第11話:猪は丸焼きだー!
もう何度目か分からないけど、巨大猪は私に突っ込んでくる。
まあ当たらないけどね。
「そういや、ロリっ子女神シルマが言ってたけど、こいつらって宇宙人なんだよね? 知的生命体じゃないのかな?」
知能があれば話し合えるかとも考えたけど、無い方が気兼ねなく潰せそうだし良いよね。
私は避けながら宙に漢字を描いていく。
「さてと、もういっかなっ♪」
木刀を槍投げのよう、巨大猪目掛け一直線に投げる。その手前にある魔方陣に木刀が潜ると『火』の漢字が燃え、木刀はその火を纏いそのまま巨大猪の鼻へとヒットする。
鼻に弾かれて跳ね返り、くるくると燃えた木刀が宙を舞い明後日の方向へ飛んでいく。その攻撃に苛立ったのか鼻息荒く唸る巨大猪は前掻きを始め地面を削る。
ボフボフいいながら私目掛け突っ込んでくるので、背を向けて走って引き付けながら逃げる。
ある程度走ったところで地面を蹴り横に跳び退くと地面に赤い『穴』の文字が光り穴が出現する。突然出来た穴に足をとられ、巨大猪が顔面からダイブして上半身を突き刺さし、バタバタともがいている。
「あ~、穴が小さかったなあ。いや猪が大きいんだね」
呟きながら、穴を囲う様に配置した『刃』の漢字が描いてある魔法陣に次々と触れながらぐるりと歩く。
その魔方陣から風の刃が飛び、近くの木を切り倒すとその中心にいる巨大猪に次々と倒れて、地上に出ているお尻を木が何度も叩きつけていく。
叩きつけられる度、巨大猪は地面に深く刺さっていく。
綺麗に円を描き倒れる木は、巨大猪を中心に盛り上がって重なっている。焚き火の薪みたいだ。
それを見て私は不適な笑みを浮かべる。
「さーて、料理は火力! だって私は思うんだけどさ、どう思う?」
この問いに巨大猪が答えてくれるわけなく、無言のままである。後ろ足をバタバタさせ触手がうねうねしてるけど、答えてくれてるわけではなさそうなので拳を握り締める。
「んじゃあ、サヨナラだねっ♪」
私は『火』の漢字を叩き、木に着火させると『風』の漢字に触れ風を送り火を成長させる。
バチバチと弾けながら巨大な焚き火と化したそれは、勢いを増し燃えていく。
「風の向き考えないと山火事になっちゃうし、気を付けないと」
燃え広がらない様に風を送りながら、巨大な焚き火で巨大な猪を焼いていく。この巨大猪が酸素を必要としているかは定かでないが顔面を土に埋め炎の中心で燃えている今、普通なら酸欠で既に死んでいるはずである。
「むむむ、なんかお肉の焼ける匂いがしてきた。あー、でも宇宙人なんだよね多分……食べたらお腹壊すかな」
この間のジビエの話から私は獣の肉が食べたくて仕方ないのだ。そりゃあお店に売っている牛、豚、鳥の肉の方が美味しいよ。でもこれは思い出の味。
よだれが出そうなのを我慢しながら火の調整を行う。
料理中の私の耳に上空からバタバタバタバタと、大きな音がするのが聞こえてくる。
「あー、もしかしてこの音はヘリコプターかな? 消防ヘリとか? これだけ煙が上がってたら山火事で通報があってもおかしくないよね。あ~、うーん、よし逃げよう!」
未だ煙を上げ炭になった木の隙間から見える、黒く焦げた巨大猪に向かってその辺の石を投げる。
ピクリとも動かない様子を見て、恐らく死んでいると判断した私は森の奥へと逃げ下山を開始する。
(あーあー、途中美味しそうな匂いしてたしお腹すいたなぁ。その辺の野うさぎでも狩ろうかしら?)
辺りの気配を探りながら森を駆け抜ける。私の殺気に気付いたのか動物たちと会うことはないまま自転車までたどり着くと、全力で漕いで町へ下りるのだった。
* * *
私は食卓でグツグツ煮える鍋を見ながらルンルンである。鍋は、味噌ベースなのでお味噌の匂いが食欲を誘う。
「そろそろ、入れても良い?」
私はしし肉を包んでいる
「パパー! 食べようよ!」
「あぁ、分かった今行くよ」
私がリビングでテレビを見ていたパパを呼ぶとやって来る。
「今朝、落馬山で山火事があったんだって」
「ふ~ん、山火事とか怖いね」
「すぐに鎮火したらしいけど、なんかさ出火の原因も分からないって言ってるよ。放火とかだったらこわいな。最近事件が多いから詩も気を付けろよ」
「うん、気を付ける」
私は鍋でグツグツ煮えるしし肉に集中しながら心ここに有らずの気の抜けた返事をする。
「詩! パパは本気で心配してるんだぞ! 可愛い詩に何かあったらパパ生きてけないっ!」
「ありがとうパパ! お肉煮えたから食べようよ。折角パパが買ってきてくれたんだから、うた~早く食べたいなぁ~」
「おぉそうだねぇ~、早く食べようっかぁ~」
鍋を突っつく私たちを「バカ父娘が」と呟きながらママが食卓にご飯を並べる。
幸せなこの家族に、まさかあんな奴がやってくるとは誰が想像したであろうか……
今はそんなことどうでもいいけどね。しし肉うまーーい!!
* * *
神の眷属であるオルドはその鮮やかな体で暗闇を引き裂くように飛んでいる。何かを発見したようで、ぐるぐるな目を地上に向けると降下する。そして小高い石の上にゆっくりと降り立つ。
オルドはいそいそと両羽で腕組みをして、胸を張り大きく口を開ける。
「ガストン・リュングっすね?」
そう呼ばれた者は、暗闇の中で鋭い眼光を放ちオルドを睨む。
「エレノア・ルンヴィクの前世の仲間として手伝って欲しいっす」
「ガストンは死んだ男の名だ。今の名は『シュナイダー』だ」
暗闇に響く低い声。その声に怯えるオルドは、ビクビクしながらも腕を組み必死に威厳を保つ。
「そして断る。俺はここでの生活を手放す気はないからな。分かったら帰ってもらおうか女神シルマ」
「今回は挨拶っす。じゃあまた来るっすから考えておいてほしいっす」
オルドが羽を広げ飛び立つその姿に向かってシュナイダーは呟く。
「やっと手に入れた幸せだ。悪いが手伝う気はないぞ」
そしてすぐに暗闇の中へ、存在を消してしまう。
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