05
彼は、栄養機能性食品を食べている。
自分は、食事が喉を通る状態ではなかった。料理はいつも自分で作っていたけど、しばらくは包丁をさわってもいない。
心の不調と引き換えに。
普通のひとが感じられない微弱な電波や波長を、感じることができた。
ずっとそれを続けていたので、体調が崩れ、彼に病院に担ぎ込まれた。今は、駅前で入院しながら電波や波長を感じ続けている。
数年前、家族全員が死んだとき。この能力を、手に入れた。事故が起こる前の車の感じとか、壊れるまえの携帯端末の波長とか、そういうのまで分かる。
妻がそこそこ貯め込んでいたようで、おかねに困ることはなかった。特に好きでもきらいでもない女だったけど、部屋を整理していたら出てきた遺言には、しあわせでしたとだけ書かれていた。
本当に、しあわせだったのだろうか。いつも、そう思う。
幼馴染みだからという理由で、学校在籍中に結婚して。そして、いちども妻に触れないまま、死んでいった。
今は、ひとり。
たぶん、これからも、ひとりなのだろう。
ちょっとした、破滅願望がある。このまま、この街で電波と波長を感じ続けて、そして。心がこわれて、しぬ。自分にぴったりだった。
「おまえ。なんとなく考えてることが、わかるぞ?」
「おっと」
彼は。しのうとしている自分を、いつも助ける。
彼との最初の出会いは、思い出せなかった。ただ仲が良いというふたりでは、ない。信頼と、お互いへの信義で成り立っている関係だった。この信頼は、家族よりも、濃い。
彼は、未来が見える。
それも、ひとの死ぬ未来が。
それを見るたびに、彼は、必死になってその未来を変える。ぼろぼろの身体で。ずたずたの心で。それでも、ひとが死ぬ未来を変えていく。自分も、たぶんそうやって助けられたのだろう。
家族がいなくなって、生きる意味を失って。街をさまよいながら、機械の不具合と電波波長をなんとなく直し続けて。
それで、心が限界になって倒れたときに。彼と出会ったのだろう。心がこわれはじめていて、あんまり記憶も定かじゃなくなっている。
「しぬなよ、相棒。おまえがいなくなると、かなしい」
「善処するよ。君のためにね」
ふたりで。夜の公園で。
夜空を見上げている。
このまま、平穏な日々が続くことは。
ない。
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