨拶返してくれてたじゃん」
前世での記憶を呼び起こす。
──戦いが終わって血まみれの私は、いつものことなので風呂にも入らず酒場のドアをいそいそと開け。中で飲んでいる人たちに笑顔を振り撒く。みんなが笑顔で挨拶を返してくれる。
マスターにお酒を頼んで笑顔でお酒が運ばれ、ちびちびと飲む私は頬を染める。
すると酒場のドアを蹴って入ってくる5星勇者の女。
私に怒鳴りながら喧嘩を売ってくるので……血と衝撃がぶつかり大惨事!? ──
「あー、ちょっとやり過ぎだったかもねぇ」
「あれでちょっとか? 幸せな奴だ。みんなの笑顔ひきつってなかったか? そもそも血だらけで酒場に入ってくるな」
シュナイダーがフンっと言って地面に伏せる。
「まあ確かにあの頃はあんまり常識なかったのは確かかな」
「それに気づいただけでも成長したのだろう。昔の美人だったお前も良かったが、今のお前も良い。とても可愛い女の子だぞ。一緒に風呂に入りたくなるぐらい可愛いぞ。よし入るか」
シュナイダーの胸ぐらを掴む私は、喉元に手刀を当てる。
「少しまともなこと言ったと思えばすぐ訳の分からんことをほざく。血の風呂に沈めたげようか?」
フルフル首を横に振るシュナイダーを見て、大きなため息をつく。私はコイツとうまくやっていけるのだろうか……不安しかない。
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