060_出陣
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「ソーサー。そなたの騎士団副団長の任を解く」
「はっ」
「今後は帝国陸軍中将として、余を補佐してハマネスク反乱軍鎮圧に尽力せよ」
「ありがたき、幸せにございます」
騎士団はアーサーに任せ、ソーサーはハマネスクに連れていく。
「サキノ。お前は海軍大将だ」
「謹んでお受けいたします」
俺の大将軍の権限は元帥と同じ。つまり、全帝国軍の最高位である。
「フリアム・アビス。お前は中将に昇格、そして編成本部長だ」
「某のような者を編成本部長にしていただき、この上なき幸せにございます。一層の忠誠を誓わせていただきます」
俺の子飼いの者たちをそばに置くのは当然。問題はそうでない軍人たちだ。
明日はその軍人たちを集めた会議を開くが、その前に―――。
「殿下、ご無沙汰しております」
「初めて御意を得ます、ウオルフ・ウルティアムでございます。殿下」
「お爺様、それに伯父上、よくきてくださった」
サキノたちに辞令を出し終わった俺の執務室に入ってきたのは、外祖父と伯父だ。
伯父は今年で二十七歳になるが外務参事官の職に就いている。
また、次の人事では官房長に昇進するのではと言われているので有能なのが分かる。
「今回、我が家の兵士五百名を殿下の直営に加えていただきたく、お願いに参上いたしました」
二人が俺に頭を下げた。
本来、支援してもらっているのは俺で、二人は支援している側なので頭を下げるべきは俺なんだが、親王という立場がこのような逆転現象を起こしている。
「頭をお上げください」
祖父と伯父が俺に兵を預けるのは、当然のことだが打算がある。
俺がここで戦功を挙げれば、皇帝の座がぐっと近づく。
迷宮魔人を討伐し、ハマネスクの反乱も鎮圧したとなれば、親王の中で実績は群を抜く。
俺が皇帝になれば、皇帝の外祖父と伯父なのだから、この二人は大きな利益を得るのである。
「本来であれば、余がお爺様に頭を下げねばならないことです。お爺様と伯父上のご好意をありがたく頂戴します」
五百もの兵となれば伯爵家としてはかなり奮発しているはずだ。
だが、ここで俺がハマネスク征伐を成功させれば、皇帝の座がぐっと近づくので二人としても金の使いどころなんだと思う。
それにウルティアム家は領地持ちではないので、戦功を挙げて領地を得ようという野心が見える。
今回のハマネスク征伐が成功すれば、それなりのお返しをしなければならない。戦いよりもそっちのほうが頭の痛いところだ。
「兵を出してもらっているのに欲張りなことを言いますが、伯父上に頼みたいことがあるのです」
「私にですか?」
「外務省の外部機関に情報を扱う部署があったと思うのですが?」
「たしかに外務省特務情報局という部署があります」
「その部署の者を紹介していただきたい」
「……分かりました。私の同期の者がいますので、その者に話を通してみましょう」
「ありがとうございます」
▽▽▽
「お前の忠誠を見せてもらおうか」
「唐突ですな、殿下」
アムレッツァ・ドルフォン法務大臣。
俺を最低でも二回殺そうとして刺客を送ってきたと思っていたが、最近それが違うことに気がついた人物。
「そうか? 今回の件は、お前にとっても忠誠の見せどころだろ?」
「たしかにそうでございますな。それで、某に何をしろと仰られるのでございますか?」
「お前の部下で帝国法に詳しい者を従軍させよ」
「失礼ながら、我が法務省において帝国法に詳しくない者など存在しませぬが」
「詭弁はいい。全ての者が帝国法に詳しいわけなかろう。余が求めるのは帝国法の全文を諳んじることができる者だ。その者を従軍させよ」
要はアジャミナスのような者だ。
俺も多少は帝国法を知っているが、全部知っているわけではない。何かするにしても、法的に問題があるかないかを確認するのは、大事なことだ。
「……承知しました」
「うむ、下がってよいぞ」
「はい」
法務大臣は眉間にシワを寄せていた。
普通は専門分野があって、その分野においては間違いなく覚えている者が多い。ややハードルの高い要求だが、帝国法を諳んじる者の一人や二人くらいいるだろう。
▽▽▽
「出立」
「しゅったぁぁぁっつ!」
俺の命令をソーサーが復唱して、俺たちはパリマニスへ向けて出立した。
ウルティアム伯爵軍以外にも陣借りとして駆けつけた者たちを引き連れての行軍だ。
馬車で向かえばパリマニスまではおよそ六日だが、軍の行軍だと十八日から二十日ほどかかる予定だ。
初めての遠出が遠征だとは、さすがに思ってもいなかった。だが、それが俺らしいと言えば俺らしいと思う。
前世では人生のほとんどを戦場で過ごした俺だが、最後も戦場だった。
今回はあんな末路を辿らないように気をつけたいと思っているが、できるだろうか?
先頭に立って敵と戦うことを俺自身抑えられるだろうか?
「ふっ……」
つい、笑ってしまった。死にたくはないが、戦場で大人しくしていたら、俺ではないと思ってしまった。
「どうかされましたか?」
サキノが胡乱な目で俺を見ていた。
戦場にいくのに笑うなんて、頭がおかしくなったんじゃないかと思ったんだろう。
「いや、まさか余が戦場に出るとは思ってもいなかったので、なんだかおかしくてな」
「戦場は恐ろしいところですが、我ら家臣が必ずや殿下をお守りいたしますのでご安心ください」
九歳の俺が戦場へ赴くのを怖がっているとでも思ったのかな。
だけど、その反対だから始末に悪いんだがな。
このフォンケルメ帝国の国土は非常に広大だ。
道は整備されているが、国の端から端へいこうとすると数カ月がかかってしまう。
それに帝国には植民地もあるため、植民地全てを船で旅をすると一年では帰ってこれないことも普通だ。
「サキノ、あれはなんだ?」
馬に乗って進んで帝都を出た俺の目に飛び込んできたのは、街道の先にある尖塔のような建物だった。
「あれは狼煙台でございます」
「ほう、あんな形をしているのか」
狼煙台があるのは知っていたが、どのような形をしているか知らなかった俺は正直に感嘆した。
狼煙台は敵が進行してきた時に情報を素早く帝都に伝えるためのもので、一定間隔に建設されている。
前世の俺は行軍に時間をかけたくなかったので、歩兵ではなく騎兵をよく使った。
馬上で弓を使うのは難しいので、騎兵にクロスボウという弓に似た武器を持たせていたのは懐かしい記憶だ。
あの頃は馬上でも弓を使えるように考えて、クロスボウという武器を開発した。
クロスボウは俺が開発をさせた武器だが、生産コストがかかるので今ではほとんど生産されていないし使われていない。
普通の弓のほうがはるかにコストが安いし、弓騎兵より歩兵のほうが育てる時間が少なくて済むから今の帝国軍の主力は歩兵だ。
歩兵でも数を揃えることができる帝国の軍は強いが、それは数によるものであって精鋭というわけではない。
俺は圧倒的な破壊力がない軍に、なんの魅力も感じない。
もし、俺が軍務大臣になったら、確実に騎兵や弓騎兵を組織・強化するだろう。
兵の運用は速度を重んじる。それが前世の俺のスタイルであり、今世でも速度は重要だと思っている。
まあ、それで突出してしまい魔法の集中砲火を受けて死んでしまったわけだが……。反省はしている。
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