008_帝都サーリアンと帝級魔法
王級魔法は訓練所で全て確認ができた。
まさかここまで属性魔法の才能があるとは、自分でもびっくりしている。
帝級魔法については訓練所で行使すると、訓練所以外にも被害が出ると予想されるので、城の外に出て魔法の練習ができるように皇帝に申請しているところだ。
皇子は五歳になると屋敷を与えられて後宮を出る。
そうすれば自由に外出できるようになるが、それまでは皇帝の庇護下にあるので、外出には皇帝の許可が必要になるのだ。
「ゼノキア様、陛下より外出の許可が下りました」
「そうか、いつ外出できるのだ?」
「明日の午前中に帝城を出まして、アルゴン草原へ向かいます」
アルゴン草原は帝都サーリアンの北にある広大な草原だったはずだ。
水源がないため開墾されていないが、春から夏にかけて草が青々と生い茂る土地だったと記憶している。
水源がないのに草が青々と生い茂るのか不思議だが、それが当たり前だと思われていて調べられたことはない。
誰も住んでいない広大な土地なので、威力の高い帝級魔法の練習にはちょうどいい場所というわけだ。
翌日、皇族専用の馬車に乗って帝城を出た。
皇帝が執務を行う本城、皇帝や俺たちが暮らす後宮、行政機関が集まった執政館、近衛騎士の控え所や訓練所、複数の迎賓館、複数の庭園、他にも色々な施設が集まった全てを帝城と言う。
帝城の敷地は広大で、外に出るためにいくつもの門を通らなければならない。
だから外に出るのも時間がかかる。
各門は近衛騎士団が守っていて、門を通る時に毎回チェックが行われるのだ。
これは皇子でも貴族でも関係なく、厳重に身分のチェックや同行する人物のチェックが行われる。
皇帝が住む帝城だから厳しくチェックされるのは仕方がないとはいえ、面倒なことだ。
帝城を出ると幅の広い堀川がある。
この堀川は帝城の周囲をぐるりと囲んでいて帝城が攻められた場合、堀川で敵を防ぐだけではなく城へ物資を運び込むのにも使われている。
水運は物資を大量に運ぶには丁度いい運搬手段なので、多くの人が働く帝城への物資運搬は水運がメインになっている。
そんな堀川にかかっている橋を渡って町に入った。
皇帝のお膝元なので区画整備がしっかりとされていて、帝城を中心に東西南北に延びる四本の大通りと、その中間に四本の運河が造られている。
その四本の大通りと四本の運河に沿うように、石造りの白い壁でオレンジ色の屋根の建物が並んでいるのが帝都サーリアンである。
これらの建物は景観を考えて造られているので、他の色を使うことは許されていない徹底ぶりだ。
大通りは馬車や通行人が多く、運河も大小さまざまな船が通行していて活気があるのが一目で分かる。
帝国の首都ということは帝国一の都市であり、それはつまりこの大陸一の都市といっても過言ではない大都市には多くの人が住んでいる。
それらの人たちが活き活きとしているのが、馬車の窓越しに見てとれる。
人々の顔に浮かぶ笑顔を見ると、現皇帝の治世が安定しているのだと実感できる。
俺の馬車の周りには近衛騎士が十五人とサキノ、それに馬車の中には侍女のエッダとリアがいる。
近衛騎士とサキノは馬に乗っていて、馬車に不審人物が近づいてこないか目を光らせている。
後宮には女性の近衛騎士しかいないが、後宮以外では男性の近衛騎士が俺の護衛をすることになる。
帝都サーリアンの中にもいくつかの門があって通行人のチェックが行われているが、帝城内の通行チェックに比べればとても緩い。
あまり厳しくすると人の往来の邪魔になって経済の停滞を引き起こしたり、住人の不平不満が溜まってしまうからだ。
特に俺が乗る馬車は皇族専用車と事前に話が通っているので、止まることなく門を通りすぎた。
帝都サーリアンの北側の、人の往来もない場所に到着した。ここがアルゴン草原だ。
この頃になると十五人の近衛騎士の他に五十人ほどの騎士が俺の周囲を守っている。
護衛が近衛騎士だけではなく騎士が加わったのは、近衛騎士の数がそれほど多くないという理由がある。
近衛騎士は帝城内の警備を担当しているので、たかだか皇子一人のための護衛に多くの近衛騎士を割くことはできないのだ。
これが皇帝や皇太子、親王など重要人物の場合はまた違ってくるのだが、今はどうでもいいだろう。
皇子が外出するために護衛が必要な時は、帝都サーリアンを守っている騎士団から人員を出すことになっている。
俺の周囲には近衛騎士以外はなく、騎士たちは俺を遠巻きに護衛している。もし不審者が俺に近づこうとすると、まず騎士たちがその人物を止めるわけだ。
「ゼノキア様、ここならば問題ありませんので、力の限り帝級魔法を行使してください」
近衛騎士と騎士たちの周辺確認が終わってサキノに報告すると、サキノが俺に報告をしてきた。
「そうか、ならば風の帝級魔導書をこれに」
俺の言葉でエッダが魔導書を選んで持ってきてくれた。
魔導書を受け取ってぺらぺらとページをめくると、目的のページを開いた。
サキノ、エッダ、リア、近衛騎士たちを見てから再びサキノを見て頷いた俺は、詠唱を始める。
「偉大なる風の大神よ、我は魔を追い求める者なり、我は風を求める者なり、我は風を操る者なり、我が魔を捧げ奉る。我が求めるは偉大なる風の大神の嵐なり。我が前に顕現せよ、グレートタイフーン」
詠唱を始めると、魔導書の文字が金色に光り出して、空中に浮かび上がっていく。
下級から上級まではこのようなことはないが、特級以上の魔導書になると魔導インクという特殊なインクで書かれているため、魔力の高まりに反応してこういう現象が起きるのだ。
勘違いしてほしくないのは、魔法の詠唱に魔導書は必要ないのだ。
今、詠唱を間違いなく行うために魔導書を開いて、書かれている文字を読んでいる。こういった現象は付随効果でしかない。
今まで無風に近かった草原に、突如強風が吹き、その風が急速に発達していく。
俺の目の前には巨大な風の渦と、切り裂かれて巻き上げられた草が広範囲で舞っている。それは威力をさらに増していき、もはや嵐のようだ。
今回も侍女たちのスカートがめくれるかと少し期待していたが、エッダとリアは風対策をしっかりとしてきたようだ。ちっ。
世界を破壊するのではないかと思われるほどの風の猛威が草原を蹂躙していく。
「くっ!?」
風が吹き荒れて俺がいるところまでその余波がくる。威力が強すぎたようだ。
今度はもっと遠くに中心を持っていこう。
「ゼノキア様、大丈夫ですか?」
風に呷られた俺をサキノが支えてくれた。
なにせ今の俺は四歳の子供だから、体重が軽くちょっとした風でも吹き飛ばされそうになるのだ。
「問題ない」
サキノにはそう言ったが、実際のところは飛んでいきそうで怖い。
風の猛威が吹き止むと、草原は酷い有様だった。地面に生い茂っていた草はまったくなくなって地面が見え、その地面も抉られて一段低くなっている。
これが帝級魔法の威力なんだな。こんな魔法を町中で行使したら大惨事になること間違いなしだ。
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