034_臨時御前会議(一)
帝国は皇帝を頂点とする中央集権国家だ。
広大な国土を誇り、植民地や属国を多く従えている。
多くの植民地を従えている以上、植民地で反乱が起こるのはよくある話だ。
俺の前世でも結構な抵抗を受けて力でねじ伏せていたが、その時の歪みが今でも続いていたら帝国への反感は、俺には想像できないほどの力になるかもしれない。
だから、たまにはガス抜きをしてやるといいが、そんなことをする皇帝はまずいないだろう。
「ハマネスクで反乱が発生したと報告がありました」
植民地を管理する国土監視大臣が報告したように、ハマネスクという土地で反乱が起きた。
このハマネスクは帝国暦一七三年に植民地化された土地だ。
貴重な香辛料を産出する土地なので、反乱が起きると香辛料の流通が滞ってしまう。
「現在、総督軍が対処していますが、戦況は悪化の一途です。直ちに鎮圧軍を送る必要がございます」
御前会議が開かれたため、皇太子と四人の親王もこの場にいる。
御前会議は月に一回の頻度で開催されているが、今回は反乱ということもあって臨時御前会議だ。
そもそも御前会議には皇太子や親王も出席する義務があるので、臨時でも御前会議であれば出席しなければならない。
その他には各大臣と政務官も出席している。ただし、政務官に発言権はない。
今回の議題はハマネスクの反乱なので、反乱を鎮圧する軍を送らなければいけない。
そして、ハマネスクに鎮圧軍を送るにしても、誰を指揮官にするかが問題になるのだ。
「現在動かせる艦隊は第一艦隊と第三艦隊、第六艦隊です」
ハマネスクという土地は、大きな島なので海戦になるだろう。
兵を上陸させるにしても船が必要になる。つまり海軍が主力になる戦いだ。
「それでしたらピサロ提督の第一艦隊がいいでしょう」
軍務大臣が推薦したピサロ提督は、四十代の帝国海軍中将だったと記憶している。海戦の強さに定評がある人物だ。
「前回の時もピサロ提督に、鎮圧を任せたのではなかったですかな?」
外務大臣が聞くと、軍務大臣が頷き肯定した。
たしか二年前だったと思うが、ピサロ提督が反乱軍を鎮圧したと記憶している。
その時はハマネスクではなかったが、ピサロ提督ならいい人選だと思う。
「あまり功績を集中させるのはどうかと思いますが? 他の者に功績を立てる機会を与えてはいかがか?」
ピサロ提督は平民出身なので、貴族の中ではよく思われていないのだろう。
帝国はあちらこちらで紛争があるので実力主義が基本だ。だから平民出身の軍人が重職に就きやすい。
ピサロ提督は現在中将だから、ここで功績をあげたら大将に昇進する可能性がある。
大将になれば貴族に列せられることになるので、貴族たちは功績を立てさせたくないのだろう。
貴族たちの中には選民意識が根強くあるので、平民が出世するのが許せないのだ。愚かな考えだと思う。
そういった優秀な軍人のおかげで、今の帝国の繁栄があるということが分かっていないのだ。こんな貴族が多いと、帝国はどんどん弱体化していく。
その点でいえば、軍務大臣は家柄ではなく能力で部下を評価しているので、軍部は比較的健全な状態にあるように見える。
もし、軍部で家柄を優先した人事が行われると、それは帝国の弱体化に直結する可能性をはらんでいる。他の大臣職に比べると軍務大臣には柔軟な思考回路が求められるのだ。
「おかしなことを言われる。反乱を鎮圧するのに最も適した者を差し置いて、他の者を送れと言われるのか?」
軍務大臣はギロリと外務大臣を睨みつけた。
さすがは
前世の記憶がなかったら、ちびっていたはずだ。
「そのようなことを言っているわけではありません。そのようにうがった見方をされますな」
外務大臣はこのようなことに慣れているのか、飄々としている。
軍務大臣を支持する意見と、外務大臣を支持する意見で大臣たちが分かれた。
意外なことに俺の命を狙っている法務大臣は、軍務大臣の意見に賛同している。
「皆の者、陛下のお言葉である!」
右丞相がそう発すると騒然としていた大会議室内が水を打ったように静かになり、大臣やその後ろに控えている各省の政務官たちの視線が皇帝に集中した。
「親王に指揮を執らせる。誰がよいか議論するように」
左丞相が皇帝の声を代弁した。
しかし、親王に指揮をとらせるとは、思い切った考えだ。
皇帝の叔父は五十代なのでそろそろ王に封じて別の親王を立てるだろうし、弟にしても五十代になる。
この二人に功績を立てさせるとは思えないので、必然的に皇帝の息子の誰かという話になるだろう。
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