敵は宇宙人!?ノーカンってなによ!

第6話:改名!艶麗織巧・血判

 私は自分の部屋で辞書を眺め唸る。


「う~ん、技として使えそうで、簡単に書ける漢字となー」


 先の戦いの際、私は『弓』を水に書いた。最初は『剣』を考えたが、字画が多いから次に『刀』を思い付く。


 だが、前世の世界で『刀』は存在しなかったのだ。出せる自信がなかった私は『弓』を選んだ。


 辞書をパラパラとめくる。適当な漢字をスマホで検索してみる。


「漢字の成り立ちかあ。漢字って1文字に込められた想いが強いのかな?」


 スマホを見ながら呟く私。例えば最初に出した『火』なんて、火が燃え盛る様子をそのまま写し形成されていったものだ。


 前世で使っていたエウロパ文字はローマ字に近い。

『火』を『HI』と書くようなもので、意味は通じるけど、その名前のためだけの文字じゃないから、文字に意味を自覚させ、誇りを持たせるために文章を書く必要がある。


 それが巧血鏖殺術こうけつおうさつじゅつである。あっちの発音だと、あー上手く発音出来ないや。


 今回使ったのは微妙に違うし、こっちの世界の方が使いやすい。まあ血は必要なのは変わらないけど。


 私の血は先祖から受け継がれたものであり、魔力を有している。ロリっ子女神も言ってたけど魂に染み付いたもので、切り離すのが困難らしい。

 この流れる血を意識すれば、身体を強化することが出来る。大概はこれと武器を使って魔物を倒せるのだが、流石に素手では厳しい。


 武器が調達出来ない日本だとやっぱり血を流すしかないのかもしれない。


 一応断っておくけど、私だって手を切ったら痛い。


 前世の修行時代に父親からナイフを渡され「手を切れ! 血を流せ!」って怒鳴られ、泣きながら「無理です、許してください」とお願いしていたのは嫌な思い出だ。


 パラパラと辞書をめくる。


 ん?


 ある文字が目に飛び込んでくる。


 艶麗織巧えんれいせんこう……きらびやかで美しく、繊細な技巧を用いた様子ねぇ。


 かつて私は仲間から『巧血こうけつの乙女』なんて呼ばれていた。巧みに血を操る様子からつけられた二つ名である。


 話し逸れるけど二つ名……あのときはそれが当たり前だったけど、今考えるとちょっと恥ずかしいな……


 人を助けたとき、


「巧血の乙女エレノア・ルンヴィクだ。覚えておくといい」


 なんて普通に言ってた、あー言ってたわー ((エコー))


 私は頭を抱え悶絶する。黒歴史だコレ!


 巧血ってのが既にカッコ悪い気がする。血圧が高いみたいでなんかヤダ。

 私はこの名前を付けた先祖へ文句を言ってやりたい。

 それに鏖殺ってなによ。可愛くないし優雅さもない。


 私は机を叩きながら立ち上がる。


「うん! 名前を変えよう! 今日から『巧血鏖殺術こうけつおうさつじゅつ』改め 、『艶麗繊巧えんれいせんこう血判けっぱん』にする!」


 ちなみに血判は、血で描く判子をイメージしてみた。赤い判子って感じで、ちょっと可愛い気がするのでつけてみた。


「艶麗の乙女、詩! とか言えば可愛いかも」


 私は左足を上げ、右腕を大きく上げてウインクをするという、よく分からないポーズをとる。


 そのときだった。


 ガタッと音がして、嫌な予感がバリバリな私は、首を軋ませながら音の方へ振り向く。


「詩……なにやってんの」


「あ、ママ……」


 私のママ里子さとこさんが私の部屋のドアを開けて、廊下から冷ややかな目で私を見ている。


「これはそのね……」


「まあ何でもいいけど、美心ちゃん来てるわよ」


「う、うん今いく」


 ママはそっとドアを離れると、下の階にいるであろう美心に向かって呼び掛ける。


「美心ちゃん! ちょっと待ってねー。艶麗の乙女が今行くからー」


「あーーーーっ!? 待って! 待って! やめて! ちょっとママーー!」


 私は必死にママを止めに走る。聞かれてた!? 恥ずかし過ぎるっ!



 * * *



 私と美心はハンバーガー屋さんで、ポテトを食べながらお喋りをする。

 話題の中心はショッピングモールのことだ。


「いやほんと、あのときマジにすぐ帰って良かったよね。詩に感謝してるよ」


「本当に危なかったよね。結局何があったんだろう? テレビとかでも詳しく言わないし」


 私は何も知らないフリをする。こういうとき前世の経験が生きる。

 あの惨劇よりも、もっと酷い戦場で生きてきた私にとってあれくらいなんてことはない。まあ、それもどうかとは思うけど。


 ショッピングモールでのことは、無差別殺人があったとしか報道されていない。巨大カナブンの死体もそのままにしてたから発見されているはずなんだけど、どう処理されたのか気になる。


「だよねー、変な事件だよね。ショッピングモール閉鎖するかもって、噂もあるしヤバイ事件だってのは間違いないんだけど。お陰で部活は全て中止で寄り道禁止になっちゃったし」


「寄り道禁止は厳しいわー。帰り道に先生立ってるし、行けないよねえー」


 私たちはポテトを咥えたままふんぞり返る。


「そういやさー、美心の部活も休みになったんでしょ?」


「ん? まあね、私の部活って作品作って納品すればOKだから、あんま関係ないけどね」


 因みに美心は手芸部に所属している。基本手芸部は期限内に出展する作品を提出すればOKという非常に緩い部。

 放課後はミシンとか持っていない子達や、先生から習いたい子だけが行くそんな部である。

 その点、美心の家はお母さんが洋服の仕立てしてて、道具も揃ってるし、彼女は私からみてプロ級の腕前なので部活へ行く必要があまりないのである。


 私から見た美心は、女の子らしく器用で羨ましい。私は魔物の解体とかは得意だけど、お披露目する機会もないし、女子力からはほど遠いスキルなのは自覚しているつもりである。


「どしたの? ぼーーーーとしてるけど」


「ごめんなんか色々考えてた。あの事件不思議なこと多いなって」


「だねー。ま、うちらが考えてもなんの解決もしないけどね」


「言えてるね」


 そこから下らない話を続けた私たちは早めに帰宅するため、ハンバーガーショップを出て別れる。


「じゃあ、また明日!」


「うん、美心、気を付けて帰ってね」


 美心と手を振り別れ、歩いている最中何気に空を見上げる。

 青い空には太陽がまだ輝いている。時計を見ると16時を差している。日も高いわけだ。

 私が眺める空を沢山の鳥が鳴きながら飛んでいく。どこの世界でも鳥はいるものだ。

 

 立ち止まって鳥の騒がしい鳴き声を聞く。


 ギャアギャア、鳴く鳥の声はあまり美しいとはいえないけど、優雅ではなくとも生命を感じさせてくれるから私は好きだったりする。


 耳を鳴き声に傾ける。


 ──すまんっす!


 ん?


 ギャアギャア、ギャア──ごめんっす! ギャアギャア──事故っす! ギャアギャア── 


 あれ? なんか変な声が微かに聞こえる。私は声のする方を見上げたまま探すのだった。

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