第41話「父からの手紙」
その後、俺は友里さんと家に戻る事にしたが、
「あの、いいのですか? お母さんの所じゃなくて」
「はい。母が『家の中散らかっているから明日来て』っていうもので」
友里さんが笑みを浮かべて言う。
「そうですか。じゃあ今日の所はですね」
「ええ、今日もまたお世話になります」
家に帰ると、今日もキクコちゃんが出迎えてくれた。
そして友里さんのお母さんが見つかったと言うと、
「そりゃよかったべさー!」
キクコちゃんは飛び跳ねクルクル回って声を上げた。
おい、捲れてるってばっていかんいかん。
俺はすぐ目をそらした。
「あの、見えてますよ」
友里さんがそれを止めてくれたが、
「んだ? 友里さんと隼人さんしかいねえんだし、別にいいべ」
キクコちゃんはなんでもないとばかりに言った。
「へえ、じゃあ隼人さんはいつも見ているの?」
友里さんがこっちを睨んできた!
「少なくともわざと見てはいません!」
俺が慌てて言うと、
「そうですか、じゃあ私も見せよかな」
「え?」
「冗談ですよ。それはそうとして、キクコさん、ありがとうございます」
友里さんはキクコちゃんに頭を下げた。
「え、あたすは別にだべ。それよりごはんできてるからどうぞだべさ」
キクコちゃんが台所を指して言った。
――――――
食べ終わってから店での事を話すと、
「そげな事があったべか」
「お父さんだけじゃなく、お母さんもあの店にだったんですか」
キクコちゃんと友里さんが言う。
「ええ。それで母さんが買ったらしいペンダントが無いか、後で探そうと思って」
「んにゃ、探さなくても聞けばいいべ」
「え?」
「ちょっと……そうだべか。ありがとだべさ」
キクコちゃんが天井を向いて何か呟いた。
「あの、今誰と話してたの?」
「この家の精だべ」
キクコちゃんがなんでもないかのように言った。
「……そうなんかい。それで家さんは知ってたの?」
「お仏壇の隠し引き出しにあるって言ってるべ」
「え? そんなのがあるの?」
「上の方に家紋彫ってあるだべ、そこだって」
「そうか。じゃあ行ってみよう」
居間に行き、仏壇に手を合わせてから上部に手をかけて、持ち上げるようにして引くと本当に引き出しになっていた。
「あ、ほんとだ。こんな仕掛けあったのか」
そして引き出しを下ろして、中を見ると……あ。
そこにはロケットペンダントが二つ。
おそらくあと一つは、母さんがかな。
その一つを手に取って開けてみると。
「……ああ」
そこには若い父さん、五歳の時の俺。
そして……母さんが。
って、そういう事だったのかな。
「んにゃ、どしたべさ?」
「隼人さん、なんかにやけてません?」
「え、ああ。はい」
俺がペンダントの写真を見せると、
「はい? なぜメイド服?」
「おっかあ、どっかのお屋敷で働いてたんだべか?」
「違うよ。これコスプレしてんだよ」
「んにゃ?」
キクコちゃんが可愛らしく首を傾げた。
「ようするに仮装してるんです」
友里さんがそう言ってくれた。
「そうなんだべか。じゃあおっとうや隼人さんもだべか?」
「うん。俺は見た目は子供で頭脳は大人な探偵、父さんはあのとっつあんかな? けどこの組み合わせで母さんがメイドってなんだよ?」
「皆さん好きなものにしただけなんでしょ」
友里さんがそう言うが、そうかもしれないです。
父さん、とっつあん好きだったし。
「しっかす隼人さん、子供の頃も探偵さんだったんだべな」
キクコちゃんが写真を見て言う。
「うん、忘れてた。この頃はたしかに探偵になりたいなんて言ってたな」
「巡り巡ってそうなったんですね」
「ええ……しかし母さん、こうしてみるとフィギュアにちょっと似てるわ」
この写真では長い髪。
俺が見た事ある写真の母さんはどれも短いが、ウィッグでもつけてたんだろな、たぶんあの店行った時も。
だからお爺さんも似てるって思ったのかな。
「だからだったんだべな」
「うん。あ、もう一つも同じなのかな?」
そして開けてみると、やはりそうだった。
「これを三人でってことか……あれ?」
引き出しをよく見るともう一つ、折り畳まれた紙があった。
それを取り出して広げてみると……え?
「これ、父さんから俺への手紙?」
「え、そうなんだべか?」
「何が書かれて、いえ言えないなら」
キクコちゃんと友里さんが聞いてきたが、
「あ、まだ全部読んでないから、その後で」
――――――
隼人へ。
これを読んでいるという事は、おそらく俺はもういないのだろうな。
だからそのつもりで書く。
前にも言ったと思うが、俺は昔あの元伊勢の所で何かの声を聞いたんだ。
生きている、いずれ会えると。
けどな、俺ももういい歳。
これを書いている時はなんともないが、友達や歳の近い先輩後輩がまだ早いのにとなったのを見てな、俺もいつそうなるかもって思うようになったんだ。
だから、いや。
どうするかは自分で決めてくれ。
出来れば探してほしいが、その気が無いならそれでいい。
どちらにしても、もし七海に会えたらあの場所へ行ってくれと伝えてくれ。
それで分かるから。
隼人、たいしたこともせず、お前の目標を見つける手助けもせずすまなかった。
俺や七海は自分で見つけていたから、お前もいずれは自分でだろうと口を挟まなかった。
悪い親で申し訳なかった。
体に気をつけてな。
2022年5月
父 次郎より
――――――
「何がたいした事もせずにだ、何が悪い親だ……充分いい親だったし充分よくしてくれてたわ」
家と財産残してくれたし、忙しかったけど一生懸命育ててくれたし、時々は二人で話したりどこか連れていってくれてたし、成人式の後で一緒に酒飲んだじゃんか。
踏ん張れなかったのは俺自身の問題、俺こそ親不幸だったよ……。
「隼人さん」
友里さんがそっとハンカチを差し出してくれた。
ああ、泣いてたわ。
「おっとう、薄々分かってたのかもだべな」
キクコちゃんが遺影を見ながら言った。
「日付が亡くなるひと月前だし、そうだったのかも……しかしな、もしキクコちゃんが来なかったら俺はずっと引き出しに気づかなかったんだが」
俺は涙を拭いた後、遺影を見つめながら言った。
「いえ、しびれを切らした家の精さんが伝えてくれたかもですよ」
友里さんが苦笑いしながら言った。
そうかも。
「んだ、もう遅いしそろそろお風呂入って寝るべさ」
キクコちゃんが促してきた。
「そうだね。……ん?」
「どしたべさ?」
「ねえキクコちゃん、家の精ってこの家の事はいつも全部見てるの?」
「えっと『安心して。いつも見てるわけじゃないし、見るとしても居間と台所だけだよ』って言ってるべさ」
「ほっ。よかった……」
「何か見られたくないものでもあるのですか?」
友里さんが聞いてきたが、
「いや、風呂とかトイレとか見られてたらって」
「ああ、たしかにですね」
「さあさ、冷めないうちに入ってだべ。そすて今日こそまた背中を」
「いえお礼に私がしま」
「いらんから!」
俺はダッシュでその場を去った。
” ああ、また賑やかになって嬉しいな ”
……なんか声が聞こえた。
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