第38話「見つけた」

 翌日の朝。

 友里さんは早起きして朝食を作ってくれた。

 昨夜あんなだったからよかったのにって言ったら、

「いえいえ、お世話になるんですからこのくらいですよ」

 友里さんがそう言ってくれた。


「むううう、先に起きようと思ってたのに」

 キクコちゃんが頬をリスみたく膨らませて言った。

「いえ、キクコさんの方が疲れてるじゃないですか」

「そうでもないべ、まだ十七歳で若いから平気だべさ」

「私だって二十三歳でまだ若いですよ」

 あ、そうだった。友里さんは俺より一つ上だった。


「さ、どうぞ冷めないうちに」

「あ、いただきます」

 

 友里さんの朝食は美味しかった。

 ごはんと味噌汁とハムエッグで、やっぱ俺が作るより何倍も。

 キクコちゃんも美味いべって言いながらごはんおかわりしてた。



 朝食後、俺と友里さんは家を出てとりあえず北の方の店から回っていった。

 だが、午前中に行った店はどこも不発だった。

 

「そう簡単には見つからないですね」

 友里さんが額に手をやって言う。

「ええ。あ、疲れてませんか?」

「大丈夫ですよ。けどそろそろお昼にしませんか?」

「そうですね。あ、少し行った先にいいお蕎麦屋さんありますけど、どうですか?」

「あ、いいですよ。お蕎麦好きですから」

「じゃあ行きましょうか」


――――――

  

「あそこのお蕎麦、本当に美味しかったですよ」

 友里さん結構食べてたな。大盛りで。

 キクコちゃんもだけど、女の子ってもっと食べないものと思ってた。

 っと。

「よかったです。父が生きていた頃、何度か連れていってもらってたんです」

「そうだったのですね。私は父と外食なんて殆どしてませんでしたから、ちょっと羨ましいです」

「やはりお忙しいのですよね」

「ええ……思えば父は母の悪口なんて一言も言わないどころか、悪く言う私を叱ったくらいでした」

「こう言ってはなんですけど、お父さんは自分を責めていたのでは?」

 状況は違うけど、うちの父さんみたいに。

「かもしれませんね。あ、お店が見えてきましたよ」

「はい、それじゃあ頑張っていきましょうか」


――――――


 そして夕方。

「おかえりなさいだべ……ダメだったべか」

 出迎えてくれたキクコちゃんは、俺達の顔を見て察してくれた。


「はい。今日はおおよそ半分ほどで、途中で見つけたネットに出ていなかった店でも聞きましたが……」

「まあ、あと半分だしそのどこかでしょ」

 そうでないかもだが、マイナスな事言わない方がいいもんな。


「んにゃ、今日は精のつくもんこさえたからそれ食べて早く休むべさ」

 キクコちゃんがそう言ってくれた。

「ありがとね。さ、友里さん」

「はい」

 俺が友里さんの手を取ると、


「……むうう、隼人さんのどすけべ」

 キクコちゃんがむくれて言った。って、

「いや、疲れてるだろから手を引こうとしただけなんだが」

「そげなこと言って、綺麗なおてて触りたかったんだべ。どうせあたすの手はゴツゴツだべ」

 キクコちゃんが自分の手を見ながら言うと、


「あの、私もガサガサですよ」

 友里さんはそう言って手を広げて見せてくれた。

 よく見るとたしかに……ってやっぱ仕事で大変なんだな。


「あ、そうだべな。ごめんなさいだべ」

 キクコちゃんが頭を下げて言った。

「いえいえ。ああ、キクコさんの料理が楽しみです」

「んだ。ささ、おしぼりも用意してあるべ」

 そう言って二人は台所の方へ歩いて行った。


 しかし仲いいな?

 ……まさか俺、勘違いしてるだけ?


「それはそれ、これはこれだべ」

「ええ。堂々とですよね」


――――――


 翌日もまた朝から回って行き、昼を過ぎ……。

 おおよその範囲は見たけどダメで、そこで範囲内にあってもしかするとと思い、秋葉原のその手の店も回ったが……。

 最後の店を出た時はもう暗くなっていた。


 俺達は家に向かって電車の高架下横の道を歩いていた。

「すみません、想像以上の範囲だったのかもです」

 父さん、どんだけ歩くの速かったんだ。


「そんな、いいですよ。明日からはもう少し遠くを見ましょう」

 友里さんがそう言ってくれた。

「そうですね……ん?」

 ふと目をやると、高架下に一軒の店があった。

 古びた看板には「三志雄屋みしおや」とだけ書かれているが、


「あ、あれって古道具屋さんぽいですね」 

 友里さんも目が行っていたようで、そこを指して言う。

 うん、店先に古い置物もあるし。

「ここは昼間も通りましたが、見落としてたようですね。よし、入ってみましょう」

「はい」


 店に入ると、やはり古びた壁に天井、灯りは白熱電球といったレトロな感じ。

 所狭しと並ぶ古道具や人形があり、奥にレジがあってその前に見た所うちの祖父母くらいで短い白髪のお爺さんが座っていた。


「おや、お客さんかい?」

 お爺さんが気がついて俺達に話しかけてきた。


「あ、お仕事中すみません。お伺いしたいのですが、こちらに楠木、もしくは山岡やまおか(お母さんの旧姓)七海さんという方はいらっしゃいませんか?」


「ああ、七海さんのお知り合いかい。あいにくだが、今はちょっと配達に行ってもらってるんだよ」

 よおっし、最後の最後でいけた!


「あ、あの、その人はいつからここに?」

 友里さんが身を乗り出して尋ねると、

「……あんた、もしかして友里さんかい?」

 お爺さんが友里さんをじっと見て言った。

「え? はいそうです。七海の娘です」

 あれ、お爺さんは友里さんの事知ってたのか。


「そうか。いつか訪ねてくるだろうなと思っていたよ」

 お爺さんがゆっくりと頷いて言う。

「え、そうなのですか?」


「ああ。聞いている通りなら、いつかきっとってな」

 お爺さんがそう言った時、店のドアが開き、


「ただいまかえ……え?」

 入ってきたのはたぶん五十代前くらいで……友里さんに似た女性。

「あ……」

 友里さんが入ってきた女性を見て、目を見張った。


 やはりお母さんなんだな、あの人が。

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