061_盗賊退治(一)

 


 帝都を発ってから九日目にサンジェルムという町に到着した。

 そこの代官と町長に聞いたが、最近このあたりに大規模な盗賊団が出没していて商人や旅人が襲われているそうだ。

 これは俺の指揮下にある兵士の練度を見るのにちょうどいい相手だと思う。


「盗賊団は少なく見積もっても五百人以上の規模です」


 五百だと? そんな大規模の盗賊団がいるとは聞いたことがないぞ?

 それに五百もの盗賊団なら、この町を力で支配できるはずだ。


「今まで盗賊が出たらどうしていたのだ?」

「これまではここまで大きな盗賊団が出たことがございませんので、このサンジェルムの警備兵でも対処できました。しかし、今回の盗賊団は複数の盗賊団が纏まってできたようなのです」


 代官が額の汗を拭きながら説明をしてくるが、ここで重要なのが複数の盗賊団が一つになったということだ。

 それだけの盗賊団を纏める力のある奴が、その盗賊団の頭をしていると考えて行動しないといけない。

 さて、どうしたものか……。軍の強さを見るのに盗賊は丁度よいが、組織だった盗賊だと話は簡単ではない。

 ただ、このまま盗賊団を放置すれば補給線に不安を抱えることになる。

 かと言って盗賊討伐に時間をかけるのは、パリマスで行うことになったいる艦隊の再編がそれだけ遅くなること意味する。


 ……悩む必要はないな。

 俺の手の届くところに盗賊が現れたんだから、俺に盗賊討伐をしろという天啓だと思う。いや、そうに違いない。


 電光石火の速さで盗賊を討伐する必要がある。

 たかが盗賊に苦戦していてはハマネスク征伐などできるわけがないのだ。


「サキノ、ソーサー。盗賊団を討伐するぞ」

「殿下はハマネスク反乱軍の鎮圧を命じられていますが、よろしいので?」


 サキノはこう聞いてきたけど、盗賊討伐に賛成のようだ。

 サキノの性格から俺の身が相当危険だと判断しない限り、民のために働くことを否とは言わない。そういう奴だ。


「今、余が率いているのは私兵である。私兵であれば余の勝手で盗賊討伐をしても問題なかろう」


 これが帝国軍であれば勝手なことは控えるべきだが、今の俺の指揮下に帝国軍はない。


「では、諸侯にそのように申し伝えます」

「うむ。ソーサー、もし嫌がる素振りを見せた者がいれば、報告しろ。余の命に従わぬ者は要らぬ」

「は、承知しました」


 ソーサーは部屋を出ていき諸侯の元に向かった。


 何人かは嫌がる者も出るだろうが、そういう奴は切り捨てるまでだ。

 盗賊くらい片手間で討伐できなくて、ハマネスクを鎮圧なんてできるわけがない。

 今回のハマネスクの反乱は旧ハマネスク王朝の生き残りが組織しているはずだから、組織だった動きをする可能性が高い。

 正規軍とそん色ない反乱軍を鎮圧するのに、盗賊ごときに気後れするような奴は邪魔になるからここでふるいにかけるのもいいだろう。


「盗賊を討伐するにも、どこを根城にしているのかが分からないと攻めようがありませんが?」

「それもそうだな。代官よ、根城についてめぼしはついているのか?」

「いえ……それが……」


 その反応だけで分かってしまった。この代官はあまり有能ではない。

 しかし、このサンジェルムは帝都とパリマニスを繋ぐ要所なのに、こんな無能な代官を置いているのはなぜだ?

 そういえば、このサンジェルムの前代官が……なるほど、そういうことか。


「サキノ、このサンジェルムに滞在できる日数はどれほどだ?」

「はい、四日が限度かと」


 四日以内に全て片づけなければならないわけだ。


 ▽▽▽


「お前たちに早速働いてもらうことになった」


 俺の前で地面に膝をついているのは、ガンボル・バグダッシュという人物だ。

 このガンボル・バグダッシュは、伯父上に紹介してもらった外務省特務情報局の管理官をしていて、情報収集や情報操作に長けた人物である。


「なんなりとお申しつけください」

「うむ。すでに聞き及んでいると思うが、盗賊討伐をすることが決まった。お前たちには盗賊の根城とこの町の中にある盗賊たちの拠点を突き止めてもらいたい。できれば盗賊の数も把握したい」

「盗賊の根城に関してはすでに突き止めております」

「ほう……。聞きしに勝る優秀さだな」


 命じる前に先をいって俺のほしがる情報を持ってくるとはな。

 俺が盗賊討伐をしなくても、そういった情報は他の者が盗賊討伐を行う時に与えてやれば恩を売れるのもあるか。


「ただ、この町中の拠点については一カ所は突き止めておりますが、他にあるかはまだ確認ができておりませぬ」

「バグダッシュ。数は分かっているのか?」

「全てを確認しておりませんのではっきりとは言えませぬが、少なくとも六百名は確認しています」


 代官の話より百人も多いか。まあいい、誤差というものだ。


「それだけ分かっていれば十分だ。サキノ、俺はどうやら当たりを引いたようだ」

「おめでとうございます」


 バグダッシュは懐から紙をとりだして「失礼します」と俺の前に広げた。


 盗賊たちは山の麓に砦を築いていたことに驚いたが、その縄張りをしっかりと調べているバグダッシュにも驚いた。


「六カ所に見張りが随時四名立てられており、素人の集団ではないように思えます」


 根城の見張りの位置や人員配置もあるていど記載されていて、死角がみつからないのが分かった。


「たしかに、この見張りの位置はしっかりと全体が見渡せるようになっており、軍が近づけばすぐに発見されますな」


 サキノも砦の縄張りの巧妙さに舌を巻くか。


「二人はどう思うか?」


 非常に抽象的な問いかけだから、俺の問いかけの真意を考えているのか、二人とも難しい顔をした。


「この砦を築いた者は、とても盗賊とは思えませんな。おそらくは軍に所属していたものが築いたのでしょう」

「某もサキノ殿の仰られる通りだと考えております。軍で砦の縄張りに関わったことのある者が頭か、頭を補佐する者の中にいると思われます」


 バグダッシュも考えついたが、サキノを立ているのが俺には分かった。


「ならば、どう攻める?」

「人員の配置に穴はないように見受けます」

「面での制圧がよろしいかと」


 サキノが言うとバグダッシュはそれに追随する。決して自分が前に出ないか。


「俺が連れてきた兵で総攻撃をというわけか。いいだろう。サキノ、明朝出陣するぞ」

「はっ!」


 サキノは敬礼で返してきた。


「バグダッシュ。これからの働きにも期待しているぞ」

「ありがたきお言葉」


 バグダッシュは音もなく立ち去った。

 あのような特殊な能力を持った人物はとても貴重だ。

 情報は戦争において勝敗を決する重要なファクターでもある。この縁を大事にしなければな。


「サキノ。余は兵を率いて盗賊討伐に向かう。そこでサキノにやってもらいたいことがある」

「どのようなことでしょうか?」

「それはな、―――」


 ▽▽▽


「何も殿下が御自らが出向かなくても、某が盗賊を討伐しましたものを……」

「ソーサー、しつこいぞ。サキノみたいなことを言うな」

「家臣である者の責務でございます。殿下のご不興を買おうとも家臣として主君を諫めなければなりません!」


 暑苦しい奴だ。だが、俺の不興を買おうとも苦言を言う配下は、大事にしてやらないとな。


「分かった。お前はサキノより暑苦しいのがいかんぞ」

「申しわけありませぬ」

「くくく、余はよい家臣を持ったものだ」

「殿下!?」


 おい、泣くなよ。


「ソーサー、泣いている暇はないぞ。盗賊どもの根城が見えてきた」


 ソーサーが涙をぬぐって俺の視線を追った。


「ど、どこにございますか?」


 実を言うと、俺は魔力を目に集めて視力を強化することに成功している。

 だから、ソーサーに見えなくても俺には見えているのだ。


「お前には見えぬか。もうすぐ見えてくるだろう」

「申し訳ございません」

「謝る必要はない。余は視力を強化しているのだからな」

「視力を強化? そのようなことが……」

「できるのだ。とは言え、誰かに教えろと言われても、どう言っていいか余自身も分からぬのだがな」


 魔力を目に纏わせるということは教えられるが、それをどうやるのかを教えるのができない。行軍が暇だったので、つい暇つぶしでやっていたらできてしまったのである。

 俺は身体強化と呼んでいるが、魔力で体をコーティングすると運動能力が劇的に上がる。それの応用だ。


 身体強化の薬と訓練の併用によって、精強な家臣たち。

 この身体強化や視力強化を教えることができたら、今以上に精強な家臣団になるはずだ。

 時間はかかるかもしれないが、理論化して家臣に教えたいと思う。



――― ――― ――― ―――

最近、コメントをもらえるようになってきました。

個別の返信はしておりませんが、とても嬉しく思っています。


お爺ちゃんが用意して兵士ですが、親衛ではないです。

親衛はサキノが率いるゼノキア騎士団がちゃんといますので、お爺ちゃんが用意したのはゼノキアに従う私兵です。

――― ――― ――― ―――

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る