第33話「今を生きる俺達が」

 俺はキクコちゃんと一緒に海岸沿いを歩いていた。

 岬の方に海水浴場や神社、公園に慰霊碑があるらしい。


「ほんと綺麗で静かなとこだべなあ」

「先週は少し賑やかだったそうだよ。慰霊祭やってたそうだから」

「それ、風森のじっちゃや大阪のひいばっちゃが言ってた、『九軍神』のだべな」

「うん。ひいばあちゃんは別の親戚から聞いたって言ってたけど、母さんの実家がここと関わりあるのまでは知らなかったみたいだよ」


 さっきは軍神宿を見に行った。

 旅館というより少し大きな普通の家っぽかったけど。

 当然だろけど、ドラマとは違うな。


 そう思いながら眺めていると、宿の人が出てきた。

 じろじろ見ていたのを謝って訳を話したら、中に入れてくれて飾ってある写真や資料などを見せてくれて、いろいろな話を聞かせてくれた。

 そして、またよければって言ってくれた。


 ええ、可能な限り来ますよ。

 俺のご先祖様がいる場所なんだから。




 話しながらしばらく歩き、着いた場所には。


「あ、あれだべか?」

「みたいだね」

 そこには大きな石碑があった。

 真珠湾攻撃で戦死された九人の、いや。

「参加された十勇士」の石碑があった。




 真珠湾攻撃でたった一人生き残って、捕虜になった少尉さんがいた。

 少尉さんの存在は戦時中は抹消されてたそうだけど、当時はそれも止む無しだったのかもしれない。

 九人の方は九軍神と呼ばれ称えられたが、少尉さんは日本に帰った後、責めたてる声もあったらしい……。


 少尉さんは他の捕虜の自決を止め、多くの人を生かし、未来へと繋いだ。

 ご自身だって本当は、だったかもなのにそれでも……。


 それは何にも勝る大功だとひいばあちゃんが、父さんが話していた。

 聞けば祖父ちゃんやひいじいちゃんも言っていて、ひいばあちゃんが聞いた親戚の人は「九軍神と言われているが、私は十軍神と言いたい」と言っていたそうだ。


 俺も自分如きが言っていいのかだが、そうだと思う。


 隣にある九人、九軍神の石碑は六十年近く前に建てられたが、こっちは三年前だった。

 クラウドファンディングで支援を募ったそうだったが、申し訳ないですがそれ知らなかった。

 もし知ってたら俺もしたのに……。

 

 とにかく、やっと全員でかな。

 ドラマみたくじゃないにしても、今頃何してるだろうかって思う。 



「ひいじっちゃや蘇我のじっちゃだって大功を成したべさ」


 あ、うん、そうだよな。

 与吾郎おじいさんは異世界でとはいえ、その知恵と心で多くの人を。

 蘇我さんは一人の命を救い、それが多くの子供達の未来を作るきっかけになった。


「戦没した他の軍人さん、兵隊さんがどう思ってたか知んねえけんど、それぞれの思いを胸にだったと思うべさ」


 うん、どうだか知らないが……そうだよな。


「それと残った人達も同じだべ。それぞれの歩みがあったから、だべ」


 うん。キクちゃんのお母さん、アマさん。

 明子ひいばあちゃん。大阪のひいばあちゃん。


 あの時を生きた人達。

 他にも俺の知らない人達がその後を歩んで、今が……。


 これでいいのだろうか?

 

 ……いや前にも思ったが、それは今を生きる俺達がだよな。




「……さてと、そろそろ戻ろうか」

「んだ」




 俺達が黙祷した後だった。


 ふわっと柔らかい風が吹いた。


 今は冬なのに、暖かく感じる風が。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る