019_親王宣下(三)
本来、お披露目パーティーは皇子が五才になったことを祝うと共に、皇子がどのような子なのかを諸侯が見定めるためのものだ。
しかし、俺の場合は新しい親王を諸侯に知らしめるためのパーティーなので、自然と来賓の数も多くなる。
皇子と親王では立場に天と地ほどの違いがあるからだ。
皇子はこのフォンケルメ帝国の皇帝の息子で皇帝の権力と母親の実家の権力をバックにした力しかないが、親王は親王自身に権力があるのだ。
その権力がどんなものかというと、まずは親王府を設置できる。親王府の特徴の一つに軍を持つことが許されているのだ。
軍の規模は決められていて兵員はそこまで多くないが、それでも皇子では軍を持つことは許されていないので大きな違いだ。
違いは他にもあるが、それはおいおいと説明をしていけばいいだろう。
「ゼノキア殿下、おめでとうございます」
左丞相がお祝いの言葉をくれた。
親王宣下後なので、今までのように『様』ではなく『殿下』と呼ばれる。
「左丞相殿、ありがとう。これから、余が正しき道を進めるように見守ってくれ」
「殿下が正しき道を進めますよう、このアッダス・フォームルも祈っております」
ここで俺を導くとか言ったらいけないんだよ。
親王を導くのは皇帝だけなので、いくら行政の最高位である左丞相でもそのような発言をしてはいけないのだ。
しかし、さすがは左丞相、ひっかからなかったな。
左丞相に続き右丞相の挨拶があって、それから各大臣の挨拶を受けた。
その中には法務大臣であるドルフォン侯爵の姿もあったが、ドルフォン侯爵は平然を装っていたがその額には汗がにじんでいた。
さて、これから法務大臣はどのように動くだろうか。できれば、馬脚を現してほしいものだ。
大臣の次は各皇子の挨拶だが、第一、第五、第九皇子はすでに他界しているし、俺のすぐ上の兄になる第十皇子はまだ五歳になっていないので、このお披露目パーティーにはきていない。
第十一皇子の俺と第十皇子はたった一カ月しか誕生日が離れていないので、お互いにまだ四歳なのだ。
問題は俺が親王になって、親王から押し出されるように王に封じられた第二皇子だ。
俺一人ならまだよかったが、俺の隣には皇帝がいるのにあからさまな嫌味を言ってきた。
「余が王に封じられたことで親王の席に空きができて、お前は親王になれたのだ。余に感謝するのだぞ」
「兄上、そのようなことを仰っているから、王に封じられるのですよ」
第二皇子が俺に嫌味を言っていると、それを窘めたのは第六皇子だった。
この第六皇子は俺より二十歳年上の皇子だが、会うのはこれが初めてだと思う。
第六皇子はこういったイベントがなければ国内を旅して回っているので、滅多に帝都サーリアンにはいないのだ。
エストリア教というのがこの帝国の国教だが、第六皇子の同母妹である第七皇女がエストリア教の聖女に祭り上げられていて、第六皇子自身もエストリア教の名誉大司教を拝命している。
エストリア教と皇室は切っても切れない存在だし、二人の母が先代の教皇の娘というのもあるから第六皇子は布教活動をしながら帝国中を旅して回っているのだ。
「やぁ、ゼノキア殿下。初めまして、僕はラインハルトです。一応、殿下の兄になります」
言葉遣いは軽いが第六皇子は名誉がつくとはいえエストリア教の大司教なので、その発言力はバカにできない。
「ラインハルト兄上、初めまして」
「うーん、ゼノキア殿下は可愛いねぇ~。食べてしまいたいよ」
第六皇子は俺の頬をぷにぷにしてきた。ちょっとウザイ。
「兄上、こんなに可愛いゼノキア殿下はまだ四歳なのですから、年長者が嫌味など言っては度量が狭いと言われますよ。まぁ、そんなことだから王に封じられたのでしょうが」
「なんだと!?」
「そんなにすぐカッカしないでくださいよ。本当に兄上は」
「ケルファス、ラインハルト、止めぬか」
「へ、陛下……」
「陛下、失礼しました」
皇帝に窘められて二人は下がっていった。でも、第六皇子は立ち去る時に俺にウインクしていったので、皇帝に窘められても堪えていないのは明らかだ。
逆に第二皇子はしょんぼりしているのがすぐに分かった。
窘められただけなのに親に叱られた子供みたいだ。いや、皇帝の子供だけどさ……。
あれで来年四十歳なのだから頼りないにもほどがあるし、自分の立場が分かっていないのだから質が悪い。マルム様が可哀そうだ。
その後は皇女、諸侯、有力商人などの挨拶があって、全部の挨拶を受けるのにものすごい時間がかかった。
俺はこれから、こういった人たちとの関わりが増えていくことになるが、気を引き締めていかないと食い物にされて親王の座から陥落どころか、この首が飛ぶことになるかもしれない。
気を引き締めていこうと思う。
ちなみに、皇后を始めとした妃はこのお披露目パーティーにはきていない。
俺だけではなく皇子は生まれてからの五年は後宮に住んでいるので、妃たちとはそれなりに顔を会わせているので、お披露目する必要がないというのが理由だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます