009_武装集団来襲

 


「ゼノキア様、魔力のほうは大丈夫ですか?」

「まったく問題ない」


 正直言ってまだ数発帝級魔法を行使できそうなので、俺自身かなりドン引き状態だ。


「さすがはゼノキア様です。帝級魔法を行使しても魔力に余裕があるのですね」


 そんなに褒めるなよ、照れるじゃないか。

 でも、帝級魔法を行使したのに、全然魔力が枯渇する感覚がない。

 これは、どういうことなのだろうか? 最近は少し魔法に自信を持てるようになってきたが、この魔力量は前世の記憶を持っていることと、何か関係しているのだろうか?


「魔力に余裕がありましたら、今度は他の属性の帝級魔法を確認しましょうか」

「うむ、そうだな。……ん?」


 サキノと話していたら、周囲に陣取っている騎士たちが騒がしくなった。

 どうしたのかと思って見ていたら、騎士の一人がこちらに走ってくるのが見えた。


「申し上げます!」

「許す」


 俺の前で跪いて頭を下げた騎士に発言を許すと、騎士は頭を上げた。


「こちらに向かってくる武装集団を確認しました。皇子様には馬車にご乗車願います」


 武装集団か……。

 誰か知らないが、それほどに俺を殺したいのか?

 でも、俺だってただで殺されるつもりはない。

 早速逃げることにしよう。


「ゼノキア様、馬車にお乗りください!」


 サキノが慌てて俺を馬車に乗せ、発車させた。


「急げ!」


 近衛騎士とサキノが馬車に並走して帝都サーリアン方面に向かう。

 騎士たちはあの場に留まって武装集団に対応をするようだ。

 武装集団をチラッと見たが、数としては騎士たちと同じだったので日頃厳しい訓練をしている騎士なら大丈夫だとは思うが、それでも死人が出る可能性は否定できない。


「ここまでくれば安心ですが、このまま帝都サーリアンまで全力で走らせます」


 しばらく馬車を走らせたが、後方からの追撃はないようだ。


「うむ」


 サキノは油断せずにこのまま帝都サーリアンに戻ることを優先させるようだ。


「まだしばらく揺れますが我慢をお願いいたします」

「構わぬ」


 御者が必死に馬に鞭を入れて走らせている。

 帝都サーリアンの町中は石が敷き詰められていて舗装された道だったが、ここは道というのも憚られるような道なので馬車は大きく揺れる。

 しばらくそんな揺れを我慢していると、急に馬車が止まった。

 どうしたのかと外を見てみると、前方に見慣れぬ集団がいた。


「先ほどの部隊は陽動だったようです」


 サキノが苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「こちらが本命のようだな。くくく。サキノやられたな」

「申し訳ございません」


 サキノが頭を下げる。


「我らが血路を開きます。サキノ殿は皇子様をお守りして帝都へ」


 近衛騎士隊の隊長であるソーサーが、剣を抜いて眼前の集団を睨みつけている。


「うむ、死ぬなよ」

「死ぬつもりはござらん!」


 ソーサーはそう言うが、あの顔は死を覚悟している人の顔だ。

 ソーサーの部下である近衛騎士たちもそれぞれが覚悟の表情をしている。

 無理もない、こっちの近衛騎士は十五人だが、向こうは百人にも及ぶ大人数だ。

 このまま戦えば、俺のために彼らは死ぬだろう。しかし、俺には……。


「待て」


 俺は突撃しようとしていたソーサーたち近衛騎士を止めた。

 そして、エッダに目で合図して馬車の扉を開けさせた。


「ゼノキア様、何を!?」

「あれは俺がる。お前たちは俺が詠唱している間、敵が俺に近づかないように食い止めよ」

「「し、しかし!?」」


 サキノとソーサーが俺を止めようとしたが、俺はリアから火の帝級魔導書を受け取って開けた。

 初めて使う火の帝級魔導書だが、不思議と行使できると感じたので自信を持って詠唱を始めた。


「偉大なる炎の大神よ」

「えーい、お前たち、ゼノキア様に敵を近づけるな!」

「「はっ!」」


 近衛騎士たちが防御陣形をとった。

 サキノは俺のすぐ横に、エッダとリアは俺の後ろに控える。


「我は魔を追い求める者なり、我は炎を求める者なり、我は炎を操る者なり、我が魔を捧げ奉る。我が求めるは偉大なる炎の大神の猛火なり。我が前に顕現せよ、フレアバースト」


 詠唱が完了すると、俺たちに襲いくる集団が炎に包まれた。

 その炎はあまりにも眩しく、あまりにも熱く、そして爆風が俺を吹き飛ばそうとした。


「っ!?」

「ゼノキア様!」


 サキノが俺の前に立って、爆風から俺を守ってくれる。

 馬たちもこの爆風に驚いて暴れる。訓練された馬だが、これほどの猛火を前にしては驚いて暴れ出しても仕方がない。


「「「………」」」


 爆風が止むとそこには何もなかった。

 そう、俺たちを襲おうとしていた百人以上の集団は、骨も残らず消滅してしまったのだ。


「これは……恐ろしい威力ですな……」


 サキノの呟きが聞こえてきた。俺もそう思う。

 地面は焼けただれて赤黒く蠢いていて、すぐには通れないのが分かる。


「ソーサー、馬に被害は」

「あ、ありません!」


 サキノが立ちなおって、ソーサーに現状確認をした。


「すぐに帝都へ向かうぞ」

「承知しました」


 ソーサーが部下の近衛騎士たちにテキパキと指示を出している間に、俺はサキノに促されて馬車に乗り込んだ。


 

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