057_なんだと!?

 


「お呼びと伺いアムレッツァ・ドルフォン、参上いたしました」


 法務大臣。今は俺の麾下に入ったが、俺を何度か暗殺しようとした奴だ。


「最近の法務省の状況を確認したい。オットーの勢力はどうなっているのか?」


 オットー侯爵は法務省の官房長で、新親王のアジャミナスの父親になる。

 官房長は大臣、政務官に次ぐ役職だが、アジャミナスが親王になったことで次の大臣はオットー侯爵だと言われている。

 別にオットー侯爵が大臣になるのは構わない。オットー侯爵が無能なら別だが、アジャミナスの顔を立てるためにそういう人事があるのは当然のことだ。


「某の力がおよばず、殿下の顔に泥を塗るような仕儀にいたってしまい、大変申しわけなく思っております」


 ほう、今の言葉に嘘はないか。これは意外だな。


「派閥の勢力はどうなっているのか?」

「某の派閥が三割、オットー殿の派閥が五割、それ以外が二割となっております」


 たしか、以前はドルフォン派が五割だったはずだ。完全に逆転されてしまったか。

 気に入らないな。これは予想できたことだが、目の前にいるドルフォンが俺の麾下なのは、すでに周知の事実。つまり、鞍替えした奴らはドルフォンが言うように、俺の顔に泥を塗っているのだ。

 アジャミナスは法典を諳んじるほどの逸材だから、法務族からの受けはいい。だから、少しくらいはそういうこともあると思っていたが、これは多すぎる。


「オットーの勢力は、さらに増えると考えているか?」


 ドルフォンが三割の勢力なのは、問題はない。問題はその他の二割だ。そいつらがオットーにつけば、その勢力は圧倒的になる。


「そろそろ落ち着くと思いますので、今の勢力図から大きく変わることはないと存じます」

「お前は今後のことをどう考えているのだ?」

「さればでございます。某はすでに大臣の座に八年、現在は九年目にございます。早ければ九年に満たず、大臣の職を辞すことになるでしょう」

「そうだな」

「そうなれば、オットー官房長が大臣になる可能性もありますが、アジャミナス殿下が大臣になり、オットー官房長が副大臣としてこれを補佐する可能性も十分にあります」

「うむ」

「某としてはその時に政務官と参事官に息のかかった者を置きたいと存じます」


 そうすれば、派閥は維持できるだろう。だが、アジャミナスが親王であり続ける以上、法務省の勢力はオットーに流れ続けることだろう。

 その流れを止めることはできる。俺が法務大臣になればいいのだ。しかし、それは現実的なことではない。それよりは俺が皇太子になるほうが、現実的だ。

 もっとも、それには現皇太子を追い落とすことになるのだが。


「お前の考えは分かった。そこで確認しておきたいことがある」

「なんなりとお聞きください」

「お前は余に叛意はないか?」

「滅相もございません。殿下にお仕えすると決めた以上、その心に二言はありません」


 ほう、今の言葉に嘘はないか。心を入れ替えたということだな。


「ならば、過去に余に対して害意や敵意を持ったことはあるか?」

「それはどういう意図の質問でしょうか?」


 ドルフォンが目を細めた。


「そのままの意味だ。お前は余が居なければいい、死んで欲しいと思ったことはないか?」

「……正直申しまして、殿下の噂は色々と聞き及んでおります。過去に何度も刺客に襲われたことも存じあげておりますが、某は決してそういったことに関わってはおりません」


 なんだと!?

 ドルフォンの言葉に嘘が……ない。どういうことだ?

 まさかドルフォンは俺の暗殺に関わっていないのか? だったら、誰が……?


「分かった。お前の言葉を信用しよう。もう下がってよいぞ」

「はっ。失礼いたします」


 奴が暗殺未遂に関わっていないとなると、誰が……。それ以前にドルフォンの名がなぜ挙がった?


「サキノ……」

「はっ」

「ドルフォンは俺の暗殺未遂に関わっていない」

「なんですと!? ……まさか……、しかし……」


 サキノもかなり困惑しているようだ。


「ドルフォンの周囲にいる者を探れ。俺たちの目がドルフォンに向くように仕向けた奴が必ずいるはずだ」

「承知しました」


 誰だ、誰が俺を……?


「ふー……。これまでの確信に満ちた考えが覆った。なかなか狡猾な奴だ。だが、俺を敵にしたことを必ず思い知らせてやる。逃げられると思うなよ」


 たとえ帝国から逃げ出したとしても、地の果てだろうと追い詰めてやる。


 

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