第45話「母の言葉」
……ん?
気がつくと、そこはまたあの場所。
軍神宿のある町の港だった。
「隼人君、ご苦労様だったな」
声をかけてきたのは背が俺くらいで、杖を突いた紋付袴姿の白髪のお爺さん、というか……。
「与吾郎おじいさん?」
「そうだよ。ほんとありがとな」
与吾郎おじいさんが軽く頭を下げて言った。
「あ、いえ俺なんかたいしてですよ」
「いやいや。しかしまさか隼人君が明子のひ孫だったなんてなあ。縁は人を導くものなのかな」
「どうなんですかね……あ、何か御用があってですか?」
「ああ。あんときも言ったつもりだが、改めて礼をと思ってな」
「いえいえ。もう充分ですってば」
「そうか。じゃあジジイのおせっかいと思って聞いてくれ。あの日記を読んでみな」
「日記? ……あっ?」
「そうだよ。まあ、後はそれで分かるだろな」
「え?」
「んじゃな、俺は仲間達を訪ねて回るわ」
与吾郎おじいさんがそう言った時、意識が……。
――――――
「はっ?」
気がつくと居間だった。
外を見るともう日が昇っていた。
そうか、あの後泣き疲れて寝てしまってたんだ、って寒っ。
俺は冷えた体を温めるため風呂場に向かった。
風呂でシャワーを浴びた後、夢で与吾郎おじいさんが言っていた事を思い出した。
日記……母さんのだな。
部屋に戻って机の引き出しを開けた。
そこに母さんの日記を入れてあった。
まだ読んでなかったが、どんな事が書かれてるんだろな。
そう思って表紙をめくった。
――――――
1990年7月22日
今日から日記をつけることにした。
ああ、あと数年で恐怖の大王が来る。
その時に私の第三の目が開き、大王を倒すの。
そして私が女王となって、世界を平和にするのよ。
――――――
……母さんがこれ書いたのって逆算したら中学生の時……あの古道具屋に行った時もだったそうだから、ずっと中二病だったのか?
まあ、全部が全部じゃないんだろ。
さて続きは……。
尽く裏切られた。
完全にいっちゃってる事ばかり書いていた。
魔法で厳しすぎる生活指導の先生呪っただの、妖精さんが問題教えてくれたから成績も上がっただの、同級生に勇者がいたから迫ったけど逃げられたって……。
そういや父さんはともかく、祖父ちゃんや祖母ちゃん、伯父さんですら母さんの事聞いたらたまに口を濁す事があった。
辛くてもあったんだろけど、これもあったからなんだな。
その後何度も机に突っ伏しつつも読んでいたら……。
――――――
1999年8月17日
恐怖の大王は現れなかった。
実際は7月じゃなくて8月16日だって聞いたけど……。
ううん、もう分かってた。
そんなの来やしないって。
けど心のどこかで来てほしいと思っていた。
だってほんとに一回滅んだ方がいいんじゃないかって、ニュースとか見てると思ったりするから……。
うん、もうこれで夢見がちはおしまい。これからは普通に行こ。
あ、次郎君にも謝ろ。
高校の時からずっと私を庇ってくれて、大学や就職先まで一緒にしてくれたもんね……。
――――――
そうだったんかい、父さんと母さんは高校で出会ったんだ。
てか父さん、よくいっちゃってる母さん好きになったな。
――――――
2001年6月16日
明日は結婚式。
次郎君は仕事で疲れてもう寝てる。
ああ、明子おばあちゃんにも見せてあげたかったなあ。
心配かけてばかりだったなあ、ごめんね。
次郎君を紹介した時はもう意識無かったけど、笑ってくれた気がした。
喜んでくれたでいいんだよね。
あと、ひ孫ができたら真っ先に見せに行くからね。
――――――
ひいばあちゃんは喜んでたよ。俺に生きて会いたかったって言ってくれたよ。
――――――
2002年10月8日
赤ちゃんが生まれて一週間。
名前は次郎君と相談して「隼人」に決めた。
強く賢く優しい人を表す名前で、これがいいって。
そうなってね、隼人。
――――――
そっか。俺の名前ってそういう意味だったんだ。
というかそれくらいは言ってよ、父さん……。
――――――
2007年10月1日
今日は隼人の五歳の誕生日。
ほんと大きくなったわ。
この子はどんな大人になるのかな。
自分のやりたい事を見つけて、進んでくれたらいいな。
ねえ、隼人。
もしこれ読んでいる時にね、まだ見つかってなかったとしても慌てずゆっくりね。
見つかっていたらどんなに辛かったとしても、ゆっくりでもいいから諦めず進んでね。
――――――
日記はここで終わっていた。
思い出した。
五歳の誕生日の後だった。母さんがいなくなったのは。
……もしかして、何か予感でもあったのだろうか?
ん? 最後のページになんか挟んである?
それは古びた長3の封筒で、中に何か入っている。
それを取り出してみると……。
「……なんだこれ?」
なんか魔方陣のような模様が描かれた紙だった。
もしかして中二病の時ので、黒歴史とは思いつつも取っておいたとかかな?
ん? 封筒になんか書いてある?
そこには「探しものが見つかるお守り」とあった。
あ、そういえば。
俺は前の頁をめくっていった。
あった。ここだ。
――――――
1991年9月9日
下校途中、クラスメイトの女の子を見かけた。
何か探してるみたいだったから声をかけたら、なんかイライラしながら「うちの猫探してるの!」って言われた。
じゃあ私も探すって言ってどんな猫か聞いた後、雑誌見て作ったお守りを手で挟んで念じた。
そしたら木の上にいるのが見えた。
それで近くの公園に行って木の上見たら、いた。
木登りしてその子捕まえて、クラスメイトに渡したら泣いて喜んでくれた。
よかった。これ本当に効くって分かって。
あの子が大事な家族を失わずに済んで。
うん、大事にとっておこう。
――――――
これがそうだったなな。
しかし母さん、いっちゃってるようで優しい人だったんだな。
……俺、今まで母さんの事よく知らなかったな。
そして最後の文……。
うん、もう見つかってるよ。
いや、キクコちゃんと出会えて決まった。
俺は探偵でやっていくよ。
たくさんの人の探しものの手伝いができるように。
そしていつか、母さんも見つけるからね。
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