020_小姓がやってきた
「お疲れ様」
「ああ、疲れたよ」
お披露目パーティーも終わり、俺は自分の屋敷の自室で椅子に深く腰掛けた。
この屋敷は帝城の北側にある庭園の一角にあるので、夜だけではなく昼でも静かな場所だ。
数十年前の親王が住んでいた屋敷だが、その親王は現皇帝の父、俺にとっては祖父になる方で先代の皇帝だ。
先代の在位期間は短かったのですぐに今の皇帝が帝位を継ぐことになったため、ほぼ現皇帝の在位の期間だけこの屋敷は空き家だった。
「今日は風呂に入って、ゆっくりと寝ることにするよ」
「風呂、用意する」
「うん、頼んだよ。メイゾン」
この侍女服を着たかわいらしい少女は、この屋敷の精霊のメイゾンだ。
この屋敷に俺が引っ越したのは今日だけど、俺がこの屋敷に毎日くるようになってから次第に力を取り戻して人間の姿で顕現できるようになった。
屋敷の中のことは全てメイゾンが掌握しているので、刺客が侵入してもメイゾンが無力化してくれるだろう。
思わぬことで刺客対策ができたが、これはあくまでもこの屋敷内の話なので、屋敷の外ではそうはいかない。
これからは帝城の外に出ることも多いだろうから、その場合の対策を急がないといけないな。
俺の部屋の中にはエッダとリアもいるが、二人はすでにメイゾンのことを知っているので、メイゾンのことはスルーしている。
「ゼノキア、風呂、用意、できた」
「ありがとう」
エッダとリアも一緒に部屋を出て風呂についてくる。
風呂には風呂用の侍女がいて、俺の背中とかを流したりする。だから。二人は風呂の脱衣所の前で俺を待っているだけだが、俺としてはいちいち侍女がついてくるのはどうかと思っている。
外にいくならともかく、屋敷の中ならそこまでついてこなくてもいいだろうに……。
「ふー、気持ちいい風呂だった」
風呂から上がった俺は、メイゾンが用意してくれた果実水を飲む。
風呂上りにキンキンに冷えている一杯は体に染み渡る。
メイゾンが用意してくれた果実水は甘みと酸味がほどよいアップルの果汁を水で割っているものだ。
用意してくれたのがメイゾンなので、毒を気にすることもなく一気に飲み干せる。
「美味い!」
「よかった」
にこりと笑顔を作ったメイゾンに空になったコップを渡すと、メイゾンは消えていく。
どういう原理か分からないが、コップも一緒に消えてしまう。
俺はベッドの上に上がって胡坐をかく。
魔力の鎧を完全に俺のものにするために、寝る前に訓練だ。
魔力を外皮に固着させては解除して、また固着させる。
それを繰り返すしか練度を上げる方法がないので、愚直と言ってもいいほど繰り返す。
そうやっていつの間にか眠気が襲ってくるので、ごろりとベッドに寝転がる。
俺が寝たらエッダたちが俺に毛布を掛けてくれるので、俺は寝落ちするまで訓練を続けることができるのだ。
▽▽▽
お披露目パーティーが行われた数日後の天気のよいある日のこと。
「殿下、カルミナ子爵夫人とサキノ様がお越しです」
扉の向こうから二人の訪問を伝える声がした。
「入れ」
ここは俺の執務室で、午前中に訓練を終えると昼食を摂ってから執務をするのが最近の日課になっている。
俺の許可で二人が執務室に入ってきたが、その後ろに三人の子供が続いて入ってきた。
「殿下の小姓をご紹介します」
カルミナ子爵夫人は俺に綺麗なお辞儀をして、三人の子供を前に出した。
小姓というのは皇族や貴族に仕える子供のことで、その子供も貴族が多い。
通常は守役がつく八歳くらいからつけられるが、俺は四歳で親王になったのでカルミナ子爵夫人とサキノが人選を進めていたのだ。
「うむ」
「そちらの子から、テソ・アルファス。アルファス侯爵家の三男で九歳になります」
スラっとした容姿の子が紹介されると、一歩前に出て俺に頭を下げて元の場所に戻った。
アルファス侯爵は外交畑の貴族だったと記憶している。
二年前まで外務大臣だった前当主が高齢を理由に外務大臣を辞した時に、家督を息子に譲っていて今の当主は外務参事官だったと記憶している。
「次の子がカジャラーグ・ザンガライド。ザンガライド伯爵家の四男で八歳になります」
八歳にしては大柄なカジャラーグがテソと同じように一歩前に出て頭を下げてから戻った。
ザンガライド伯爵は軍閥で、現在の当主は中将だったと記憶している。
このカジャラーグという子は父親の血を濃く受け継いだのか、本当に立派な体格をしている。
まだ八歳だというが、見た目は十二歳くらいに見えるぞ。
「最後はセルミナス・ポステンです。ポステン家の長男で六歳になります」
「ポステン……?」
ポステン家というのは聞いたことのない家名だな……。
「セルミナスは第三六代皇帝陛下の玄孫にあたります」
現皇帝が三八代目なので、第三六代皇帝は先々代の皇帝になる。
三七代目は俺の祖父になるが、その三七代目の兄になるのが三六代目だ。つまり三六代目の皇帝は俺にとって大伯父になる。
そんな大伯父の玄孫のセルミナスが俺の小姓になったのは、ポステン家が皇族ではないからだ。
皇帝の子は皇子や皇女で皇族だが、その子(皇帝の孫)は皇族ではないのだ。
皇帝は子供を多く作って血統を絶やさないことが使命の一つだが、孫に関しては関知しない。
皇女は貴族に降嫁するのである意味よいのだが、皇子の場合は皇子のうちに子供に残せる何らかの資産や爵位がないと、皇子が亡くなったのちにその家族が没落するのはよくある話だ。
そんなことから玄孫だと皇族の系譜にも載っていないかもしれないな。いや、確実に載っていないだろう。
「これからこの三人が殿下の小姓として、おそばにお仕えします」
「テソ・アルファス。カジャラーグ・ザンガライド。セルミナス・ポステン。励めよ」
「「「はい!」」」
俺が名前を呼んで激励すると、三人は元気に返事をした。
ほほえましい光景だが、今の俺が四歳と一番若いのだが……。
「殿下、カジャラーグとセルミナスはなかなか剣筋がいいです。私がしっかりと鍛えます」
「サキノに見込まれるとは、素晴らしい才能の持ち主のようだな」
俺に褒められて二人は嬉しそうにしている。
「殿下、テソも頭の回転が速く将来有望です」
「カルミナ子爵夫人が人を褒めるとは珍しいこともあるものだ。将来が楽しみだ」
四歳の言葉ではないな。自分でもそう思っているのだから、何も言わないでくれ。
この日から三人は俺の小姓として仕えることになった。
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