オレの名はシュナイダー……だそうです

第12話:シュナイダー?

 ある日の学校の帰り道、美心と別れてすぐに空の上が騒がしくなる。鳥が空で騒ぐ声と同時に、周囲から取り残されるような感覚。

 私が上を見上げると、予想通り派手な柄の鳥が舞い降りてくる。


 相変わらずの目ぐるぐるで、ヨダレたらー、のこの鳥は胸を張り、ふんぞり返る。

 恐らく威厳を示しているのであろう。ここまでくると、もはや可愛い。

 ヨダレを垂らしながら、オルドから女神シルマの声が響く。


「詩、仲間を見付けたっす! 名前はガストン・リュング」


「ガストン・リュング?……」


 私は名前を復唱しながら思い出す。ガストン……トン、とん、とん……ああ!?


「思い出した! 元エウロパ国騎士団に所属してて、冒険者になった『鉄壁のガストン』だ! であってるよね?」


 私は思い出す。エウロパ国の騎士団といえば軍の中でも最強の集団で、そこに所属するものはエリート中のエリート。


 ガストンはそこに所属していたが、規律に厳しい騎士団では人々を救うのに制限があると、自ら除隊し冒険者となった男だ。


 盾と槍を使い、鉄壁の防御で敵の攻撃を凌ぎ、カウンターから放たれる槍の一撃で魔王軍を倒していくその姿に、皆が安心と信頼をおき、鍛えられた肉体に爽やかな笑顔が似合うイケメン。しかも優しいときたもんだからモテないわけがない。


 ファンクラブみたいなのもあったなぁ。


 かく言う私も憧れたなぁ。何回か一緒に戦ったけど気遣いも素敵で、血まみれの私にも優しかったんだよねぇ。


 キャッ、と両頬を押さえモジモジ、クネクネする私を見るオルドの視線は冷たい。


「確か魔王軍を倒した後は、可愛い奥さんと一緒に余生を過ごしたんじゃなかったっけ?」


「そっすね。その人格と功績を称え、詩と同じ特別な転生をしたっすけど……」


「けど?」


 いつもかるーい感じでズバズバ言うのに、珍しく歯切れの悪いシルマ。


「その、神も心の内までは読めないっす。しかもあそこまで完璧にしてたから、分からなかったっす」


「ん? どういうこと?」


 オルドが頭を抱える。お前はそんなポーズしなくてもいいだろうに律儀な鳥だ。


「本人に会って欲しいっす。詩と同じこの地球に転生して記憶があり、1番近い所にいたのはガストンっす。仲間になれば戦力になると思うっす」


「ふーん、なんか気になるけどまあいいや。そうだ! ガストンの今の名前ってなんていうの?」


「……シュナイダーっす」


「外人さん?」


 私とオルドが一緒に首を傾げ見つめ合う。



 * * *



 私は今、山を登っている。ここは私の住む町、曙町あけぼのちょうから電車で2時間ほどにある山、鬼継山脈きつぐさんみゃく

 割りと標高の高いこの山脈を、かなりの軽装で走る私。山に登る人が見たらグーで殴りたくなるような普段着である。


「本当にこんなとこにいるの? 地図とかで調べたけど、この辺町とか村とかないんだけどさー?」


「行けば分かるっす」


 私の問いにそっけなく答えるオルド。実際はシルマなわけだが、この際どっちでもいい。


「そもそもさー、シルマが話をつけて連れてくるって、話だったじゃん。なんで私が行って説得しなきゃいけないの?」


「うーん、そうなんっすけど、あれから色々記録調べたっす。この地球に転生して記憶、戦闘能力を有する存在って、ほぼいないっす。

 意外にみんな記憶要らなーいとか、もう戦いたくなーいって言うっす。

 それで、記憶のあるガストンに出会ったっすけど、私じゃ説得出来そうにないっす。だから詩が説得して欲しいっす」


 転生のときを思い出してみると、確かに私も記憶は持ち越したかったけど、戦う力は要らないって言ったもんね。平和な世界でノンビリ過ごす予定だったからね。


「でもさー、ガストンは記憶も戦う力も持って転生したいって言ったんだよね? 私みたいに、魂にこびりついた力とは違うでしょ?」


「まあそうなんすけど、動機がちょっと──おおぉ!?」


 シルマが話し終わる前に、オルドの首を掴むと上空へ放り投げる。元々目はぐるぐるだが、驚いて目を回しているようだ。


 足に力を込め、飛び掛かってくる敵めがけ蹴り上げる。ぐにゅっと柔らかい感覚が足に伝わり、そいつの体が、くの字に折れ曲がり宙へ打ち上げられる。


「犬? 狼?」


 上空に打ち上げられた、それをチラッと見て呟く私は、続けざまに真横から牙を剥き出し飛び込んでくる犬の頬の辺りに裏拳を食い込ませ、振り抜くとそいつは真横に吹き飛んで地面を転がる。


 さらにもう一匹を、振り上げた足の甲を頭蓋骨に叩き込み、地面に沈めると最初に打ち上げた犬をキャッチして、茂みにいる奴に投げつける。


 茂みにいた奴は器用に前足と下顎で挟むように、その犬を受け止めると、そっと地面に降ろす。

 他の犬たちが、茶色や黒などの普通の色をしているなか、その犬は赤く燃える様な毛並みをしていた。

 それが日の光に当たると炎が揺らめくように見え綺麗だ。


「お前たち下がれ。ここはオレがやる」


 赤い犬の命令で私に襲いかかってきた犬たちは、顔を下に向けトボトボと赤い犬の後ろへと下がっていく。


「あれあれ? 喋った?」


 驚く私に赤い犬は、その鋭い瞳を私に向け殺気を飛ばしてくる。


「お前がエレノアか? 久しいな」


 私は驚き口をパクパクさせながら赤い犬に訪ねる。


「まさか……ガストン?」


 フンッ、と声を出し相も変わらず殺気を放ったまま答える。


「今はシュナイダーだ。エレノア悪いがお前を助ける気はない。諦めないと言うなら力ずくで引いてもらうぞ!」


 前足に体重をのせ、低い姿勢から鋭い牙を見せ、私を威嚇するシュナイダーに対し私は、拳を強く握り構える。

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