第13話:大体殴れば仲間になると思ってました

 私とシュナイダーは、対峙し睨み合う。敵と戦う場合、情報の多さというのは、戦局を大きく左右する。


 私の使う『艶麗繊巧えんれいせんこう血判けっぱん』のことを、シュナイダーは見たことがあるし、戦いかたも全部ではないが、大体知っているはずだ。

 唯一今の方が術の出が速いっていうのが、アドバンテージかな。


 対してシュナイダー。過去にガストンだったときは盾と鎧に身を固め攻撃を防ぎ、相手の隙を槍で突く戦法をとっていたけど、だが今は……


 なんで犬?? 


 ガストン何があった? あの魔王軍との戦いが終わった後、何かあって人間に絶望したとか?

 考えれば考えるほど、謎は深まる。


 そもそもは犬なせいで、戦法が読めない。盾も槍も持ってないし。前世では土系統の魔法が得意だったけど、今は何を使ってくるのやら。


「エレノアよ、昔のよしみだ。ここで引くならオレはなにもしない。帰るがいい」


 シュナイダーの低い声による最終警告が、静かに響く。


「あのさ、前世で何があったの? なんでその姿を選んだの?」


「お前に答える義理はない」


 私の問いに、シュナイダーの殺気が膨らむのを感じる。私は人差し指を唇にポンポンと当てながら少し考えて、その人差し指をシュナイダーに向ける。


「正直さ、別に無理して仲間になってもらおうとか思ってなかったけど、なんでその姿になったか興味がある。私が勝ったら教えてよ」


「ぐっ! 相変わらず無茶苦茶な女だな」


 シュナイダーが私の問いに少しだけ怯む。本当にこの辺は前世の悪い癖。戦いに明け暮れてたから基本的に、なんでも力で解決したがる。


 ま、それはシュナイダーも同じみたいだけどね。


「私の名前は鞘野詩! 勝負受けてもらうよ!」


「オレの名はシュナイダー! この勝負受けてたとう!」


 名乗ると同時に2人が地を蹴り、砂塵を巻き上げる。


 私が正面から顔面に叩き込むはずの右の拳を空中で体をひねり避けると、口を大きく開けシュナイダーが噛み千切ろうとする。

 それを私が半身で拳を引き下げると、その反動を生かし左の拳を顔面に打ち込む。


 だがそれは、シュナイダーの前足に塞がれてしまう。私の拳の勢いで宙へと舞うと、何もない空間を蹴り、こっちに鋭い爪を出した前足を振り上げ、突っ込んでくる。


 鋭い爪から繰り出される斬撃は地面を大きく切り裂く。バックリと割れる4本の切れ目を余所に、間合いを取ると私は自らの手を切り血を筆で掬う。


 その行動を見たシュナイダーの体が、一瞬光りを放つと4本の足に風が纏い始める。

 刹那、私の強化した目でもやっと追えるぐらいの速さと、地面に足が着いたかも分からぬ軽やかさを備えた動きから放たれる斬撃が、いくつも繰り出される。


 避けるが間に合わず右肩に2本の線が入り血が散る。

 仕留めるつもりだったのか、少し苛立つ表情をするシュナイダーに対し私は微笑む。


 私の血は魔力が宿っている。少しなら体外に出た血も動かせる。流石に文字を書いたり細かいことは出来ないけど、少しの間宙に留まらせたり、散った血を一つにまとめるくらいは可能だ。


 散った血を宙でまとめ、そこに筆を突っ込むと素早く『火』を描き拳で叩く。魔方陣から火花が、シュナイダーめがけ飛び散る。


 火花を難なく避け向かってくるシュナイダーの手前に向かって石ころを投げ、地面に描いた『棘』の漢字を発動させる。

 地面が大きく尖ってシュナイダーを襲うが、宙で体を反らし避けていく。


 小石を思いっきり投げ、宙に描いていた小さめの魔方陣に通す。『針』の漢字が光り石は針となり地面の棘を避け、空中で身をよじるシュナイダーを襲う。


 だが、シュナイダーは、それを宙に壁でもあるかの様に垂直に駆け上がり避け、そのまま4本の足で地面とま反対の空中に着地する。

 背中を地面に向けて平行となり、私と180度違う向きで向き合うと、宙を走り体当たりを仕掛けてくる。


 それをもろに食らう……と見せかけ土で編んだ糸を、シュナイダーの足に結ぶと、吹き飛ばされた勢いを利用し、シュナイダーの足を引っ張り投げる。


 投げられたシュナイダーは再び空中に着地しそっと地面に降りる。


「風? 属性変わったんだ。それに全然戦い方違うじゃん」


「ふん、お前は随分と弱くなったな」


 肩の傷を塞ぎ、左腕から流れる血を筆で掬う。


「まあね、ちょっとこの世界での術の使い方に慣れてないんで、困ってんだよね。だからさ、練習に付き合ってよ!」


 私が地面を蹴り、振るう拳は空を切り、瞬間移動したかの様なスピードで、真横に移動していたシュナイダーは口を大きく開くと、鋭い牙を私の腕に突き立てる。


「がッッ!?」


 と叫ぶはシュナイダーの方。


「硬いでしょ♪ やっと捕まえたっ!」


 噛まれた腕ごと地面に叩きつけると、下に描いた『雷』の文字が光り電流が、シュナイダーの体を駆け抜ける。

 電流が体を通ったことで硬直し、私の腕を更に強く噛みつき外せなくなったシュナイダーを、空中に描いた『火』ぶつける。


 激しく散った火花で引火し、火に包まれドサッと落ちたシュナイダーだが、直ぐに身を翻し私と間合いを取る。火はあっさりと、掻き消されてしまう。


「あー、やっぱり威力が微妙だなぁ」


「オレの歯が刺さらないだと!? お前何をした!!」


「へーーんだ! 敵に教える分けないじゃん」


 拳に描かれた『剛』の漢字をチラッと見る。

 内側に流れる血の操作による強化と、自身の体に描いた文字で一部を強化する、内外からの同時身体強化。


(うーん3回くらいは連続で使えそうだけど、さっきので警戒されちゃったねぇ)


 ジリジリと間合いを取りながら私の周りをゆっくりと歩くシュナイダーに、次の一手を考える。

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