第7話:ノーカンっす
私が見上げる空から、一羽の鳥が舞い降りてくる。
そして私に近くの塀にとまる。ズングリムックリした青い体に、赤い線が入った派手な鳥。
目がグルグルと渦を巻いて、大きな黄色いくちばしからヨダレが垂れている。
非常に間抜けな顔であると言わざるを得ない顔だ。
そのグルグルした目を私に向けると、ヨダレの垂れたくちばしを開く。
「エレノア、ごめんっす! でも事故っす!」
開口一番そんなことを言ってくる。どっかで聞いたことのある声と喋り方。
そして私をエレノアと呼ぶということは。
「あれだ、えーと、女神……誰だっけ?」
「シルマっす! この子、神の使いオルドの体を通じて話してるっす。周りの人にはなに言ってるか分からないし、そもそも周囲から認識されない、便利な設定なんで安心っす」
「ふーん、電話みたいなもの?」
「ま、まあそんなものっす」
その見た目から神の使いの威厳は感じられない。ただ周りの喧騒が感じられなくなって、人は通るけど別の空間にいる、不思議な感じになっているからそれは神様っぽい。
「ああっそうだ! 私さ、魔物と魔族のいない世界が良いって言ったじゃん。この間の奴はなによ。話違うんだけど!」
オルドが両羽を合わせて、ゴメンみたいなポーズをとってくる。顔はそのまま目がグルグルのくちばしからヨダレたらー、のままなので非常にムカつく。
「それはさっきから謝ってるっす。でもあれは魔物でも魔族でもないっす」
「じゃあ何よ」
「宇宙人っす」
「はあっ!?」
間抜けな鳥が「宇宙人」とか訳の分からないことを言ってくる。
「だから、ノーカンっす」
私は無言で鳥の両頬を引っ張る。
「あーーダメっす! わたしは痛くないっすけどオルドが痛がってるっす! だからさっきから、その件は謝ってるじゃないっすか」
「でえ? シルマが出てきたってことはなに? ただ謝りに来たって訳じゃあないんでしょ?」
オルドは両頬を引っ張られたまま、くちばしをパクパクと動かしカタカタ音を立てる。喋っている雰囲気出したいんだろうけど、くちばしの動きと、シルマの声のタイミング合ってないから、カタカタやらなくて良いのに。
「察しがいいっす! 流石
「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」
この女神聞いてたな! 私がさっき部屋で「艶麗の乙女 詩!」ってポーズとってたの知ってやがるな!!
「ああーーやめるっす! オルドが死んじゃうっす!」
私に激しくシェイクされたオルドがグッタリと横たわる。目はグルグルしてくちばしからヨダレが垂れている。少し可哀想なこと……って何も変わってないじゃん。
倒れたのは演技かよって感じで、オルドは立ち上がると、再びくちばしカタカタ、羽を身ぶり手振りでバサバサとしながら説明が始まる。
正直ウザイ。
「宇宙人襲来とかは、流石に予想出来ないっす。地球で戦争が起きるのも、星同士で戦争が起きるのも神は知らないし、止められないっす」
「そんなものなの?」
「そうっす。生命同士の争いは自然に起きるものっす。それで本題っす」
オルドは羽で器用に腕を組む。その少し偉そうな態度に対して、私が睨むとオルド本体が危機を感じたのかビクッと身を震わせるが、必死に威厳のある態度を取ろうとしている。
彼? の仕事を全うしようとする態度は素晴らしい。顔はムカつくけど。
「宇宙人襲来も、神には関係ないっすけど。詩に平和に生きなさいっていった手前、個人的に責任感じてるっす」
オルドがシルマの言葉に合わせ、頭を抱えてションボリした感じで下を向く。
なんかここまでくると可愛く感じてきた。
「そこでっす! 詩が宇宙人と戦うなら、ちょっとだけ手助けするっす」
「えーー戦う前提? そもそも宇宙人とどうやって戦うのよ。ミサイルとかビームとか撃ってこられたら、どうしようも出来ないんですけどー」
「えーーと待つっすよ」
オルドから本をめくるようなパラパラと音が聞こえてくる。本当に電話機みたいな鳥だ。
「大丈夫っす。ここ最近宇宙人が他の星を襲うときに、ビーム兵器を使用した記録はないっす。だからこの宇宙人も大丈夫なはずっす」
「なんか今一信頼に欠ける情報だけど、そんなことが分かるんだ。じゃあさ、相手の人数や弱点とか有益な情報ないの? 教えてよ」
「あーダメっす、そういうの。
オルドが両羽で大きくバツを作る。あ、このポーズ転生するとき見た気がする。そしてイラッとする。
私がデコピンの構えをして、素振りを始めると、オルドのグルグルな目から涙が溢れてくるが、それでもバツの姿勢は崩さない。
職務に忠実だ。この子も大変なのだろう。デコピンを止めて頭を撫でると、涙をダバダバ流しながらこっちを見てくる。
相変わらず顔はウザイけど、愛嬌があると言えばあるかも。なんか癖になってくる顔である。
「ってなによ、スペース個人情報保護法って。こっちは侵略されるかもしれないのに、法律なんて関係ないでしょ」
「さっき教えた情報だって法ギリギリっす。一応神様なんで法は守りたいっす。まあ教えたくても宇宙人のことよく知らないのでどうしようもないっすけど。はっはっはっはっは!」
「ぐぬう! ムカつくわこの女神。じゃあ戦うとしてなに手伝ってくれるの」
「そっすね。一緒に戦ってくれそうな仲間を、斡旋するくらいなら出来るっす」
仲間か……記憶を呼び起こす。前世での壮絶な戦い、5星勇者も強かったが私達も負けてはいなかった。
頼れる仲間達と魔王の軍勢と戦ったのだ。そっか私が転生してるんだから、他の仲間も転生してて一緒に戦ってくれれば!
ちょっと明るい未来が見えてきたぞ!
「じゃあそれでお願い! いつ来るの?」
「知らないっす」
私は無言でオルドの首? を掴んで睨む。オルドは涙目で首を必死に振って許しを請うているようだ。
「落ち着くっす。仲間を斡旋するっすけど、条件があるっすよ。まず同じ星にいること、そして本人の承諾が必要、以上っす」
「本人の承諾ぅ? 私は承諾してないんだけど」
「まーそっすけどね。これは推測になるっすけど、この間の戦いで詩は相手から敵として認識されてないっすかね?」
「うっ……」
たじろぐ私にオルドが両羽を組んで胸を反らし威圧してくる。
あ、やっぱムカつくわコイツ。
「大体居場所の見当はついてるっすけど、今から探すっす。見つけたら手伝うように言うっすから、それまで1人で頑張るっす」
オルドが羽を広げると、羽ばたき宙に浮かぶ。
「何から何まで勝手な女神だね」
「誉め言葉っす」
私の文句もあっさりかわされ、オルドがどんどん高く上昇していくと、周囲の喧騒が元に戻り音が耳に飛び込んでくる。
青い空を見上げ太陽の光に目を細め、私は文句を言うのだ。
「あ~あ、結局私は戦わないといけないのか~、やだなーー!」
苦難の始まりである。
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