そのギルド、やりがい搾取のブラックギルドじゃない?

ちびまるフォイ

冒険者をいったいなんだと思ってる!

地元の村を出て、ついに憧れの一流冒険者ギルドに登録できた。

これで冒険者としてもハクがつくぞ。


「それではクエストをお願いします」

「はい!!!」


意気揚々と武器を携えてクエストで指示されたダンジョンへと進んだ。

ダンジョンから戻ったのは夜遅くだった。


「お……終わりました……」


「ボロボロですね。はい、報酬です」


「え、こんなちょっぴり!?」


「時間がかかるほどクエスト報酬は減っていくんですよ」


「そんな……」


「クエストを受けた後にめちゃくちゃ時間をかけてクリアされるのと

 受けた後にすぐクリアした人と同じ報酬を出すのはおかしいでしょう?」


「それはそうかもしれないですけど……」


「ギルドが悪いんじゃないですよ。あなたの実力不足に見合ったお金です」


「ぐぬぬ……」


悔しかったが言い返すことはできなかった。

モタついてしまったのも自分のせいだと納得できた。


せめていい武器を揃えてもっと効率的にクリアできないかと武器屋を訪れた。


「いらっしゃい、いらっしゃい! 鋼の剣は30000ゴールドだよ!」


「さ、3万!?」


こないだダンジョンの天井にこすったときに折れた鋼の剣が3万。

これ以上にいい武器はそもそも買えない。


ギルドの仲間を雇えば報酬は山分けされるのでより貧しくなる。


報酬の多いクエストを選ぶにも武器も防具も仲間も用意すれば、準備段階で大赤字。


「はぁ……どうすればいいんだ……」


冒険者は今日も地面に生えた薬草を茹でて作ったスープを飲み、馬糞臭い小屋の藁で眠った。


夢に見た一流ギルドの冒険者はもっとキラキラしていた。

仲間たちと笑いながら冒険して、いい装備をたくさん身につけていた。

間違ってもつぎはぎだらけの鎖かたびらなんか身につけてない。


翌日、冒険者はギルドでクエストを受けたときに思い切って時間談判した。


「あの、このクエスト報酬を高くしてもらえませんか?」


「はい? それはどうして?」


「このダンジョンはここから遠いですし道中に魔物も多い。

 やっとたどり着けてダンジョンに入って魔物を倒してまた帰る。

 なのにこんなちょっぴりの報酬じゃ割に合いませんよ!」


「割りに合わない、ね。少しギルドの話をしましょうか」


ギルドの受付はふうと息をついてから話し始めた。


「このギルドには多くの冒険者が登録して、村の人からも多くの依頼があります。

 もし報酬をあげれば村の人達は依頼しづらくなるでしょう。

 そうなればどんどん村には魔物があふれ、貧しい人からその餌食になってしまう」


「しかし……」


「あなたは人を助けるために冒険者になったのでしょう?

 いい暮らしをするために冒険をしているんですか? 何のために冒険者してるんですか?」


「俺は……」


脳裏に浮かんだのは最初に冒険者を目指した5歳の頃の記憶。

木の棒を振り回して「世界を平和にする」と息巻いていた幼い自分。


「間違えていました。俺……頑張ってきます!」


「このクエストには報酬以上に得られるものがありますよ」


ギルドを出て、馬車に乗るゴールドもなく徒歩でダンジョンへと向かう。

たどり着いたときにはすでに足は棒のようになっている。

宿屋で1泊してからダンジョンへ挑戦するようなゴールドもない。


「俺がこの村を平和にするんだ……!」


疲れた体にムチ打って、いざダンジョンへと向かう。

満身創痍で挑んだものの根性論で片付けるほど魔物は甘くなかった。


クエストターゲットである最深部のドラゴンはあまりに強大で、

1度命は落としたものの持っていた「復活の宝石」でなんとかダンジョンの外へ這い出せた。


「なんて強さだ……あんなの勝てるわけない……」


けれど魔物を倒さないことには報酬は出ない。

どれだけダメージを与えても倒さなければ報酬はゼロ。

今のコンディションで再挑戦しても結果はあきらか。


「どうしよう……これじゃ生活できないぞ……」


このクエストのために大枚はたいて準備したのに、

何も成果がなかったら町に戻っても生活できっこない。


冒険者はクエストをクリアできるかどうかのバクチ稼業だと痛感した。


町に戻っても生活できないことを悟ったことで、

心の中にある悪魔の自分がささやいた。



(このままクエストをクリアしたと報告すればいい)


(クリアした報告すれば、このダンジョンのクエストは貼り出されない)


(ギルドのやつだって本当にクリアしたかどうかなんて確かめないさ)



「こんなに頑張ったんだ……命を落とすほど頑張った。

 なのに報酬がゼロっていうほうがおかしいよ……そうに決まってる」


自分で自分に言い聞かせてギルドに戻り、魔物を倒したと報告した。


「よくクリアできましたね、あの魔物はあなたには強かったでしょう」


「え、ええ……まあ」


「はいクエストクリア報酬です」


途中でバレるんじゃないかとひやひやしたが報酬はあっけなく渡された。

欲しいものはいくらでもあったはずなのに、報酬が手に入ったとたん急に罪悪感で手が止まる。


自分が倒したと嘘を言ったことで、知らずにダンジョンへ近づいた人がいたら。


やっぱり耐えられなくなってギルドへ向かった。

クエスト報酬は少しも使っていなかった。


「あの! さっきのクエストのことなんですが!」


「それどころじゃないですよ! あれを見てください!」


「あれは……ドラゴン!?」


ダンジョンに眠っていたはずのドラゴンが空を飛んでまっすぐこちらへ向かってくる。

体の傷の場所を見て自分が倒しそこなった魔物だと確信した。


きっと下手に攻撃されたことに腹をたてて復讐しにきたに違いない。

自分がクエストクリアなんて嘘を言わなければ、別の討伐隊が向かっていたかもしれないのに。


ドラゴンはギルドへ向かい、灼熱の炎と鋭い爪でギルドの屋根をふっとばした。

吹き抜けになった天井からドラゴンは首を差し込んで中を覗き込む。

ドラゴンは怒りの色をにじませた声で語った。







「このギルドで受けた、ダンジョンに来た冒険者を討伐するクエスト報酬がまだ届いてないんですけど」

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