第37話「最後まで諦めない」

 部屋が赤く光っている。

 じゃない、燃えてる!?


「あの人がいない世界なんて要らない、消してやるわ」

 付喪神がとんでもない事を言いやがった!


「ってアホか! さっさと火を止めろ!」

「嫌よ。私みたいな付喪神は魂抜きしてもあの人の所には行けないもの。だから消すのよ」

 どこのヤンデレじゃおのれは!


「ってそうだ、もう四の五の言ってられないから魔法でなんとかして!」

 俺がキクコちゃんの方を向いて言ったが、

「もうやってるけんど、あたすの力じゃ抑えきれねえべ!」

 なんだってー!?


「あ、そうか。きっとこれ夢ね。寝よ」

 友里さんが現実逃避した。

「現実だから目を開けて!」


「うう、こうなったら……隼人さん、友里さん連れて逃げてだべ!」

 キクコちゃんが立ち上がって言った。

「え、何する気だよ!?」


「禁呪法で付喪神を異空間に飛ばすべさ。けんど加減できねえから、家ごと吹っ飛ぶかもしんねえだ」

 そうなのかよ、ってまさか?

「ちょっと待て、それキクコちゃんもヤバいんじゃないのか!?」

 巻き込まれるか、そうでなくても……とか。


「そうだけんど、そんな事言ってられねえべ!」

「待てってば! こいつじゃないけどキクコちゃんがいない世界なんて、俺は」

「いいから早く逃げてだべさ!」

 キクコちゃんが必死に叫んだ。


 くっそ、何か手は、あ?


 ふと壁の方に目が入ったら、俺が中学の部活で使っていた竹刀が立てかけられいた。

 物置に片付けておいたはずなのに、何故?


 あ、もしかすると?

 ……よし。


 俺はその竹刀を取り、付喪神の方を向いて構えた。


「えっと……セイコウショウライコンゴウハジャ」

 呪文を唱えると、竹刀が光った。

「よっし! そりゃああ!」

 俺が竹刀を思いっきり振るうと、


「え、キャアー!」

 付喪神が光り輝いていき、元のフィギュアに戻った。

 ついでに燃えていたはずの部屋も元通りになっていた。


「や、やった」

 竹刀を見て思った。たぶんあの声の人がって。


「よかったべって、友里さんは」

「あ、そうだ」

 俺達は友里さんの傍に寄った。


「大丈夫ですか?」

 俺が友里さんを抱き起すと、

「う、ん? ……あれ? やっぱり夢だったんだ」

 目を開けて言う友里さんだったが、

「いえ現実です」

「……えっとあの、ドッキリとかじゃないですよね?」

「信じられないでしょうけど」

 俺が頭を振ると、

「あの、さっき魔法とか言ってたのも?」

「そうだべ」

 キクコちゃんが頷いて言った。


「……えっと、どういう事?」

 友里さんは頭を抱えて聞いてきた。

「そうですね、居間で話しましょう」




 その後、居間でキクコちゃんが入れてくれたお茶を飲みながら全部話した。

 誤魔化しても仕方ないと思って。


「キクコさんは異世界から来た魔法使い、なんですね」

 友里さんが湯吞を抱えながらキクコちゃんを見つめた。

「んだ。ひいじっちゃは外国じゃなくて、違う世界にだったんだべ」

 キクコちゃんが頷いて言った。

「そうだったんですね。けどそれならあの時くれたお茶の効果も納得できます」

「あれくらいならって思ったけんど、後でまずかったかなあとも思ったべさ」


「すみません。俺が父の部屋を勧めなければ危ない目に合わずに済んだのに」

 というか父さん、爆弾みたいなの置いて逝くな。


「いいんですよ。それより実際に魔法少女に会えるだなんてですから」

 友里さんが笑みを浮かべて言ってくれた。

「正直信じてもらえないか、信じても気味悪がられてでしたけど」

「いえ、隼人さんの目に嘘はないですし、実際にああだったし、助けられたし……けど、魔法で人を探すのは出来ないのですね? たとえば私と似たような雰囲気をというのも」

 友里さんがそんな事を言ったが、

「無理だべ。会った事ある人の気配覚えたら探せるけんど、そもそもあたすじゃこの町一帯くらいしか感知できねえべさ」

 だろうな。できるならとっくにやってただろうし。


「そうですか。じゃあ、引き続き隼人さんにお願いします」

 友里さんがそう言って頭を下げた。

「すみません。こんな目に遭わせてもだなんて」

「怖かったですけど、こんな体験二度とできないですからいいです」


「あたすもお手伝いするべ。友里さん、おっかあ見つかったらええべな」

「はい。キクコさん、助けてはもらいましたがそれとこれとは」

「んだ。別だから気にしないでくれだべ」

「ええ、ありがとうございます」

 キクコちゃんと友里さんが笑みを浮かべて頷いた時だった。


「ねえ」

「!?」

 誰かの声がした方を見ると、いつの間にかそこにフィギュアがあった。


「な、まだなんかする気か?」

 俺が立ち上がって言うと、

「違うわ。お詫びしに来たの」

「え?」


「ごめんなさい。寂しくて悲しくて、毎日泣いてたらいつの間にかあんなふうになってたの」

 フィギュアが申し訳なさそうな声で言った。

「もしかすっと、悪しき縁が憑いてたのかもだべ」

 キクコちゃんがそう言うと、

「分からないけど、ごめんなさい」


「いや、俺も父さんの部屋にずっと置きっぱなしにして悪かったと思うし。てか俺は何度も見てたんだから気づいてよ」


「たぶん意識途切れてたのかも。あ、隼人さんのおかげで頭がすっとしてね、それで思い出したんだけど、私その人と似ている人を知ってるよ」

 フィギュアが友里さんの方を向いて言った。

 やはり動くフィギュアにビクッとしていた。


「え、あの? 私と似ている人、ですか?」

 友里さんがおそるおそる言うと、

「うん。たしか名前は私と同じ七海だった」

「母と同じ……あの、その人どこにいるのですか?」

「ごめんなさい。店の名前と場所は分からないけど、古道具屋さんなのは間違いないよ。その人は私が売られていた店の店員さんだったの」

 フィギュアがそう言ったって、凄い情報くれたな。

 けどまだ足りないから聞いてみる事にした。


「なあ、あんたが売られてた店には、他にもフィギュアってか人形がいた?」

「うん。たくさんいたし、他にもいろいろな道具がいたよ」

「そうか。それと中の雰囲気はどんな感じ?」

「次郎さんの部屋に似た雰囲気だったわ」

「なるほど。あと父さんがあんたを連れて帰る時、どのくらい時間かかってた?」

「うーん、だいたい四十分くらいだったかな?」

「乗り物には乗ってなかった?」

「うん、それは雰囲気で分かったわ。止まったり歩いたりだった」

「……とすると、ちょっと待ってて」

 俺はスマホのマップアプリを開き、

「父さんの歩く速度だと出てくる移動時間より速いだろうし、信号待ちしてたとしても……最大でこの辺りくらいか」

 おおよその範囲内に古道具屋、リサイクルショップが何軒もヒットした。


「結構あるんですね、こういったお店」

「ひゃあ、あたすんとこじゃ村に一軒だけだべ」

 友里さんとキクコちゃんがスマホを覗き込みながら……あの、二人共顔が近いよ。


「っとまあ、明日ってかもう今日ですけど、片っ端から当たってみますか」


「お願いします。あと……人形さん、どうもありがとうございます」

 友里さんがフィギュアに向かって頭を下げた。

「え、お礼なんて。私が迷惑かけたお詫びでだし」

「それでもですよ」

「じゃあ、どういたしまして。お母さん見つかるとい……ふああ? なんか眠くなってきた?」

 フィギュアがそう言った。


「力の使いすぎだべ。だからしばらくゆっくり休むべさ」

「うん、目が覚めたらどうなったか、教えて……」

 フィギュアはその後、何も話さなくなった。


「……」

 俺は仏壇の傍にフィギュアを置いてあげた。

 もし母さんが見たら怒るかもだが、許してあげてって言いたい。


「さてと、もう少し寝ましょうか」

「はい」

「んだ」


――――――


「『キクコちゃんがいない世界なんて』か。でも最後まで諦めない」

 部屋に戻った友里がそう呟いた。

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