第4話:正義のヒーロー?
周りから見たら巨大カナブンと私、どっちが変だろうか。
私は今、カーテンをマントのように羽織り、お面を被っている。因みにお面は、女の子に人気の戦う魔法使い。フラッと現れ、その可愛さを振り撒きながら、敵を拳で駆逐するフラッとプリティーな『フラプリ』である。
くぅぅ恥ずかしい!
今がそんなことを言っている状況でないのは、分かっているけど恥ずかしい。
制服が見えないように黒いカーテンで隠しまるで、てるてる坊主の様な姿に加え、顔にはアニメのお面……
いつまでも恥ずかしがってる場合ではない! 私は親子の方を振り返る。
娘に覆い被さるお母さんと、お面越しに目が合う。
「あ、あの……」
「ひぃっー」
短い悲鳴をあげ娘をぎゅっと抱き締める。完全に怯えられている……
あ~なんだ、このいたたまれない感じ。ちょっぴり悲しい私はこのやり場のない虚しさを怒りに変換し、巨大カナブンに向ける。
敵を観察する。やはり虫にしか見えない。魔物に虫タイプっていたけどアイツらって固いんだよなあ。この世界、武器とか無いしパンチ、キックでいけるかな?
「ま、いくしかないけどねっ!」
私は地面を蹴って間合いを詰めると、先制の蹴りをボディーへ叩き込む。
巨大カナブンはゴロンと後ろに引っくり返えり、転がっていくと吹き抜けの柵に大きな音を立て、衝突する。
おお! いける! 身体強化だけでもやれそう。
転がった巨大カナブンは羽を広げ素早く起き上がると、地面に沿う低空で突っ込んでくる。それを空中へ飛んで逃げた私は、体を回転させ勢いを乗せた拳を巨大カナブンの頭に叩き込み、そのまま地面に叩き付ける。
薄茶色い血のようなものが頭部から飛び散り地面を染める。この辺は虫っぽい。
巨大カナブンは地面に頭をつけたまま、羽を広げると羽ばたきホバリングの様な感じで地面スレスレで浮かび、後ろに下がっていく。
先程ぶつかり壊れた柵の所まで来ると、羽で器用にバランスをとり浮かび上がって体を起こし、空中で立ち上がる。そのまま壊れた柵に手を伸ばし4本の腕に柵の棒を装備する。
虫タイプで武器を使う!? 前世の知識だと虫タイプは自身の体の一部や毒、溶解液なんか使ってきてけど、武器を装備するのは初めて見た。
驚く私に巨大カナブンは4本の棒を構え、飛んで突っ込んでくる。
様々な方向から叩き込まれる攻撃をなんとか、かわしながら拳を叩き込む。
ただ避けることに忙しい私の拳は、腰が入ってないのか今一効果がない。
そして4本の腕、2本の足の動きに注意して避ける私を、観察するような巨大カナブンの視線を感じる。
虫タイプって思考があんまり感じられず空っぽな視線だったけど、コイツのは何か意思を感じる。丸くて黒い目、でも目玉のように動かないから視線が分かりにくい。
その時だった、左の腕に握っていた棒を突然投げてくる。私にではなく親子の方へ。
「はあ!? ふざけんな、よ! っと」
その棒を蹴り上げ起動を空中へ反らす。それと同時に巨大カナブンの回し蹴りが私を襲う。体を回転させながら避ける私だが、鏡写しの様に私と同時に体を回転させた巨大カナブンが、3本の腕で同時に棒を振り抜いてくる。
右側に叩き込まれる攻撃を私は手と足に力を集中し、ダメージを軽減するが衝撃は凄まじく、文房具屋さんのガラスをぶち破り、派手にガラスを撒き散らしながら店内に吹き飛ばされる。
「なんなのアイツ! ムカつくわー!」
私はガラスや文房具を撥ね飛ばし、勢いよく立ち上がる。チクッと左手が痛むので見てみると、少し切れて血が流れている。
右側に集中し過ぎて左が少し弱かったかな。でも……
ガシャガシャと割れたガラスを砕きながら、巨大カナブンが店内に入ってくる。
私は左手の血を右の人差し指で掬う。その血の着いた人差し指で正面に大きく丸を描くと、赤く光る丸が宙に描かれる。
円の中に時計回りに文字を書き込んでいく。文字は前世で使っていたエウロパ文字である。この文字の組み合わせで私は『火・水・風・地』などの力を使用できるのだ。
魔法とは違い自身の血を使用するこの術の強みは、血さえあれば発動出来ること、属性に囚われないこと、傷付けばつくほど大きな術が発動出来ることなどがある。
この術は先祖代々伝わるもので、こっちの言葉では『
円の中に書いた文字は訳すると『我は赤く燃える化身なり、その身は敵を焼き尽くすであろう』となる。
私はその文字の描かれた円に掌を叩き込むと、円が一瞬だけ赤い炎を纏うが、火の粉を散らし円は霧散していく。
「ああ、やっぱ駄目かあ」
過去に一度試したときも、こんな感じで文字は霧散してしまった。転生して力が弱くなったのか、それとも魔法など無い世界だから理と合わないのか、理由は分からないけど、今は要らないと思った力が欲しい!
私と巨大カナブンは激しく攻撃をぶつけ合う。棒による攻撃を除けば手足の攻撃は軽く、手先にあるトゲの方を、気を付ければそう問題無い。
むしろ問題は……
ドンッ!!
鈍い音と共に周囲の棚が粉微塵に粉砕され、埃と一緒に舞い散る。
口にある鋭く尖った針による攻撃である。身体を強化していても皮膚が切れてしまう。
しかも複数ある手足の攻撃の中に、フェイントを交えながら高速で突いてくる。
「ああもう! 接近戦めんどくさー」
ぼやきながらも拳を2発連撃で腹部へ叩き込み、よろける巨大カナブンを足の裏で押すように蹴りを入れる。
ゴロゴロと転がり、レジの辺り一帯を破壊しながら止まる。ボーリングみたいだ、なんてくだらないことを思いながら一歩踏み込むと、足に何かが当たる。
筆? 確かレジの近くに飾ってあったお高いやつか。何となく手に取った私は、美心の言葉を思い出す。
──魂の篭った字を書いちゃうよ! まるで生きてるみたいな字、川ならさらさらって流れ始める、みたいな?──
……私の血でこの世界の文字書いたらどうなるんだろ?
そう思うのと同時に、私は左腕に流れる血を筆で掬うのだった。
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