第14話:血まみれの決着

 宙を蹴り、縦横無尽に襲いかかるシュナイダーの牙と爪を避けながら、宙に描く『火』『雷』の漢字を中心に攻撃を仕掛ける。斬擊と火の粉、雷光がぶつかり舞散る。


 私の右のストレートがシュナイダー顔面を捉えるが、それを顎下で受け、拳がめり込んで後ろに飛ぶ反動を生かし、その場でクルッと縦回転すると円を描き、シュナイダーの後ろ足が私の顎を蹴り上げる。

 シュナイダーは、蹴ったそのまま回転しながら上昇し、宙に着地し蹴り、頭から突っ込んでくる。

 頭突きが私の腹部にヒットすると、私は後ろに転がって地面に伏せてしまう。

 私が直ぐに立ち上がろうとするが、それより先にシュナイダーが体全身に風を纏い、地を蹴る。


 シュナイダーは地を蹴り、宙を蹴り、私を中心にドーム状の空間を生み出し、牙と爪の斬擊を連続で放つ。

 為す術なく切り裂かれていく私に手を緩めることなく、段々と攻撃のスピードを上げていくシュナイダー。


「忠告はしたぞ! 悪く思うなエレノアよ!」


 シュナイダーの赤い毛が逆立つと、チリチリと毛先が燃え始める。その火は空気を取り込み一気に燃え上がりシュナイダーの毛並みと一体化する。


 赤く燃えるシュナイダーの、風と炎の混ざった斬擊が空間に赤い閃光を引き、私を燃やし、切り裂いていく。


「これで終わりだ!! 奥義『風脚炎舞かざあしえんまい』」


 トドメに口に炎の剣を咥えたシュナイダーが、その刃をかざし突っ込んでくるのに合わせ、私はカウンターで拳を下から振り上げるが、見切られていたようで、空中に足を付けブレーキをかけると、回転して後ろに下がる。


「おどろいたな、まだ動けるとは」


 私は血だらけの右手で前髪をかき上げると、ぬるっとした感触を感じる。髪を掻き上げ下から覗いた顔の右半分は、血だらけなはずだ。

 そんな私は歯を見せニターっと笑う。


「久々にこんなに血流したわー。スッキリしたっ。気分爽快って感じっ!」


「ちっ、巧血の乙女が! 昔からお前自身の血だか、魔物の血だかを浴びて戦うその姿、敵も味方も恐れるわけだ」


「言ってくれるじゃん。血を流せば、流すほど攻撃できる、そんな戦闘スタイルなんだから仕方ないでしょ」


 血まみれの指でシュナイダーを指差すと、身構えられる。というか引いてる。


「だが、ダメージがないわけではないはずだ。それなら」


 そう言って口のまわりに火を纏うシュナイダーだが、私を囲う様にして立っている地面の一部が赤く光る。


「なんだっけぇ~、風脚炎舞? 犬で中二病とか終わってんじゃん。ま、人のこと言えないかなっ『艶麗繊巧えんれいせんこう血判けっぱんすい』」


 地面を強く踏むと、地面に描かれた大きな『水』の漢字が光りだし、文字が溶け水が涌き出る。そして円の中に大きな水溜まりが出来上がる。


「こんな水溜まりでオレをどうにか出来るわけがなかろう! ぐっ!?」


 動こうとするシュナイダーを、水で編んだ糸が拘束する。


「私がただ切られるわけないじゃん。もう全部文字書き終えてるし!」


「バ、バカな。お前の右手は動かせない様に注意して攻撃していたのだぞ、がっ!」


 水の糸が追加で巻き付くのと、シュナイダーの足元に渦が発生し、足を水の中に沈め動きを封じる。


「両手、両足、髪や顔でもなんでも文字が書けるわけよ。ってことでサヨナラしちゃう?」


 水の弓を引く私とシュナイダーは、しばらく睨み合う。やがてシュナイダー、は体の力を抜きフッと笑う。


「俺の負けだ……いいだろう約束だ。お前の仲間になってやる」


「いいよ。やっぱ、いらない。それより聞きたいなぁ。なんでワンちゃんになったのかを」


「なぬーっ!? いらないとは、どういうことだ!」


 怒鳴るシュナイダーの声が五月蝿いので、耳を塞いでめんどくさそうに答える。


「だってさー、よくよく考えたら、こんなでかい犬、どこに置いとけばいいか分かんないもん。

 一緒に戦うって、いちいち山から下りてくるわけにもいかないじゃん。スマホとか持ってる? どうやって連絡すんの?」


「ぐぅー、人里に下りたとき見たが、こっちの世界でも動物と人間は共存していたぞ。お前の家に、オレを住まわせてくれれば良いだろう」


「やだよ、こんな喋る犬。気持ち悪い。それより教えてよ、なんでその姿なの?」


「しつこいぞ! まあ色々あったんだ。それでいいだろう」


 言い合う私たちの上空からオルドが降りてくる。


「結局どうなったっすか?」


「あぁ、丁度いいや、シルマ! なんでガストンは、ワンちゃんになったか教えてよ。

 この犬さぁ、負けたくせになかなか教えてくれないの」


 オルドは少し困った様に、首を右に左に傾げると、チラッとシュナイダーを見る。


「聞きたいっすか?」


 私は大きく何度も頷く。


「うーん、シュナイダー、話しても良いっすか?」


 目を反らし、フンッといいながら頷く。そんなシュナイダーを見る、オルドの目は冷たい気がする。ぐるぐる目玉は変わんないけど、なんとなく分かってきた。


「んー、そっすね。簡単に言うと、ハーレムが作りたかった、とでも言えば良いっすかね?」


「はん? どうゆこと?」


 私の出す大きい声に、シュナイダーの耳はペタンと項垂れ、尻尾は下がり小さくなる。

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