第16話:ワンちゃん拾ったの

 私にオレを飼って欲しいと、懇願してくる犬が目の前にいる。さっきまで偉そうにしていたが、今はクーン、クーン鳴いて、情に訴えかけてくる。


「いらない、私猫派だから」


 そう別れを告げて、私はオルドを連れて下山していく。


「あ~あ、血だらけだし服ボロボロじゃん。あいつ調子に乗って切りすぎぃ! 思い出したらなんか腹立ってきた」


 文句を垂れながら、来る前に隠して置いた着替えの入ったリュックを茂みから引っ張り出す。

 私の戦闘スタイルから服が切れるのはよくあることなので、着替えは必須なのである。


 前世では血を出しやすくする為に、わりと露出多めだったけど今思えばよくあんな格好で町歩いてたなぁ。こっちなら露出狂だ。警察案件だ。


 リュックから出した服を近くの枝にかけ、上の服を着替えるためボタンを外し脱いだときだった。


「詩さーん。待ってくださ~い!!」


 ブラだけになった私を狙ったかの様に、犬が飛び込んでくる。


「この変態犬がぁ~!!」


 瞬時に描く『雷』の字が光りを放ち、駄犬を焦がす。

 はぁはぁ肩で息し、殺気立つ私を見たオルドが後退りして羽を広げると、空高く飛び上がる。


「じゃあ、仲間1人増えたってことで、さよならっす」


「あー!? 待ちなさいよシルマ! オルド!」


 一瞬、ビクッと身を震わせるオルドだが、逃げる様に翼を必死に羽ばたかせ天高く飛んで見えなくなってしまう。


 早く着替えを済ませたい私は、地面に穴を作りシュナイダーを落として、その辺の木を切ると穴に放り込む。

 警戒しながら着替えを済ますと、シュナイダーの攻撃でズタズタになった服を手に取る。


「よしとぉ、着替え完了。あぁ~、服ボロボロだし、もう着られないから燃やそっかな」


 私は、先程の穴にボロボロの服を投げ入れると『火』を描く。すぐにバチバチと燃え始める、木と服を眺めてるとズドーーン! と炎を切り裂くように煙が上がり、その中からシュナイダーが現れ、地面に着地する。


「い、いきなり燃やすやつがあるか!!」


「おぉ、タフだねぇ。火属性持ってるから耐久性あるでしょ」


「熱いものは、熱い! 知っているだろう!」


 ゼーゼー息をするシュナイダーを、私は屈んで顎を両手にのせにこやかに見守る。


「いやー、ごめんねぇ。もう一回、転生し直した方が良いかなぁって思ったんだけど、ダメだった?」


「お、お前なあ。まあ良い。さっきも言ったが、俺を連れていけば戦力になるし、番犬にもなる。犬として潜入、偵察も可。ある程度の動物との会話も可能。それに、背中に乗せて移動なんてのも可能なはずだ!」


 自分を売り込む就活生の如くアピールポイントを一気に述べるシュナイダー。この短時間に考えたのだろうか?

 ちょっと考えてみる。戦力、偵察、動物との会話これは魅力的、素直に好評価を送ろう。背中に乗るのも面白そうだし良しとしよう。


 でもなぁ~、ハーレム作りたい変態なんだよなぁ、これがなぁ~。


「詩さんお願いします。群れから外されて、オレもう居場所がないんです」


 伏せをして懇願するシュナイダーを見て私はため息をつく。


「まあ、仕方ないか。ママに聞いてみるからついておいでよ」


「ありがとうございます!」


 シュナイダーが潤んだ瞳で、器用に前足を合掌して頭の上に上げる。そして背中を私にズイッと出すと、


「早速乗って下さい!」


 舌を出してハァハァいいながら嬉しそうに、そう言ってくる。


 ……………………

 …………

 ……


「……」


「ねえ、揺れるし乗り心地悪い。で、獣臭い」


「そ、それは……乗り心地はどうしようもないけど、臭いは洗えば解決するかと。家で洗ってくれれば。その……隅々まで洗ってくれたら嬉しいなぁって。詩さんとかに」


「ああん?」


 シュナイダーの揺れる背中に乗って、不機嫌な私が殺気を放つとシュナイダーは黙る。


「詩さん」


「なによ」


「詩さんはスカートとか穿かないんですか?」


「なんちゅう会話をする犬だ!」


 再び殺気を放つと私に、少し身を強張らせながらもこの変態犬はのたまう。


「その、出来ることならスカート穿いた女の子の、素の太ももで、背中を挟まれたいです」


 私は無言でシュナイダーの頭を鷲掴みすると、額に小さな丸と『火』を描く。

 そのままペシッとデコピンをすると、額から小さな火が上がる。


「ぬわぁぁ直書き!? さすがに熱い!、熱い!」


 シュナイダーの額を燃やしながら私は下山する。



 * * *



 シュナイダーのせいで電車に乗れない私たちは人のいない山を抜け、遅めの帰宅を果たす。


 家に帰った私は、シュナイダーを外に待機させ、台所にいたママの元にそーと近寄る。


「ただいまー、ママ。今日のご飯はなに?」


「お帰り。遅かったわね」


 ママは私を見ずに菜箸を使って、焼いている魚を引っくり返す。


「でえ、なに? なんかあるんでしょ」


「鋭い! なんで分かるの?」


「あんた頼みごとある時、黙って私の後ろにくっつくから、すぐ分かるわよ」


 ママが鋭いのか、私が単純かは置いといて、意を決して伝える。


「ねえママ。ワンちゃん拾ったの。飼ってもいい?」


「はぁ? 犬? 子犬拾ってきたの? あんたねぇ、簡単に生き物は飼えないのよ」


「いや~、子犬じゃないんだけど……そのね。ついてきてちょっと困ってる」


 私も返答に困る。あいつ可愛いから拾ってきたって、言い訳出来るレベルの犬じゃないし。


「ま、まあちょっと見てよ。外に待機させてるから」


「待機?」


 不思議がるママを引っ張り、シュナイダーの元に連れて行く。


 外には綺麗な目をしたシュナイダーが、ママを見ると舌を出してヘッヘッといいながら、飼ってくれと訴えかけてくる。

 中身を知っている私からしたら、変態の息遣いにしか聞こえないけど。


「お、おっきいわね……」


「ダメ……だよねぇ。よし捨ててくる! あー、捨てたら迷惑だから業者に電話しよう! 誰か飼ってくれるかもしれないし。

 そうだ! 大きい犬だしソリとか引けそうだから需要あるかも! それに芸とか出来そうな顔してるし、サーカスとかで生きていけるよ絶対!」


 クーン、クーン言いながら私の足にしがみつき懇願するシュナイダー。

 私が足をブンブン振っても必死にしがみつき、首を横に振りながら涙目で訴えかけてくる。


「だー! 離れなさいよ! あんたは屈強な男の元でソリ引っ張って、南極にでも行った方が皆幸せになれるわ! そうしなさい!」


「クーン、クーン! ヒィーン」


 必死に剥がそうとする私と、離れまいとするシュナイダーを見てママが笑いだす。


「なにその犬。なんか人の言葉が分かるみたいじゃないの。面白いから飼っても良いわよ」


 ママからの予想外の言葉。その言葉にシュナイダーがズサーっと身を滑らせ、頭の上で両足を擦り合わせ、く~ん、く~ん甘えた声を出す。


「本当に面白い犬ね。飼うのに登録とか、必要なもの揃えないといけないから、しばらくは窮屈かもしれないけど、えーっと」


「ああ、名前はシュナイダーだって」


「だって? 犬が名乗ったみたいな言い方ね。まあ良いけど、じゃあシュナイダーよろしくね」


 そう言ってシュナイダーの頭をママが撫でる。クンクン鳴きながら甘えるシュナイダー。


 こいつ転生してプライド捨てたのかって、突っ込みたくなる見事な犬っぷりだ。

 まあ犬でハーレム作って喜んでたくらいだから、今さらプライドなんてないか……


「あっ! コラ! ママを舐めるな、この犬!」


「犬だから普通じゃないの?」


 不思議がるママの下で、ニヤリと笑うシュナイダー。このとき私は決意する。

 この宇宙人の侵略を阻止したら、最後にこいつを倒そうと!

 身近な所にラスボスってやつだ!

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