055_戦勝パーティー・婚約発表

 


 迷宮魔人討伐から十日。あれからソーサーとアーサーが部隊を率いて、アルゴン迷宮内を探索している。

 あの迷宮魔人が本物であれば迷宮の成長は止まり、偽物であれば成長を続けるだろう。そして、ソーサーとアーサーの報告を聞く限り、迷宮の成長は止まっていると判断できた。


 五日後には、アルゴン迷宮の管理を探索者ギルドに移管する。それを持って、騎士団はアルゴン迷宮から手を引くことになる。


 その後、迷宮魔人を討伐した俺たちの功績に対して、褒美が与えられる。

 事前の交渉で俺には伯爵位、サキノとアーサーには子爵位、他のメンバーにも爵位や昇進、そして金銭が与えられることになった。


 親王の俺に伯爵位を与えるというのは、どういうことなのかと思うだろう。

 親王は次の皇帝になれる地位で、その子供は皇族だ。しかし、俺の孫は平民になる。今の俺には封地がある。封地は言い換えれば領地である。だが、俺が死んだらアーデン家に領地はなくなる。

 今回もらう伯爵位は、俺が死んだ時に役立つものだ。つまり、今の封地がアーデン伯爵家に引き継がれ、俺の子は皇子で伯爵となる。そして、本来は平民になる孫は、皇族ではないが伯爵位を引き継ぐことができ、アーデン家は子々孫々伯爵家として残り続けるのだ。

 親王が功績を立てた時、このような爵位の授与が稀にある。これはかなり大きな功績でなければ、あり得ないことだ。


 ▽▽▽


 探索者ギルドにアルゴン迷宮を引き渡す日になった。

 迷宮の入り口前で、式典が行われている。

 俺は騎士団の団長として、探索者ギルドの最高幹部であるグランドマスターに、譲渡書に署名する。


 探索者ギルドのグランドマスターが、女性だとは知らなかった。

 エルバルド・ケスラー。男性の名前だろ。だけど、目の前にいるのは、女性だ。腰辺りまで伸ばした銀髪が風に揺れ、太陽の光を浴びて光り輝いている。年齢は四十近いはずだが、二十代にしか見えない。


「ケスラー。後のことは頼んだぞ」

「騎士団より地図だけではなく、罠やモンスターの配置まで情報をいただきましたので、大変助かっております。今後は帝国にしっかりと税を納めさせていただきます」

「税は余の懐に入らぬからな、ほどほどでいいぞ」

「まあ、ご冗談を。うふふふ」


 妙に色っぽい奴だ。それに零れ落ちそうな胸もいい。元探索者だけあって視線はかなり鋭いが、顔も悪くない。

 前世の俺なら、アプローチをかけていただろう。


 ▽▽▽


 謁見の間で、俺たちの功績に対して褒美の授与式が行われている。


「ゼノキア・アーデン・フォンステルトに伯爵位を授ける」


 左丞相が高らかとそう宣言する。俺は、皇帝の前で跪き、その目録を受け取った。


「ゼノキア。今後も期待しておるぞ」

「はっ。ご期待に沿えますよう、努力いたします」


 俺の後にはサキノとアーサーにも子爵位が授けられ、他のメンバーもそれぞれ褒美をもらった。


 ・アーデン騎士団、団長アマニア・サキノ(騎士爵⇒子爵)

 ・アーデン騎士団、ボドム・フォッパー(正騎士⇒騎士長・四千フォルケ)

 ・アーデン騎士団、ソドム・カルミア(騎士⇒正騎士・三千フォルケ)

 ・アーデン騎士団、ウーバー・バーダン(騎士⇒正騎士・三千フォルケ)

 ・アーデン騎士団、リース・ルーツ(従士長⇒騎士・二千フォルケ)

 ・アーデン騎士団、ゲランド・アムガ(従士⇒従士長・五千フォルケ)

 ・魔法士アザル・フリック(士爵⇒男爵)

 ・魔法士ロザリー・エミッツァ(士爵⇒男爵)

 ・帝国騎士団、副団長(騎士長)アーサー・エルングルト(男爵⇒子爵)

 ・帝国騎士団、ミリアム・ドースン(騎士⇒正騎士・三千フォルケ)

 ・帝国騎士団、サージェ・ウイスコン(従士⇒従士長・千フォルケ)


 ゲランド・アムガの金額が他のメンバーよりも多いのは、マッピングの褒美も含まれているからだ。

 通常の迷宮魔人討伐では、褒美を与えることは滅多にない。では、なぜ俺たちが褒美をもらえたかというと、時空属性のマジックアイテムを発見したことと、膨大な金塊を持ち帰ったからだ。


 褒美の授与式が終わると、すぐに戦勝パーティーが始まる。今回の主役は俺だが、他のメンバーも主役でそれぞれに貴族たちが群がっている。特に子爵に陞爵したサキノとアーサー、男爵に陞爵したアザルとロザリーには、多くの貴族が群がっている。

 彼らの目的は自分の娘や縁者を側室として送り込もうというものだ。ロザリーに関しては独身なので、配偶者を送り込みたいという思惑だ。事前にハニートラップには気をつけろと言ってあるので大丈夫だと思うが、何があるか分からないというのが、貴族の狡猾さなのだ。


「殿下。この度はおめでとうございます」


 俺の婚約者になるミューレだ。今日は薄いピンクのドレスを着ていて、瑠璃色の髪がよく映える。その髪に合うティアラは俺が彼女に贈ったもので、つけてくれたのを嬉しく思う。


「ありがとう。ミューレは今日も可愛らしいな」

「まあ、殿下は口がお上手ですこと。うふふふ」

「余は嘘やおべんちゃらは言わんぞ。余が可愛いと言えば、可愛いのだ」

「ありがとうご座います。殿下にそう言っていただけるだけで、とても幸せな気持ちになります」


 可愛らしいミューレの後ろに男が現れた。大柄で白髪の人物で視線は鋭く、歴戦の猛者なのはすぐ分かる。この男がミューレの祖父であり、陸軍大将であるオーランド・ガルアミス侯爵だとすぐに分かった。


「某、オーランド・ガルアミスと申します。ゼノキア殿下には初めて御意を得ます」

「余がゼノキアだ。侯爵が戻ってきているとは、知らなかったぞ」


 オーランドは陸軍の軍服を着込み、大将の証である深紅のマントをつけている。


「本日、帝都に到着しましたゆえ、ご挨拶にもお伺いできず、申しわけご座いません」

「長旅で疲れたであろう。無理はするなよ」

「そのような軟な鍛え方はしておりません。心配は無用に! がははは」


 いや、心配しているのではなく、社交辞令だからな。


「父上。そのような大声で、殿下に失礼ですぞ」

「む、マークか」

「殿下。父が失礼いたしました。某はマーク・ガルアミスと申します。ミューレの父にご座います」

「ゼノキアである。そう、改まる必要はない。余は気にせぬ」

「ありがたきお言葉にご座いますが、それでは殿下が侮られましょう」


 マークは父のオーランドに似ず、かなりの堅物のようだ。だが、こういう男は嫌いではない。


「マークは堅いぞ。殿下がいいと仰っているのだ、その言葉に甘えればよいのだ」

「父上……」


 マークはオーランドの行動に頭を痛めているようだな。しかし、よくもここまで正反対の性格の親子になるものだ。


「殿下。祖父が申しわけご座いません」

「ミューレが謝る必要はない。余は何も気にしていないからな」

「ありがとうご座います」


 ミューレは父親に似て、生真面目だな。

 それに較べオーランドはなぜ謝るという表情だ。孫娘に心配をかけたらダメだぞ。


「殿下。そろそろお時間にございます」


 宦官長がそっと耳打ちしてくる。

 俺は頷きオーランドとマーク、そしてミューレを連れて舞台に向かう。


「ご静粛に願います。皇帝陛下のご入場にございます」


 宦官長が声を張り上げると皇帝が現れ、一瞬で会場が静寂に支配される。


「アルゴン迷宮の迷宮魔人が討伐された。これで皆も安心して過ごせるというものであろう」


 酒が少し入っているのか頬がやや赤い皇帝が、スピーチを始めた。


「さて、今日はもう一つめでたい話がある」


 俺を、否、俺とミューレを手招きする。

 ミューレの手を取って、エスコートする。


「今日の主役、ゼノキアである。そしてその横にいるのは、ゼノキアの婚約者であるミューレ・ガルアミスである」


 婚約発表だ。俺も九歳になったし、迷宮魔人を討伐した功績と合わせて発表すれば、一石二鳥らしい。俺が言ったんじゃなく、皇帝がそう言ったのだ。


「ゼノキアが十二歳になる年に、二人の婚儀を執り行うものとする」


 貴族たちがざわざわと騒々しくなる。俺に娘をと思っていた貴族にしてみれば、肩を落とす理由になるのだから。


 

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