033_人体実験と女の妬み

 

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 サブタイトルのように、今回は人体実験しています。

 気分を害される方もいると思いますので、読まれる時はお気をつけください。

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 エッガーシェルト家のエリーナの解呪を行った十日ほど後のことだ。

 俺は地下室である実験をしていた。

 毒サーチの魔法を開発するために、毒のことを知らなければと思った俺は、毒を生成してその毒の効果の確認をする。そのためには、毒の効果検証と解毒薬の作成を行っていたのだ。


 俺を殺そうとした十人の囚人たちは、俺の実験の被験者になることに同意した罪人だ。とは言っても、こいつらはその後に俺を殺そうとしたので、被験者になったら恩赦を与えるという契約は、全て白紙に戻っている。

 俺を殺そうと襲ってきた時、三人はサキノに切られた。しかし、実験体は貴重なので、水属性の回復魔法で命は助けた。


 毒の量に変化をつけて、十人の実験体に投与した。

 すると、まったく反応しない実験体や、一瞬で吐血して絶命した実験体までデータが取れた。

 本当はもっと多くのデータを集めたいが、罪人とはいえ人の命がかかった実験なので、我慢しなければならない。なにせ、死刑囚で実験体になっていいという奴は、そんなに多くないのだから。


「この毒は百ミグムで痙攣の症状が出て、二百ミグムが致死量か。五十ミグム以上でやや熱っぽさがあり、三十ミグム以下ではまったく変化が見られない」


 度量衡は国によって違うが、帝国内では統一された度量衡が使われている。

 その中で、重さに関する単位はグムが基本で、一グムはほんの一摘みよりも少ない量になる。

 グムよりも小さい単位がミグムで、一千ミグムで一グムになる。

 また、一千グムで一キグム、その上が一千キグムで一トムになる。


 今回、実験体を二人死なせてしまたが、致死量のデータは絶対に必要なので後悔はない。

 死んだ二人はあの世にいってから俺のことを恨んでくれ。

 まあ、すぐに死ねたほうが楽だから、他の八人よりは幸せなのかもしれないが……。

 ただ、一人はその量では死なないだろうと思っていたのに死んでしまったので、俺の見込みに甘さがあったのだと少し落ち込む。


「ふー……。やっぱり思ったようにはいかないな……」

「殿下、表向きではありますが、あの者たちは死ぬ可能性があると知っていてここにきた者たちです。殿下が気に病むことはありません」


 サキノが言う表向きというのは、十人は死刑囚で恩赦を条件に俺の実験につき合っているということだ。

 死ぬ可能性が高いと知って、契約書にサインしたのだから俺が気にする必要はない。

 俺が気にしているのは、人体実験用の人材を確保するのは難しいのに、二人も死なせてしまったことだ。


「三十ミグムで抗体ができるか継続的に確認する」


 俺は実験ノートに今回の結果を記録し、今後の確認事項を書き連ねた。


「今日はここまでだな」


 俺はノートを閉じて書棚にしまい、肩を軽く叩いた。


「お疲れ様です。殿下」

「人の命がかかっているので、本当に疲れたよ。あ、そうだ。あの件はどうなっている?」

「問題なく潜入しています」


 実験体になっている彼らは、法務大臣が雇った刺客たちだ。

 捕縛後、いつかの刺客と同じように彼らに魔法を行使して、雇い主のことを確認しているから間違いない。

 ただ、証拠がないので、今はその証拠を得るために動いているところだ。

 彼らは罪人なので、罪人の証言だけでは有罪にはできないのが法務大臣という権力者である。

 今はグッと我慢をして、反撃の時を待っているところなのだ。


「それと、例の呪いの依頼主が分かりました」


 呪いの依頼主を調べるのはそれほど難しくない。

 今回の呪いは、エリーナが後宮に上がることになったのが発端なのは明らかなので、そのことに不満を持つ人物を当たればいいのだ。

 後宮に上がる候補者は他に三人いたので、その三人を調べれば簡単に見つけることができるわけだ。

 なぜなら、俺がエリーナの呪いを解呪したということは、いき場を失った呪いの力が依頼主と術者に返っていくからだ。

 つまり、解呪が行われると同時に呪いが返され、依頼主と術者がエリーナと同じ呪いにかかってしまったというわけだ。


 あれから十日がたっているので、その依頼主はかなり衰弱していることだろう。

 そうなると、医者や薬剤師、さらには魔法士を呼んで治療を試みているはずなので、三人の候補者からそういった動きがある人物を探すのは簡単である。


「どの家の者だ?」

「カンバス侯爵家のマーリー嬢です」


 カンバス侯爵は外交系の貴族だったな。

 侯爵は代替わりしたばかりで、今の当主は中間管理職の外務官吏長だったはずだ。

 外交官としての能力はあまり高くないため、上位貴族であっても中間管理職の外務官吏長に留まっている人物が、娘を後宮に上げて皇帝の寵愛を受ければという思惑だったんだろう。

 そんなカンバス侯爵の必死さが、娘のマーリーにも移ったのかもしれないし、ただ単に負けず嫌いだったのかもしれない。


「カンバス侯爵は呪いのことを知っているのか?」

「状況的に判断しますと、呪いのことは知らなかったようです」


 呪いの解呪ができる魔法士を呼んだのであれば、呪いのことを知っている可能性は高い。しかし、医師や薬剤師、それに回復系の魔法士を呼んだのであれば、知らない可能性が高いだろう。

 それに、呪いだと分かっても、マーリーが呪い返しを受けたということは、マーリーが誰かを呪っていたということなので、下手な者に解呪を頼むわけにはいかない。

 今回の場合、俺が解呪したので、俺以上の闇属性の魔法使いに解呪を頼まなければいけないのだが、そんな奴は滅多にいないだろう。つまり、俺に頼むしかないけど、そんなことができるわけがない。

 俺にその話を持ってきた時点で、皇帝の妃になることが決まっていたエリーナを呪っていたのは自分の娘ですと、告白していることになるのだからな。

 マーリーがそんなことをしていたとなれば、いくら侯爵でも間違いなく処分されるだろう。だから、マーリーはこのまま死んでいく運命だ。

 可哀そうとは思わない。これはマーリーが自分で招いたことなのだから。


「侯爵家の息女でありながら、後宮へ上がれなかったのが許せなかったのだな」

「女には女のプライドがありますから、落選したのが許せなかったのかもしれませんね」


 後宮入りの選出に関しては皇帝の意見が反映される。

 これが最初の妻であれば、政治的な判断になるので皇帝の意見であっても反映するのは難しいが、皇帝にはすでに数十人もの妃がいるのだから政治的な判断より皇帝の意見好みが反映されやすいのだ。


 女の執念、執着、嫉妬心……怖いなぁ……。俺も気をつけよう。


 ん……待てよ……。俺を暗殺しようとしている奴も、そういった理由なのかもしれないぞ。

 何も法務大臣だけが俺の命を狙ったとは限らない。もしかしたら、他にもいて今も俺の命を狙っている可能性はないとは言えない。


「サキノ」

「はい」

「母上が後宮に上がる時、他の候補者がいたか確認してくれ」

「……殿下は法務大臣以外にも、殿下のお命を狙う者がいるとお考えなのでしょうか?」


 さすがはサキノだ。俺の考えをすぐに理解してくれた。


「可能性がないとは言えない。だったら調査してみて、なければそれでいいし、あれば法務大臣以外にも気をつける相手がいると、考えればいい」

「承知しました。そのように手配しましょう」


 サキノも可能性は潰しておくべきだと分かったようだ。

 さて、悪魔が出るかドラゴンが出るか。


 

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